Vol.32No.12
【特 集】 人獣共通感染症の制御のために


家畜・家きんにおける人獣共通感染症とパンデミックの制圧
(社)中央畜産会 衛生指導部    谷口 稔明
 最近問題とされる新興・再興感染症は,人獣共通感染症の性格を有しているものが多い。畜産物の安全性など社会的な影響も多いため,人に危害を及ぼす病原体を排除し,食品として安全な畜産物を供 給するためにも種々の人獣共通感染症の制圧が極めて重要である。本稿では家畜・家きんに大きな影響を及ぼす人獣共通感染症の制御に向けた研究開発の重要性および過去の感染症の事例からパンデミック が発生する要因などについても紹介した。
(キーワード;人獣共通感染症,制圧,パンデミック,発生要因)
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高病原性鳥インフルエンザの予防対策
北海道大学大学院 獣医学研究科    磯田 典和・迫田 義博
 高病原性鳥インフルエンザの感染拡大が世界中で深刻な問題となっている。日本では早期発見,早期診断,適切な防疫措置が確実に行われており,本病を最小限の被害で食い止めている。鳥インフルエ ンザ対策として,農場内にウイルスを持ち込ませないバイオセキュリティーの徹底が重要であるが,他の家畜重要疾病と同様に,不測の場合に備えた緊急ワクチンの備蓄は必要である。われわれは,確立したイ ンフルエンザウイルスライブラリーからワクチン株を選抜し,効果の高い鳥インフルエンザワクチンを開発した。しかし,ワクチンを継続的に使用している国々で流行しているウイルスの抗原性が急激に変化してお り,ワクチン株の変更も視野に入れて対応していかなければならない。
(キーワード:鳥インフルエンザ,H5亜型,摘発陶汰,ワクチン,発症予防)
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鶏におけるサルモネラ症の診断と対策
北里大学 獣医学部人獣共通感染病学研究室    中村 政幸
 鶏のサルモネラ症では,鶏に損耗を与えない鶏パラチフスが食中毒として重要であり,これにはSalmonella Enteritidisによる鶏卵汚染と,Infantis,Typhimurium,Saintpaulなど多くの血清型による鶏肉汚染がある。診断はいずれも菌分離であり,通常法では日数がかかるため,検体数が多い場合などでは,簡易・迅速診 断法への要望が強くなっている。Enteritidisによる鶏卵汚染を原因とする食中毒は減少傾向にあるが,他の血清型による鶏肉汚染を原因とする食中毒は相対的に増加しているので注意が必要である。フードチエ ーン全体で取り組む必要がある。
(キーワード:サルモネラ,簡易迅速診断法,鶏卵,鶏肉)
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豚インフルエンザウイルスの遺伝子多様性獲得機構
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    西藤 岳彦・竹前 善洋
 A型インフルエンザウイルスは,その遺伝子が8つの遺伝子分節からなることから,複数の由来を異にしたウイルスがひとつの宿主に感染する際に,遺伝子再集合と呼ばれる機構によって新たな遺伝的背 景をもったウイルスが生まれる。豚は異なった宿主に由来するA型インフルエンザウイルスに対する感受性をもっており,自然界における人型,豚型,鳥型インフルエンザウイルスの遺伝子再集合の場となってい る。このような遺伝子再集合が自然界で豚インフルエンザウイルスの遺伝的多様性を生み出している。
(キーワード:インフルエンザ,パンデミック,豚)
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抗酸菌の抗原および遺伝子解析と診断・予防への応用
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    森  康行
 ヒトあるいは牛型結核菌をはじめとして,病原性の抗酸菌は比較的宿主域が広く,重要な人獣共通感染症の病原体である。家畜・家禽の抗酸菌症の対策は摘発・淘汰を基本として進められているが,その ためには感度と特異性が高い診断法が要求される。病原性抗酸菌の多くは発育速度が遅く,多くの共通抗原を保有していることから,抗酸菌の遺伝子解析や抗原解析が進められ,特異的遺伝子を利用した抗酸 菌迅速検出法や遺伝子組換え抗原を利用した新たな免疫学的診断法が開発されている。さらに,ワクチンによる予防戦略として,次世代型結核ワクチンの開発も進められている。   
(キーワード:抗酸菌,結核菌,ヨーネ菌,診断)
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腸管出血性大腸菌の分子疫学的解析法
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    楠本 正博
 血清型O157に代表される腸管出血性大腸菌は人獣共通感染症を引き起こすが,多くの家畜には病原性を示さず,特に本菌を保有する健康なウシを起点とする食品汚染が社会において深刻な問題となっ ている。その流行を防止するためには,病原菌ゲノムの多様性を利用した菌株の識別(分子疫学的解析)を行い,伝搬経路を特定さらには遮断することが重要である。最近の研究により,腸管出血性大腸菌は進 化の過程で規模の異なる2種類のメカニズムにより多様性を獲得することが分かっており,これを利用した迅速で簡便な新しい分子疫学的解析法が開発されている。
(キーワード:腸管出血性大腸菌,O157,分子疫学的解析,PFGE,IS―printing)
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ウエストナイルウイルスの日本国内侵入時に想定される感染伝播
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所    白藤 浩明
 ウエストナイルウイルス(West Nile virus:WNV)は,蚊の媒介によってヒトや様々な動物に感染し,熱性疾患および脳炎を引き起こす人獣共通感染症の病原体である。WNVは日本国内では見つかっていないが,世界に広く分布していることから,感 染した渡り鳥の飛来などによるその侵入が懸念されている。近年,WNV対策として様々な研究およびサーベイランスが実施された結果,日本国内にWNVが侵入した場合に,国内に生息する蚊および野鳥の間で 感染サイクルを形成する可能性が高いことが明らかとなった。このことから,今後もWNVの侵入に対する監視および検査体制を維持することが必要と考えられる。
(キーワード:ウエストナイル熱,脳炎,蚊媒介性感染症,野鳥,ウマ)
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