Vol.32No.3 【特集1】 最新の農林水産研究トピックス |
遺伝子組換えカイコの作出技術を利用して,緑,赤,オレンジ色などの蛍光を持つ絹糸や非常に細い絹糸,細胞接着性を高めた絹糸等の作出に成功した。
次いで,これらの組換えカイコと実用品種との交配・選抜を繰り返し計量形質の高い系統を育成し,これらの繭から蛍光色を残したまま繭から生糸を繰糸し,
絹糸とする方法を開発した。この絹糸を用いて,これまでにないワンピース,ジャケットなどの織物やインテリア用品,人工血管などの試作に成功した。 (キーワード:遺伝子組換え,カイコ,高機能絹糸,蛍光タンパク質,大量飼育) |
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産卵場海域でウナギ親魚の捕獲に世界で初めて成功 |
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所 黒木 洋明・張 成年 |
ウナギの産卵海域と想定されていたマリアナ諸島西方の太平洋で,水産庁漁業調査船開洋丸により大型の中層トロール網を用いたウナギ親魚の捕獲調査を
実施したところ,2008年6月3,4日に成熟した雄のウナギ2個体及び雄のオオウナギ1個体,同年8月31日に産卵後の雌ウナギ2個体を捕獲することに成功した。
ウナギのみならずウナギ属の産卵場海域での捕獲は世界で初めてのことであり,全くの謎であった回遊経路や産卵生態の解明につながる成果である。
また,天然海域でのウナギ親魚の情報は,人工種苗生産技術開発における良質親魚の作出や人為的催熟法の改善に貢献できるものと期待される。 (キーワード:ウナギ,Anguilla japonica,産卵場,人工種苗生産技術開発) |
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生きた牛での脳幹機能検査によりBSBの臨床診断に役立つ方法を開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 新井 鐘蔵 |
牛海綿状脳症(BSE)は異常プリオン蛋白質(PrPSc)の伝達によって生じる牛の致死性の神経変性疾患である。現在,BSEの確定検査は死後の牛の脳を用いて行われている。
今回,われわれは実験的に作出したBSE罹患牛について,脳幹機能の神経生理学的評価法の一つである聴性脳幹誘発電位(BAEP)を用いて波形を解析し,
BSEの症状の進行に伴い脳幹の特定の部位においてBAEP波形に特徴的な変化が起こることを明らかにした。
この方法は,農場段階で神経症状を呈している牛についてBSEの疑いがあるか否かを絞り込む臨床診断技術として将来的に有用であると期待される。 (キーワード:BSE,聴性脳幹誘発電位,臨床診断,牛) |
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結晶化反応を用いた豚舎汚水中リンの再利用技術の開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 | 鈴木 一好 |
佐賀県畜産試験場 | 脇屋 裕一郎 |
佐賀県窯業技術センター | 古田 祥知子 |
神奈川県畜産技術センター | 川村 英輔 |
神奈川県農業技術センター | 竹本 稔 |
沖縄県畜産技術センター | 安里 直和 |
沖縄県農業技術センター | 眞境名 元 |
(独)農研機構畜産草地研究所を中核とする研究グループは,豚舎汚水中のリンを簡便な装置で結晶にして除去回収し,排水の水質を改善する技術を開発した。
この技術は,リンを結晶化するMAP(リン酸マグネシウムアンモニウム)反応を利用したもので,汚水中にMAPの結晶が付着する網を入れて通気することで,
水質汚濁物質であるリンを効率的に除去・回収できるようにした。
また,回収したMAPは肥料や陶磁器原料として利用できることも明らかにされつつあり,価格が高騰しているリンを再利用する技術としても注目される。
本技術は,汚水中の水質汚濁物質の濃度低減と有限資源の回収が同時に実施できる養豚農家で実施可能な技術であり,実用化に向けた今後の取り組みが期待されている。 (キーワード:豚舎汚水,リン,MAP,除去,回収) |
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イネ科作物の葉の表面などに生息する微生物が生分解性プラスチックを効率よく分解 |
(独)農業環境技術研究所 北本 宏子・小板橋 基夫 |
農業資材に生分解性プラスチック製の製品が普及してきたが,冬季など環境中の微生物の活動が弱いと,分解が遅い場合もある。
使用済みの生分解性プラスチック製品を速やかに分解するためには,分解力が高い微生物やその分解酵素を利用すると良い。しかし,今まで自然界から効率よく分解微生物を見つける方法は無かった。
私たちは,植物の表面を覆うクチンの化学構造が,生分解性プラスチックの構造と似ていることに着目し,イネやムギなどの植物から分解微生物の分離を試みた。
その結果,たくさんの酵母や糸状菌が容易に分離できること,これらが強力な分解活性を示す酵素を生産することを明らかにした。 (キーワード:生分解性プラスチック,マルチフィルム,葉面微生物,常在菌) |
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農作業の負担を軽減する「ロボットスーツ」の開発 |
東京農工大学大学院 | 遠山 茂樹・荻原 勲 |
東京都農林総合研究センター | 川村 眞次 |
NPOぐんまネット | 関根 幸子 |
日本の農業が直面する問題として,農業従事者の高齢化,自給率の引き上げ,団塊世代リタイアによる高齢農業初心者の急増がある。
これに対し農林水産省基本計画でも「軽労・省力・安全生産システム」が謳われ,緊急に問題解決が望まれている。この解決として,
先端工学である農作業のロボット化がある。われわれは農業機械化導入が難しい農業や重筋作業をアシストする農作業用装着型ロボットを開発してきた。
このために新たなモータの開発,ロボットの機構の改良を繰り返し,フィールドテストを重ねてきた。
これまで,農作業者に負担になっていた中腰の重筋作業や長時間腕を伸ばした作業,大根抜きなどの腰と膝に力のいる作業について実験を行い,大きな負担軽減の成果を得た。 (キーワード:ロボットスーツ,超音波モータ,パワーアシスト) |
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玄米単位が800kgを越え飼料米水稲品種として有望な「モミロマン」 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 平林 秀介 |
「モミロマン」は、(独)農研機構の作物研究所と九州沖縄農業研究センターが共同育成した飼料米水稲品種である。
粗玄米収量が高く、耐倒伏性に優れ、直播適性も高い。脱粒性は難であり、玄米は大粒、乳白色で食用米との識別性が高い。
その特性から、国産の濃厚飼料としての「飼料米」(子実利用)の用途が考えられる。
さらに可消化養分総量(TDN)の収量も高く、飼料米および稲発酵粗飼料の兼用品種としての利用が期待されている。
本飼料米を用いた配合飼料の実用化を検討する試験にも供され、中核的な品種として期待されている。 (キーワード:モミロマン,イネ,飼料米,飼料イネ,多収,直播 |
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イネの植物免疫反応を制御するタンパク質複合体Defensomeについて |
奈良先端科学技術大学院大学 藤原 正幸・島本 功 |
自由に移動する手段を持たない植物にとって,悪環境や病害虫から自身を守るために高度な防御応答システムを持つ必要がある。
事実,近年の研究成果により植物が非常に洗練された防御応答システムをもつことが明らかになっており,近年このシステムは植物免疫と呼ばれている。
イネの免疫システムを解明する中で,低分子量Gタンパク質OsRac1が,植物免疫を制御する分子スイッチとして機能していることを発見した。
さらに,OsRac1を中心とするタンパク質複合体Defensomeの存在を明らかにし,その構成因子であるRAR1とHSP90が植物免疫に大きく関わっていることを明らかにした。
今後,植物免疫をさらに解明することで,わが国の主要作物であるイネの病害防除研究が発展することが期待される。 (キーワード:イネ,植物免疫,OsRac1,複合体) |
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化学肥料を大幅に削減できる露地野菜向け「うね内部分施用技術」の開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター | 屋代 幹雄郎 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター | 松尾 健太・武蔵 孝仁・ 藤沢 佳行・三浦 憲蔵 |
うねの中心部の定植する苗の周辺部だけに化学肥料等施用資材を帯状に土壌と混和して施用する「うね内部分施用技術」を開発した。
単位面積当たりの肥料施用量を30〜50%削減するだけでなく,作業工程を省略化できることから,キャベツ,ハクサイなど土地利用型大規模露地野菜生産における
生産コストと作業時間の低減が可能となる技術である。
また,無駄に施用される資材が少なくなることから,環境への負荷を大幅に低減することができ,省資源で環境に優しい野菜作が実現できる技術である。
露地野菜作における標準的手法となり,野菜生産農家の経営に寄与するものになると期待される。 (キーワード:露地野菜,化学肥料,施肥,省資源,環境負荷) |
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Vol.32No.4 【特集2】 第4回若手農林水産研究者表彰 |
作物の収穫量・品種向上に果たすグルタチオンの機能解明 |
岡山県生物科学総合研究所 小川 建一 |
抗酸化物質として認識されるグルタチオンが光合成の調節を含めた生長・生理制御に機能することを新規に見出した。
グルタチオンが光合成に果たす役割を明らかにすることで,光合成能力の改善を可能にした。
光合成能力を高めることによって,収穫量や収穫物の品質の大幅な改善に繋げる技術を提供した。
本技術および関連する知見は,食料増産による食料自給率の向上や品質の改善による果実などのブランド化に大きく貢献することが期待できる。 (キーワード:グルタチオン,光合成,食料増産,糖度向上,レドックス制御) |
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分子レベルでの味覚受容機構の解明とその応用 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構食品総合研究所 日下部 裕子 |
味は食品の品質を決定づける重要な要因であるが,その評価法にはまだ分子機構を利用したものはほとんどない。
そこで,従来の評価法の補完を目的として味覚受容機構を利用した味の評価法の開発を行った。
まず,独自に開発した味覚DNAチップなどによる味覚受容関連遺伝子の探索を行い,明らかにした味覚受容機構を培養細胞に導入して味応答を人工的に再現した。
また,培養細胞の応答測定系を微小空間に集積させ評価の効率化を実現した。さらに,開発した系による呈味増強物質の探索を行い,
今までにその効果が知られていないうま味増強物質の同定に成功した。この系は科学的根拠や効率性に優れ,新たな味の評価系としての食品開発への寄与が期待される。 (キーワード:味覚受容体,呈味増強物質の探索,細胞応答測定) |
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高病原性鳥インフルエンザの診断法とワクチンの開発 |
北海道大学大学院 迫田 義博 |
2004年に国内で発生した高病原性鳥インフルエンザの原因ウイルスは,ニワトリだけでなく調べた鳥類すべてに感染し,ウイルスを排泄することを明らかにした。
また,高病原性鳥インフルエンザの迅速・的確な診断法の開発を目的として,H5およびH7亜型の高病原性鳥インフルエンザウイルスを検出するために有用なモノクローン抗体を作出し,
これを用いたH5およびH7亜型特異的簡易診断キットを開発した。
この診断キットを用いることにより,従来よりも簡便かつ迅速にウイルス抗原の検出とHA亜型の同定を行うことが可能となった。
さらに,インフルエンザウイルスの自然宿主である野生水禽から分離されたインフルエンザウイルスを系統保存し,ウイルスライブラリーを構築した。
このウイルスライブラリーの中から鳥インフルエンザのワクチン製造株として有用なウイルス株を選抜し,鳥インフルエンザのワクチンを国内メーカーと共同開発した。
本ワクチンは,1回の接種で長期間高い免疫を誘導することができる。これらの成績は,日本のみならず世界の鳥インフルエンザ対策に大きく貢献する技術開発と期待される。 (キーワード:高病原性鳥インフルエンザ,ウイルス,病原性,診断,ワクチン) |
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