Vol.28 No.6 【特 集】 水産生物から創られる機能性素材 |
※下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。
水産資源の利用の現状と展望 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 福田 裕 |
私たち人類は遠い昔から水産物を捕獲したり採取して,また近代になると水産物を移植したり,また増殖や養殖で生産量を拡大してきた。
言うまでもなくこれらは専ら食料として利用されてきた。近年になり水産物から油脂やアルギン酸などの化学成分をとりだし,
食品配合剤や工業原料を製造する技術が発達してくる。 さらに最近の科学技術の進歩は,水産生物に含まれる成分が免疫,内分泌などを調節する作用を持っていることを, 次々に明らかにしてきた。これらの機能解明は,水産食品を見直すきっかけを与えてくれたばかりでなく,生活習慣病などの予防や治療の医薬品として, 生活に潤いをもたらす化粧品として,水産資源の新たな利用の道を拓いた。また,水産生物は複雑な結晶構造や高分子成分を創り出す生命工場でもあり, 真珠や珊瑚は古くから装飾品として利用されており,最近はホタテ貝殻廃棄物の利用が話題になっている。以上の詳細はこの特集の課題で紹介される。 また,地球温暖化や環境汚染の原因となっている化石燃料に代わるバイマスエネルギー資源として,海洋に生育する海藻や微細藻類および水産加工産業の廃棄物の利活用も注目され始めている。 |
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生活習慣病の予防に寄与する水産食品素材 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 村田 昌一 |
現在日本では,栄養摂取バランスの偏りや若年層を中心とする食生活の乱れに伴う生活習慣病の増加,高齢者人口の増加と健康状態の悪化が社会問題となり, これらの予防を目指した健康で豊かな食生活,すなわち,日本型食生活の再構築の重要性が一層高まっている。当研究室では日本型食生活の主要食品素材である魚介藻類の健康機能性についての科学的解析を行っている。 その結果,ワカメなどの藻類や魚のタンパク質に循環器系疾患の予防・治療作用があることを明らかにし,さらにそのメカニズムを明らかにした。 |
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魚類コンドロイチン硫酸の機能と利用 |
北海道立網走水産試験場紋別支場 今村 琢磨・武田 忠明 |
水産資源の有効活用と国民の強い健康志向に応えるため,サケおよびカスベ軟骨を原料とした機能性物質“コンドロイチン硫酸(CS)”の製造技術開発を行った。 サケ由来CSでは,精製技術(特許取得)と新規機能性(抗肥満作用)を明らかにするとともに,ムコ多糖・タンパク複合食品の製造技術を確立した。 カスベ由来CSでも,その構造を明らかにするとともに,ムコ多糖・タンパク複合食品の製造技術(特許出願)を確立し,商品化を図った。 |
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水産物コラーゲンの利用加工特性 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 大村 裕治 |
コラーゲンは主に熱水抽出によりゼラチンとして産業で利用されている。BSEの拡大により牛骨の代替原料として水産物コラーゲンに注目が集まっているが, 従来の畜産物コラーゲンとは,生物種の多様性や熱変性温度が低いことなどにより性状が大きく異なる。特に常温でのゲル形成能が低いため,従来の抽出技術と用途での利用が難しい。 水産物コラーゲンの特性を活かした利用法の開発と,いまだ解明途上であるが健康機能性の解明により今後の利用拡大が期待される。 |
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魚類培養細胞を用いる物質生産系の開発 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 守安 孝行・山下 倫明 |
魚介類由来の遺伝子機能の解析と遺伝子産物の利用技術の一環として,魚類培養細胞での外来遺伝子発現手法を活用して, 魚介類ゲノム由来の酵素・タンパク質を大量に培地中に発現させ生産する技術開発を進めている。 |
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ホタテガイ卵巣から得られる紫外線吸収アミノ酸 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 石原 賢司 (独)国際農林水産業研究センター 金庭 正樹 (独)水産総合研究センター 中央水産研究所 桑原 隆治 北海道立網走水産試験場紋別支場 蛯谷 幸司 |
ホタテガイの加工廃棄物の環境に対する負荷は大きな問題であり,その有効利用などが求められているが,ホタテガイ内臓には高濃度のカドミウムが含まれるため, その処理コストの低減化が課題となっている。ホタテガイ廃棄物の付加価値向上のため,機能性成分を探索したところ,卵巣抽出物中に, 人体に有害な太陽光紫外線AおよびB(UV-A,UV-B)を吸収する活性を見出した。活性成分を検討したところ,マイコスポリン様アミノ酸(MAA)と呼ばれる物質を4種同定した。 MAAはUV-AおよびUV-B吸収能のほかに抗酸化能を持つことが知られているため,天然の紫外線吸収剤・抗酸化剤として化粧品などへの応用が期待される。 |
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ホタテ貝殻を有効利用した新しい機能性材料の開発と実用化 |
八戸工業大学 工学部 小山 信次 |
ホタテ貝は,東北・北海道地域で養殖され,大量の貝殻が廃棄物となり,処理の問題が生じている。両地域ともホタテ貝の養殖は主要産業となっており, 解決が迫られている問題である。ホタテ貝殻の有効利用を目的として研究を行ってきた結果,高温で焼成したホタテ貝殻が,有害化学物質の軽減・分解,抗菌, 消臭,防虫,そのほかの未発表の機能を有することが判明し,産学共同研究により,これらの機能を応用した製品を実用化してきた。 開発した製品は有害化学物質を一切使用しない天然素材で,シックハウス症候群の解決,健康の確保と廃棄物の有効利用と資源化につながり, 地域の活性化にも貢献できることなどについて報告する。 |
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スフィンゴ脂質の機能とその探索 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 齋藤 洋昭 |
スフィンゴ脂質などの複合脂質は生体膜を構成し,膜表面での情報伝達に重要な役割を担っている。また,ヒトの皮膚は角質細胞間脂質に覆われ,
その角質細胞間脂質が多量のセラミドを含むことによって,潤いを保っていることが知られている。セラミドはスフィンゴ脂質の一部で,
その供給により皮膚の健全性が保たれることが明らかになり,香粧品としての利用が試みられつつある。研究用,香粧品用など種々の用途に,純度が高く,
大量の天然セラミド(スフィンゴ脂質)の供給が望まれているが,セラミドは自然界にほとんど存在しないため適切な原料素材がない。 本稿では,これらスフィンゴ脂質の存在意義や生理機能について概説するとともに,その自然界での分布や供給源の可能性について述べる。 |
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