Vol.33No.5 【特 集】 食品加工の最新技術 |
食品産業への先端技術導入による高付加価値化 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 五十部 誠一郎 |
ナノテクや高圧技術などの先端技術が食品業界に導入されつつある。これらの先端技術の導入は食品工業が直面している2つの大きな研究開発の方向性に関係している。2つの方向性とは安全性や機能性などの高品質化技術と,省エネルギーや省資源などの環境保全技術である。本編では,本誌特集の7件の課題も含めて,先端技術の導入に関しての現状紹介と,非熱処理を主とした高品質化処理の面で考慮されるべきポイントや,これらの技術導入の際の留意点などについて概説し,今後の食品加工のあり方を展望する。
(キーワード:工学的単位操作,非熱処理,高品質化,省エネルギー,先端技術) |
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アクアガスや過熱水蒸気を用いた高品質食材の調製 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 五月女 格・五十部 誠一郎 |
近年,過熱水蒸気の食品加工への応用が盛んである。過熱水蒸気には凝縮や放射による高い熱伝達効率,低酸素雰囲気での加熱が可能であるなど様々な特徴があることから,これらの性質を利用し食品の殺菌,ブランチング,乾燥などを高品質かつ低コストで行おうとする試みが多い。また著者らは過熱水蒸気利用技術の一環として過熱水蒸気中に微細な熱水滴をスプレーしたシステムであるアクアガスを開発し,食品加工への応用を進めてきた。本稿ではアクアガスの性質や食品加工の例についても紹介する。
(キーワード:加熱調理,乾燥,殺菌,微細水滴,ブランチング) |
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交流高電界技術による果汁の高品質殺菌 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 植村 邦彦 |
濃縮還元オレンジジュース中の好酸性耐熱芽胞(Alicyclobacillus acidoterrestris )を交流高電界処理(HEF―AC)によって失活させる。HEF―ACとは,高電界の交流を極短時間食品に印加することにより,液状食品を瞬間的に加熱し,中の微生物を効率的に殺菌する方法である。HEF―ACを用いた好酸性耐熱性芽胞の失活効果に関して従来の加熱方法と比較検討した。HEF―AC処理は,100L/時間の処理可能なHEF―ACパイロットプラント規模の装置を開発した。オレンジジュースの中のA.acidoterrestris 芽胞に,20kHzの周波数,3kV/cmから5kV/cmの電界強度の交流電界を印加し,電極の出口でオレンジジュースの温度を110℃から125℃まで上昇させた後,0.3sから0.9sの間,その温度を保持した。HEF―AC処理では,温度保持時間が長くなるほどA.acidoterrestris 芽胞の失活率が上昇した。また,オイルバスを用いた従来の加熱とHEF―ACを比較したところ,HEF―ACは従来の加熱処理に比べて,温度保持部でA.acidoterrestris 芽胞を約30倍速く失活することが分かった。温度保持時間が短いHEF―AC処理は,原料果汁に含まれる栄養成分を多く残存した。 (キーワード:交流高電界,オレンジジュース,好酸性耐熱芽胞,殺菌) |
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ナノバブルの食品加工への応用 |
(独)産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 高橋 正好 |
ナノバブルは目に見えないほど小さな気泡であるが,気泡の周りを電解質イオンが覆うことにより安定性が保たれている。この微小気泡を含む水は工学的に応用可能な機能を伴っており,食品分野における利用が期待されている。本解説ではナノバブルの基礎特性と応用事例について紹介する。基礎特性ではマイクロバブルが水中で縮小する過程における電荷の濃縮とナノバブルとしての安定化について記述する。また,実用化事例として,ウイルスの不活化や防腐剤無添加蒲鉾の製造などについて記載する。 (キーワード:マイクロバブル,ゼータ電位,イオン類,オゾン,ノロウィルス) |
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衝撃波の食品産業への利用 |
(独)国立高等専門学校機構 沖縄工業高等専門学校 元 熊本大学 衝撃・極限環境研究センター |
伊東 繁 |
超音速である衝撃波は,物体内部を極めて短時間で通過する。伝播媒体に密度変化が存在すると,衝撃波は超音速を維持したまま衝撃波として低密度側を通過する透過波と,音速を下回る速度になることで高密度側へ反射する膨張波とに分かれる。このとき膨張波の作用により引っ張り力が生じて,スポーリング破壊と呼ばれる高速破壊現象が発生する。スポーリング破壊は含水率が高い果実などの軟化や搾汁性向上に加えて,細胞内の成分抽出を容易にするなどの効果が得られる。さらに,衝撃波は伝播速度が極めて速いことから,作用時間もまた極めて短く,これらの効果が非加熱で得られる特徴がある。 (キーワード:衝撃波,非加熱,軟化,抽出性向上,粉体加工) |
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中高圧を活用した魚介類の自己消化と低塩魚醤油の製造技術 |
広島県立総合技術研究所 水産海洋技術センター 岡崎 尚 |
静水圧による微生物の増殖抑制を利用した食品加工技術の研究を行ってきた。本稿では,最初に食品製造で腐敗に関係する微生物の静水圧による増殖抑制について示す。次に,この条件を魚の自己消化に適用し,静水圧下での自己消化条件を決定した。従来は食塩やアルコールを添加して自己消化中の微生物による腐敗を防いでいたが,静水圧による方法によって無添加・短時間(24〜48時間)で自己消化を行うことができた。また,これらの技術を発展させて,低塩の魚醤油の製造技術として提案した。
(キーワード:自己消化,低塩魚醤油,静水圧,カタクチイワシ,イカ) |
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凍結含浸法による高齢者に対応した高品質食材の開発 |
広島県立総合技術研究所食品工業技術センター 坂本 宏司 |
凍結含浸法は,酵素などを食材内部に急速導入する技術で,分解酵素などを導入すれば,形状を保持したまま食材の硬さを制御することが可能となる。また,農産物から肉,魚介類まで多くの食材に適用でき,操作が簡易で小規模施設でも技術導入しやすい面を持つ。さらに,消化器官造影検査食や胃切除術後食などの医療食分野から,未利用資源の有効利用,機能性成分の付加・増強技術など一般食品分野にも応用可能である。
(キーワード:凍結含浸,介護食,高齢者,摂食・嚥下障害,嚥下造影検査) |
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界面前進凍結濃縮法によるジュース濃縮システムの開発 |
カゴメ株式会社総合研究所 早川 喜郎 |
野菜・果実ジュースの製造工程において,濃縮プロセスは,品質・コストに最も影響を与える重要なプロセスである。濃縮法としては,蒸発濃縮法,膜(RO)濃縮法,凍結濃縮法の3つの方法が知られている。凍結濃縮法は,最も高品質の濃縮品が得られることが知られているが,未だ広く実用化されていないのが現状である。そこで,従来技術の課題となっているイニシャルコストの低減,適用できる対象物の拡大,多品種少量生産を達成できる新しい凍結濃縮技術の開発を目指している。二重配管をベースとした界面前進凍結濃縮装置を開発し,最適濃縮条件の設定,氷結晶に取り込まれる溶質の回収などの要素技術の開発を進めている。本技術は,野菜・果実ジュースだけでなく,食品全般に広く活用できる技術であり,今後実用規模装置の開発により,食品産業の発展に貢献したい。 (キーワード:凍結濃縮,界面前進凍結濃縮,野菜・果実ジュース) |
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