Vol.33No.4 【特 集】 有機農業がめざすもの |
有機農業技術の可能性と課題 |
茨城大学 農学部 中島 紀一 |
2006年12月に有機農業推進法が制定されて日本の有機農業は第Ⅱ世紀に移行したとされている。そこでは日本農業の新しい一般的な展開方向として有機農業が位置づけられ,各地で「地域に広がる有機農業」,「有機の里つくり」の取り組みが開始されている。技術展開の方向としては,自然との共生が強く意識され,低投入・内部循環の高度化の技術体系の構築が目指されるようになっている。 (キーワード:有機農業推進法,有機農業第Ⅱ世紀,有機JAS制度,地域に広がる有機農業,自然共生型農業) |
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経営活動から見た有機農業継続の必要条件 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター 高橋 太一 |
わが国の有機農業は,1970年代に環境問題や公害問題などを契機にして取り組まれ始めてからすでに40年近い歴史を持ち,2006年には有機農業推進法が施行され,大きな注目を集めている。しかし,近年,有機農業に取り組む経営は増加傾向にあるものの,その絶対数は農業全体から見れば数千戸単位の少数である。そこで,ここでは,有機農業に先駆的に取り組んできた経営の活動実態から有機農業の継続,安定化に必要な条件を抽出して提示する。必要条件の第1は技術修得,第2は販売チャネル形成,第3は運転資金の確保である。 (キーワード:有機農業,経営活動,継続,必要条件) |
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野菜の不耕起栽培、その可能性と課題 |
鯉淵学園農業栄養専門学校 涌井 義郎 |
海外の穀倉地帯で地力維持や省力を目的に始められた不耕起栽培法を野菜の有機栽培に取り入れる試みを紹介する。自然農法で取り組まれている野菜の不耕起栽培を参考にして,雨よけトマトと露地ナスで連作試験を行ったところ,生産性安定効果,低投入,病害虫低減,省力などの効果が認められた。溝施肥の部分耕や置き肥,有機物マルチ,草生などを組み合わせた不耕起栽培法は,今後より多くの野菜種で検討すべき方法である。 (キーワード:不耕起有機栽培,低投入,生物多様性,病害虫低減,省力) |
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除草剤を使わない水田雑草管理の考え方 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構東北農業研究センター 長谷川 浩 |
有機栽培では健康な作物を育み,安定した農耕地生態系を築くことで,結果として無農薬・無化学肥料体系を達成する。水田雑草管理では,① 1年生雑草は機械やチェーンを使った初期除草,多年生雑草はプラウ耕,健苗育成,元肥無施用,② 活着が良くてイネミズゾウムシの飛来ピークを回避する時期の田植え,③ 湿田では複数回代掻き,乾田では非作付期間の畝立て,などの技術要素を圃場の条件に応じて柔軟に体系化する技術開発が求められる。 (キーワード:有機水稲栽培,乾田体系,湿田体系,水田雑草) |
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化学農薬を使わない病害虫の抑止 |
埼玉県農林総合研究センター 水田農業研究所 根本 久 |
日本では有機農業での病害虫の抑止技術は大きくは発展しなかった。近年,FAOが提唱する持続型農業開発に含まれる総合的有害生物管理(IPM)技術が日本に紹介されるようになり,天敵の生息地管理,耕種法に含まれる作物管理,誘引作物および間作(共栄作物の利用)などの技術は有機農業にも適用可能である。一部の技術はすでに定着しており,それらを含めた有機農業に適用可能な総合的害虫管理技術について紹介する。 (キーワード:IPM,天敵,耕種法,間作,バンカー植物) |
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たい肥など有機質資材の活用技術 |
岡山県農業総合センター農業試験場 石橋 英二 |
有機栽培において,たい肥や有機質肥料を効果的に使うためには,それらから無機化する窒素量を適正に評価し,たい肥の施用がリン酸や塩基類などの土壌成分に与える影響を具体的に示し,養分の過不足が起こらない施肥設計を可能とするシステムの開発が必要である。本稿では,たい肥などからの窒素肥効評価法の現状およびたい肥施用による養分過剰の実態と問題点について紹介する。 (キーワード:たい肥,肥効率,反応速度,有機栽培) |
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有機農業実践のための技術組み立て -野菜作における新規就農者の実践事例- |
明治大学 農学部 佐倉 朗夫 |
近年,有機農業への関心が高まっているが,その成否は経営の維持が可能な収益が確保できるかどうかにかかっており,特に新規就農者の参入の場合は短期間で到達することが求められる。技術の標準化および平準化,単純化が難しい有機農業において,それを実現するには,多品目栽培と作型技術を組み合わせた方法が比較的容易で,自然の摂理を活用する有機農業との親和性も高いことを野菜作に
おける新規就農者の有機農業への参入事例により紹介する。 (キーワード:有機農業,新規就農,野菜,作型) |
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コマツナ有機ハウス栽培における周年安定生産技術 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構近畿中国四国農業研究センター 尾島 一史 |
雨よけハウスを利用したコマツナ無農薬周年栽培では,多様な害虫の食害による収量低下が問題となる場合が多い。そこで,主要害虫に有効な防除方法を組み合わせた総合的害虫管理技術,および土壌環境改善技術,温熱環境改善技術から成る「コマツナ無農薬ハウス栽培体系」をコマツナを中心に有機栽培を行う農家に導入した。その結果,食害葉率が約2割減少したことなどにより,10a当たり収量が本体系導入前の1.9倍の851kgに増加した。また,導入2年目には,農業労働1時間当たり所得が倍増して1,447円となった。本体系の導入は,害虫の食害が重大な問題となっているコマツナ無農薬周年ハウス栽培経営を大きく改善するものである。 (キーワード:コマツナ,無農薬栽培,総合的害虫管理,土壌環境改善,温熱環境改善) |
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