Vol.33No.6 【特 集】 花の色と香り |
花が人に与える効果 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 望月 寛子 |
花や緑によって「安らぎ」や「活気」を感じたことのある人は少なくない。近年,花や緑の存在が人間の生活の質(QOL:Quality of Life)を高めることが報告され,医療や福祉への活用が進んでいる。我々はフラワーアレンジメントを利用した脳回復訓練を行っており,前頭葉の機能不全に起因する認知機能障害の改善に一定の効果を認めた。訓練に花を導入することによって意欲増進や緊張の緩和にも役立ち,脳と心に働きかけることができる。花や緑の活用範囲を広げることが医療や福祉のサービス向上につながり,豊かな生活の実現に役立つと期待される。 (キーワード:QOL,フラワーアレンジメント,園芸療法,脳) |
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遺伝子組換えによる新たな花色のキクの作出 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 野田 尚信 |
花の色を担う色素の生合成に関与する遺伝子の多くが解明され,遺伝子工学的手法による分子育種が可能になり,青紫色の遺伝子組換えカーネーションやバラが市販される至っている。理論的には分子育種を利用すれば,従来の育種方法では困難であった新奇花色の花きを作出できると考えられ,花き産業の発展に一役買うことが期待される。主要な切り花であるキクでは,これまで紫や青といった青色系の花色を作出できなかった。そこで,他の植物種のF3'5'H を導入し,デルフィニジン型アントシアニンを花弁で合成・蓄積させる方法を新たに開発し,これまでにない紫色のキクの作出に道を開いた。 (キーワード:花色,植物色素,アントシアニン,遺伝子組換え,キク) |
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チューリップにおける青色発現機構の解明と育種への応用 |
富山県農林水産総合技術センター 農業研究所 農業バイオセンター 荘司 和明 |
青いチューリップは存在しないが,チューリップには花の内側下部(花底部)だけが青色を発色する品種が多数存在している。この青色発現は,花底部特異的な鉄イオンの蓄積によるアントシアニン色素(デルフィニジン3-ルチノシド)と鉄イオンとの錯体形成が主な原因であることが判明した。また,この青色化には,鉄イオンの貯蔵に関わる液胞型鉄イオントランスポーター遺伝子の発現とフェリチン遺伝子の発現抑制が関与することが明らかになった。これらの成果を基に,夢の青いチューリップを目指した形質転換体の作出を試みている。 (キーワード:チューリップ,アントシアニン,花色,鉄イオン,形質転換) |
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花の香りの役割と生成・発散機構 |
静岡大学創造科学技術大学院 渡辺 修治 |
花弁,雄ずい,雌ずいなどで生合成される多様な香気成分は明期・暗期の変化に応じ,昆虫の活動時間に同調して発散される。香気成分の複雑な生合成経路は多くが明らかにされており,生合成酵素の機能,遺伝子の発現レベルが明らかにされてきているが,その制御機構の完全な理解には至っていない。本稿では花において多様な香気成分が果たす役割,生合成・発散部位と花弁の展開に伴う変化,明暗に同調した生合成・発散の制御機構について紹介する。 (キーワード:香気成分,生合成,発散制御,バラ,局在化) |
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花の香りとその機能 |
㈱カネボウ化粧品 スキンケア研究所 駒木 亮一 |
香水に利用される香り植物は薬効があるものが多く,生薬,漢方,食品のスパイス等の素材と多く重なる。そのため,近代の合成新薬が開発されるまでは,香り植物から抽出された精油は,一種の薬として,同時に美容液としても利用されてきた。花の香りを単に嗜好性の面だけで捉えるのではなく,別の観点から見る必要がある。筆者らの研究でも,バラの香り等には鎮静効果,チロシナーズ活性阻害作用,抗酸化効果を,サフランの香りからはヒアルロン酸産生促進効果を,ムスクの香り成分からもヒアルロン酸産生促進効果を確認することができた。 (キーワード:バラ,サフラン,ムスク,ヒアルロン酸,抗酸化) |
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香りも楽しめるスイートピーをつくる |
神奈川県農業技術センター 柳下 良美 |
流通しているスイートピー品種は香りが弱い。そこでスイートピーが本来もつ優れた芳香を栽培品種に導入することを目的として,強い芳香をもつ夏咲き性品種と香りが弱い栽培品種の交雑を行い,冬咲き性で香りが強く,花色等に優れる個体の選抜を続け,F6で形質の安定した5系統を得た。専門パネルによる官能評価を行い,得られた系統の香りを評価した。芳香の強さ,香りの質,利用用途の広い花色,商品性を考慮し2系統を選抜し,「スイートスノー」,「スイートピンク」と命名し,品種登録した。いずれも冬期の温室での切り花栽培に適しており,小輪のオープン花でかわいらしいイメージである。新たな需要拡大のために,この2品種について消費者動向を調査し,その結果を基にマーケティング手法を検討している。 (キーワード:芳香性スイートピー,冬咲き性,スイートスノー,スイートピンク) |
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花の香りを化学的な制御法 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 大久保 直美 |
香りは,人が花に引かれる魅力の一つであり,バラのように香りの良い花が求められている。一方,用いられる空間によっては,ユリのような強い香りを持つ花が敬遠される場合もある。また,カスミソウのように悪臭を持つ花も存在する。これらの花の香気成分の合成経路の精査により,香気成分の前駆体や使用可能な酵素の阻害剤が明らかになった。それらを用いることにより,花の香りの抑制剤や改良剤が開発された。 (キーワード:花,香り,抑制,改良) |
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