Vol.32No.4
【特 集】 飼料の自給率向上をめざして


飼料自給率向上に向けた課題とその対応策
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    塩谷 繁
 わが国の飼料自給率の向上に向けて,自給粗飼料の特性からそのメリットを整理した。また,トウモロコシ,イタリアンライグラス,アルファルファ,飼料イネ・飼料米などの飼料作物, 食品残さなどの低・未利用飼料資源および放牧,コントラクター,TMR(混合飼料)センターなどについて,それぞれの項目ごとに現状の課題とその対応策として期待される技術の展望について概説した。  
(キーワード:飼料作物,自給率,放牧,コントラクター,TMRセンター,エコフィード)
←Vol.32インデックスページに戻る

トウモロコシの作付け拡大に向けて
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    菅野 勉
 トウモロコシは多収で栄養価も高く,わが国で最も重要な飼料作物であるが,畜産農家の労力不足などを背景に,近年までその作付面積が減少傾向にあった。 しかしながら,最近,省力的な収穫・調製が可能な細断型ロールベーラが開発されるとともに,北海道根釧地方向けの新しい耐冷性品種が開発されるなど,新技術の開発と普及が進み, 飼料価格が高騰する状況とも相まって,2007年以降その作付面積が回復してきている。 本稿では,トウモロコシの作付け拡大のための技術開発の現状と展望について,省力化技術および安定多収技術という観点から解説する。
(キーワード:飼料用トウモロコシ,安定多収,細断型ロールベーラ,不耕起播種)
←Vol.32インデックスページに戻る

飼料イネホールクロップサイレージの飼料特性と乳牛への給与
広島県立総合技術研究所 畜産技術センター    新出 昭吾
 飼料イネ(「クサノホシ」,出穂後30日収穫)ホールクロップサイレージ(WCS)のみを混合飼料(TMR)の粗飼料として用いる場合,泌乳前期牛では10週まで乾物25%, 10週以降30%を給与最大(限界)乾物混合割合とし,さらに,乾物摂取量を維持するためには,切断長は1.5〜3.0cmとするのが望ましい。 飼料イネWCSを多給する場合には,中性デタージェント繊維(NDF)の消化率が低いことからTMR中のNDF含量は乾物中31〜33%,また,子実排泄に伴う養分ロスを補正するために 非繊維性炭水化物(NFC)含量は乾物中38〜40%に設定し,可消化養分総量(TDN)含量も高めにする。 これらの指標値を用いて設計した飼料イネWCSを乾物20%混合した飼料イネ発酵TMRは,夏期においても,乾物摂取量,泌乳成績が良好で,繁殖成績も優れた飼料であることが農家実証で示された。
(キーワード:飼料イネ,泌乳前期,混合割合,切断長)
←Vol.32インデックスページに戻る

飼料米の飼料特性と給与技術の開発
山形大学農学部 やまがたフィールド科学センター    吉田 宣夫
 飼料米の生産・利用技術は,品種育成,栽培,収穫・調製,配合設計,給与までの体系化システムに留意しければならない。 「モミロマン」など超多収品種が育成され,畜産との連携による堆肥や液肥の利用で多収が実現できる。 ブタへの飼料米給与により皮下脂肪組織の脂肪酸組成が変化するなど,特徴のある豚肉生産が可能になる。地域では,生産から利用までの仕組み作りが課題である。
(キーワード:飼料米,イネ育種,多収栽培,肥育豚,畜産物)
←Vol.32インデックスページに戻る

繊維質食品・作物副産物の飼料調製・利用技術
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    蔡 義民
 飼料自給率を向上するためには,粗飼料を利用する大家畜生産において,これまで以上に自給飼料の利用を推進することが必要である。 また,資源循環型社会の構築および環境負荷の低減などの観点から,作物・食品副産物の有効利用が求められている。 自給飼料の有効利用を図るうえで重要なサイレージ研究において,サイレージ発酵制御に関する基礎的研究に加えて,良質な生稲わらサイレージの調製技術, 茶系飲料残さの飼料化ならびに竹未利用資源などの地域低・未利用資源の飼料化技術の開発など応用研究に展開してきた。 本稿は,これまでの農林水産省委託プロジェクト研究の成果を中心として,地域低・未利用資源の活用および自給飼料の増産に向けた繊維質食品・作物副産物の飼料調製・利用技術について紹介する。
(キーワード:飼料調製,サイレージ,繊維質,食品・作物副産物)
←Vol.32インデックスページに戻る

濃厚飼料としての食品残さ飼料利用技術の現状
日本大学 生物資源科学部    佐伯 真魚
 濃厚飼料としてブタやニワトリに給与されている食品残さ飼料(エコフィード)は,通常の配合飼料原料とは異なる特徴を持つ素材である。 品質の安定を図るための利用技術は,乾燥飼料化とリキッド飼料化の2つに大別され,それぞれ利点と欠点がある。 さらにそのなかでもさまざまな調製技術が存在し,各地で実用化が試みられている。 現在,食パン屑のように容易に利用可能な素材の利用ルートはすでに確立されている。今後は,栄養価値は十分ありながら,利用が進んでいない素材についての実用化研究が望まれる。
(キーワード:エコフィード,食品残さ,乾燥飼料,発酵リキッド飼料)
←Vol.32インデックスページに戻る

多様なウシ放牧技術の展開
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所    栂村 恭子
 土地資源を活用する放牧は飼料自給率向上の重要な柱と位置づけられている。 放牧がもたらす低コスト,省力管理,購入飼料削減などのメリットを生かすためには,土地条件や目的に応じた放牧方式を用いることが重要である。 耕作放棄地のような点在する土地を活用する小規模移動放牧,冬でも暖かい温暖地の利点を生かした周年放牧,休耕田での水田放牧の開発により, 肉用繁殖牛が放牧できる場面が広がった。 肉用繁殖牛だけでなく生産性の高い育成牛や搾乳牛に適応できる集約放牧技術も開発され,肉用牛,乳用牛の放牧が着実に広がりつつある。
(キーワード:ウシ,放牧,集約放牧,水田放牧,小規模移動放牧,飼料自給率)
←Vol.32インデックスページに戻る

飼料イネを活用した和牛の周年放牧技術の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業研究センター    千田 雅之
 大家畜経営の改善と飼料自給率の向上を図るには,放牧を基本に据えて牧草や飼料イネの特性を活かした飼養体系の構築が必要である。 飼料イネを活用した和牛の周年放牧技術は,放牧可能な繁殖牛を春から夏は牧草を利用して放牧飼養し,牧草の少なくなる秋は飼料イネを立毛状態のまま放牧給餌し, 冬は収穫したイネ発酵粗飼料を収穫圃場または周囲の放牧地で給与する。繁殖牛1頭当たりに必要な面積はおおよそ牧草30a,放牧用の飼料イネ5a,イネ発酵粗飼料用の飼料イネ15aである。 周年放牧の導入により,営農試験地の畜産農家は家畜飼養の省力化と頭数の増加を図るとともに飼料自給率を向上することができ,水田作農家は転作実施面積の拡大と6ha以上の遊休農地を解消することができた。
(キーワード:飼料イネ,放牧,ストリップ放牧,イネ発酵粗飼料,周年放牧,和牛)
←Vol.32インデックスページに戻る