Vol.32No.8
【特 集】 魚類などの行動解明により水産資源を守る


バイオロギング手法の海洋資源への利用
東京大学海洋研究所    宮崎 信之
 バイオロギングサイエンスは,世界最先端の機器を用いて得られた海洋動物の行動や環境の情報を基に,生物多様性の保護,環境保全, 地球環境変動などの課題に取り組むには大変有効なシステム科学である。 日本におけるバイオロギング研究の背景,機器開発,トピックスを紹介し,将来を見据えた「バイオロギング手法の海洋資源への利用」について考えてみたい。
(キーワード:バイオロギングサイエンス,データロガー,カメラロガー,海洋資源の利用と管理)
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日本近海でのクロマグロの行動生態と水温適応
東京大学海洋研究所    北川 貴士
 魚類の行動を直接的に測定する方法のひとつとして,バイオロギング手法の開発が進み,1990年後半からクロマグロの回遊・行動研究にも適用されるようになった。 この手法を用いて,本種の行動・生理と,個体が経験する海洋環境(東シナ海,黒潮・親潮移行域)を同時に連続計測することに成功した。 本研究では,アーカイバルタグに記録されたデータの解析を行い,本種未成魚の分布や遊泳生態,特に環境水温がクロマグロ未成魚に与える影響の程度やその応答行動の機構,体温保持機構を明らかにした。
(キーワード:クロマグロ,アーカイバルタグ,腹腔温,経緯度,水温適応)
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遊泳行動の季節変化が漁獲率に与える影響
−バイオロギングによるヒラメの事例から−
長崎大学 環東シナ海海洋環境資源研究センター    河邊  玲
 漁獲は対象魚種の遊泳行動特性に大きく影響される。バイオロギング技術を用いてヒラメの遊泳行動を調べると,活動量・活動時刻は季節的・日周的に変動した。 産卵期は活動的で昼行性の遊泳リズムとなり,非産卵期には遊泳活動量は低下したが,夜の活動量は産卵期と同等であった。 したがって,刺網や定置網など固定漁具への遭遇率は,産卵期に高く,非産卵期に低くなることから, 非産卵期に対して活動量の大きい産卵期の単位(漁獲)努力量当たり漁獲量(CPUE)の値は過大評価になるかもしれない。また,底曳網の漁獲データを利用する場合,その曳網時刻には注意を払う必要がある。 特に産卵期の場合,離底率が昼に高まるので,昼夜の間で漁獲能率に差が生じる可能性がある。
(キーワード:遊泳行動,活動リズム,ヒラメ,CPUE,季節変動)
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サケの行動解析による資源保護の可能性
北海道大学 北方生物圏フィールド科学センター    上田  宏
 我国の重要な水産資源である4種類の太平洋サケ(シロザケ・カラフトマス・サクラマス・ベニザケ)が,繁殖のため生まれた川(母川)に回帰する母川回帰行動を, 様々なバイオテレメトリー手法により動物行動学的に解析した。 また,母川のニオイを頼りに回帰するサケの嗅覚機能を様々な生理・生化学的手法により解析した。これらの最新の知見に基づき,どのようにサケ資源を保護できるかを考察する。
(キーワード:太平洋サケ,バイオテレメトリー手法,母川回帰,嗅覚機能)
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琵琶湖におけるフナ類の季節移動
近畿大学農学部水産学科    山根  猛
 琵琶湖漁業における漁獲対象種であるニゴロブナCarassius auratus grandoculis,ゲンゴロウブナCarassius cuvieriの時間・空間分布に関する基本情報を得ることを 目的に超音波テレメトリー手法により調査した。前者は南湖中央から西岸部を主滞在域とし,夏〜冬に北湖に移動する一部の個体も繁殖期にはすべて南湖に出現した。 後者は春〜初夏には南湖を主滞在域とし,以降12月まで主滞在域を北湖南端に遷し,繁殖期には南湖に出現した。移動範囲は種間で異なるが,両種は南北湖盆間を季節移動した。 前者は後者に較べてより厳密に繁殖場所を選択している可能性を示唆する。
(キーワード:琵琶湖,季節移動,繁殖場所,ニゴロブナ,ゲンゴロウブナ)
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バイオロギングおよびバイオテレメトリー手法によるエチゼンクラゲの行動解析
(独)水産総合研究センター 日本海区水産研究所    本多 直人
 エチゼンクラゲにポップアップアーカイバルタグおよび超音波ピンガーをスキューバ潜水で装着して,遊泳行動を調べた。 季節とともにエチゼンクラゲが日本海を北上するにつれて,遊泳深度は徐々に深くなる傾向があり,遊泳深度の範囲は基本的に海洋の鉛直構造に依存していた。 エチゼンクラゲは活発に鉛直移動を繰り返しており,基本的に日中よりも夜間の方が深いところを遊泳し,日中には午前より午後の方が浅く,夜間には午後よりも午前の方が深くなるという日周性があった。 動物プランクトンが多く分布する層にとどまったり,波が高くなるにつれて深く潜行したりするように,環境の変化に対応して行動する場合もあった。
(キーワード:エチゼンクラゲ,ポップアップアーカイバルタグ,ピンガー,遊泳深度,日周性)
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魚食鳥類のバイオロギング研究:歴史、現在、展望
名古屋大学大学院環境学研究科    依田  憲
 バイオロギング研究はさまざまな分類群の動物を扱うが,その中でも鳥類を対象とした研究はバイオロギングにおける一大勢力である。 特に海鳥類からは,移動,採餌,動き,生理情報など,さまざまなパラメータの取得が進んでおり,バイオロギングの研究アプローチを総括するのに適した題材である。 本稿では,海鳥類におけるバイオロギング研究を分類し,将来の展開を予想する。
(キーワード:海鳥,バイオロギング,生態,生理,環境評価)
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ウミガメ、メコンオオナマズ、ジュゴンを追いかける
−絶滅危惧種と漁業との共存−
京都大学大学院情報学研究科    荒井 修亮
 ウミガメ,メコンオオナマズ,ジュゴンは絶滅が危惧されている希少動物である。彼らの産卵場や摂餌場などは漁業や船舶航行など,経済活動が盛んに行われる場所でもある。 漁業などの経済活動と希少動物の共存のための方策は,彼らの生態についての確かな情報を基に行われるべきである。バイオロギングはこうした生態情報を得るための強力な手法である。 人工衛星による追跡からウミガメの保護には関係諸国の協力が不可欠であることが確認された。 バイオテレメトリーによる追跡から,ダム湖での人工生産されたメコンオオナマズの生態が明らかになった。ジュゴンの鳴音や摂餌音の音響計測から,漁業との共存を図るための基礎的知見が得られた。
(キーワード:ウミガメ,メコンオオナマズ,ジュゴン,絶滅危惧種,共存)
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