Vol.28 No.8
【特 集】 地域の資源循環をめざした酪農


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

資源循環型酪農経営をめざして
酪農学園大学 酪農学部    干場 信司
 黒澤酉蔵翁は,日本酪農の黎明期に循環農法図を提唱した。それから50年以上経った現在,畜産・農業におけるこの循環は守られているかといえば否と言わざるを得ない。 畜産環境問題の根源は生産量と経済性に偏った評価にあると考える。今,国内総生産乳量の下方への見直しという重い問題と真剣に向かい合うべき時期にきている。 また,面積当たりの環境規制に対する対応を今から考えておく必要がある。さらに,経済性のみによる評価から抜け出して,化石エネルギー投入量,余剰窒素(窒素負荷), 家畜の健康状態および生産者の満足度を加えた5つの指標による総合的評価の必要性を主張する。
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環境問題を「地域」の視点で捉える意味
 −酪農のエネルギーバランスを事例に−
東北大学大学院 農学研究科    大村 道明
 農業の生産現場から,食料のみならずエネルギーを供給し,それによって農業地域の活性化を図るというコンセプトがある。このコンセプトの大きな問題は, 農業で消費するエネルギーよりも多くのエネルギーが産出可能か,という点にある。本稿では,バイオガスプラント(以下「BGP」と表記)を有する酪農を事例対象に, エネルギーバランスを推定した。その結果,BGPには省エネルギー効果は認められるものの,産出される再生可能エネルギーは,投入された枯渇性エネルギーと同程度に留まる可能性が示唆された。 BGPは糞尿処理施設であり,エネルギー生産施設ではないとしても,上述のコンセプトを実現するためには検討すべき多くの課題が残されていることが示された。
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家族経営の大規模化と搾乳システムの選択肢
(独)農・生研機構 生物系特定産業技術研究支援センター    平田  晃
 飼養規模が60頭を超えれば,フリーストール・ミルキングパーラー方式への移行が推奨されてきた。しかし,1頭当たりの生産コストを抑える必要からか, ここ数年,導入は経産牛120〜150頭以上に規模拡大する場合へとシフトしている。搾乳ロボットは,70〜100頭前後を中心に,単独使用あるいは既存施設との併用が, 飼養方式の1つとして定着しつつある。また,2年前にわが国で実用化された搾乳ユニット自動搬送装置は,既設を含む繋ぎ飼い牛舎30〜100頭規模をカバーする低コストの半自動搾乳システムであるが,自動給餌装置と組み合わせて,「繋ぎ飼いの高度化」という新たな選択肢を提供している。以上3者を対比した。
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今後の乳牛改良にとって重要な技術
(独)農・生研機構 北海道農業研究センター    富樫 研治
 乳牛育種は,国内のみならず世界との競争・協力のなかで,いかにわが国の酪農発展の基礎となる牛づくりを進めていくかという時代になっている。 そのような牛づくりに結びつく技術開発として,国際化対応,飼養環境と能力発現,長命性,乾物摂取量,泌乳曲線による改良について述べる。
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乳牛の飼養管理技術
日本大学 生物資源科学部    阿部  亮
 今後の酪農における飼養管理技術は「可処分所得を高めること」,「地域資源を有効に利用すること」,「酪農の職業としての地位をより高めること」を前提に考えねばならない。 可処分所得を高めるためには牛群の健康管理を地域システムとして行うことと,未利用バイオマス資源を有効に利用することが大切である。また, 未利用バイオマス資源を有効に利用するためには地域の協業を基礎とするTMR(濃厚飼料,粗飼料などをそれぞれの牛群に適応した栄養含量になるよう予め混合した飼料)センターの建設が有効であり, 同時に地域の協業のなかで酪農家自身が活性化していかねばならない。
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放牧による牛乳の栄養・機能性成分などの付与
北海道立根釧農業試験場    高橋 雅信
 十分な量の放牧草を乳牛に摂取させることで,「黄色味の強い色調」,「ビタミンEとβ-カロテンが多い」,「機能性脂肪酸であるCLA(共役リノール酸)が多い」という優れた特徴を牛乳に付加できる。 これは,放牧草が葉部割合の多い新鮮茎葉飼料で,ほかの粗飼料に比較してビタミンE,β-カロテン,多価不飽和脂肪酸の含量が多いためである。 牛乳のこれら特徴は,乳製品に加工したとき製品の黄色味が強くなるなど,「放牧を利用した地域資源循環型酪農」を消費者に具体的・視覚的に表現する方法として利用できる。
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家畜排せつ物の利用促進と環境保全
北海道立畜産試験場    前田 善夫
 家畜ふん尿に起因する環境問題は家畜飼養頭数の増加,とくに1戸当たりの飼養頭数の増加とともの顕在化してきた。畜産に係る環境問題解決には管理施設の整備だけでは不十分であり, 利用の促進こそが不可欠である。利用を妨げている要因は労働力不足や装備の不足が大きいことから,作業の外部化によって管理の適正化や利用の促進を図ることも必要となっている。 利用にあたっては,利用量および利用時期を厳守することが環境汚染防止に不可欠であり,今後は耕地面積に合った適正な家畜飼養頭数の制定も必要となる。
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地域畜産支援システムとコントラクターの役割
九州大学大学院 農学研究院    福田  晋
 資源循環型畜産の構築という観点から,自己完結型畜産経営の制約を克服する主体としてコントラクターの存在が重要になっている。コントラクターは, 粗飼料生産から堆肥散布まで畜産経営を支援するサービス事業体であり,農業者の任意組織,法人組織体,農協,農業公社など多様な形態がある。 今後,コントラクターが支援する農業システムを構築するには,委託農家とコントラクターを仲介する受委託仲介調整組織型,委託者が利用組合としての組織を形成するコントラクター利用者組織型, さらに,受託組織と委託者がクローズな組織を形成するコントラクター利用組合型などの利用システムを構築していく必要がある
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