Vol.33 No.12 【特 集】 ゲノム情報を利用した最近の作物育種 |
DNAマーカー選抜から学んだこと−イネを例として− |
(独)農業生物資源研究所 矢野 昌弘 ・山本 敏央 |
ゲノム解析研究の進展に伴うDNAマーカー基盤の整備ならびに有用遺伝子の単離同定は,DNAマーカー選抜に基づくイネの戻し交雑育種を加速し,その結果,これまでいくつかの実用品種が育成された。一方で,有用品種がもつ遺伝子の組み合わせを維持しながら複雑な農業形質の改良を目指す現在のイネ育種において,DNAマーカー選抜の適用範囲の限界も認識され始めた。近年,急速に一般化した次世代シーケンサーとタイピングアレイを利用した一塩基多型(SNP)のゲノムワイドな検出は,品種固有のハプロタイプを意識した選抜やゲノミックセレクションといった新しい個体選抜を実行可能にした。ゲノムワイドSNPの情報を活用した次世代の育種法は従来のDNAマーカー選抜の限界を打破する手段として期待できる。 (キーワード:マーカー選抜,同質遺伝子系統,ゲノムワイドSNP,ハプロタイプ,ゲノミックセレクション) |
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DNAマーカーを積極的に活用する富山県の水稲育種戦略 |
富山県農林水産総合技術センター 蛯谷 武志 |
富山県では品種改良の効率化を図るため,DNAマーカー選抜を積極的に取り入れている。具体的には,コシヒカリを遺伝背景とする準同質遺伝子系統(NIL)を対象形質ごとに育成し,それらNIL同士を交配し,優良形質を集積することにより,さらなる有望系統を育成することである。いうなれば,コシヒカリのピンポイント改良である。また,NILを育成するためには,改良形質に関与する遺伝子座を特定する必要があるが,その研究も平行して行っている。本報告では,ピンポイント改良育種法の特徴,これまでに育成した品種や系統,現在取り組んでいる内容を概説する。 (キーワード:ピンポイント改良育種法,コシヒカリ,準同質遺伝子系統,DNAマーカー) |
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小麦品種育成におけるDNAマーカー開発とMAS適用の現状 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター 石川 五郎 ・ 齊藤 美香 ・ 中村 俊樹 京都大学 農学研究科 那須田 周平 |
日本におけるコムギ品種育成において,DNAマーカー選抜(Marker Assited Selection:
MAS)は定着してきたと言える。ただ,新規マーカー開発のために使えるゲノム情報は,既に全塩基配列が解読されたイネやトウモロコシに比べて圧倒的に少ない。そのため現時点では,既存SSRマーカー,EST情報の利用,あるいは他イネ科作物のゲノム情報を比較ゲノム的に利用したマーカー開発基盤を考える必要がある。今回そのためにどのようなことが進んでいるのか,また,MASを現場に適用していく場合に見えてきた考慮点に関して述べる。 (キーワード DNAマーカー選抜,コムギ,事業育種,SSRマーカー,PLUG) |
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パン用春播小麦における穂発芽抵抗性育種へのDNAマーカーの利用 |
ホクレン農業総合研究所 乕田 淳史 |
当所で育成したパン用春播小麦「春よ恋」は2001年に北海道の奨励品種に認定され,現在もパン用の主要品種として普及している。しかし,高品質なパン用原料を安定的に供給するためには,収穫前の降雨による品質劣化を回避しなければならない。収穫前に種子が発芽する穂発芽抵抗性(種子休眠性)は多数の遺伝子が関与している複雑形質であるが,近年の研究から少数の寄与率の高い遺伝子座が明らかになってきた。DNAマーカーを用いて,3Aおよび4A染色体に座乗する種子休眠性遺伝子座を「春よ恋」に移入した系統を戻し交雑により作出した。これら作出した系統の穂発芽抵抗性は「春よ恋」よりも向上していることが示された。 (キーワード:パン用小麦育種,穂発芽抵抗性,マッピング,DNAマーカー,戻し交雑) |
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大豆におけるDNAマーカーの開発と利用 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 羽鹿 牧太 |
大豆のDNAマーカー開発は,SSRマーカーを用いた詳細な分子連鎖地図の作成とダイズゲノムの解読完了により近年劇的に進歩しており,様々な形質に関連したマーカーが開発されている。また育種の現場では開発されたDNAマーカーを用いた育種が進められ,病虫害抵抗性などを付与した品種・系統が次々に育成されている。本稿ではこれら大豆におけるDNAマーカーの開発と利用の現状について紹介する。 (キーワード:大豆,DNAマーカー,選抜,ハスモンヨトウ,難裂莢性) |
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北海道におけるDNAマーカー選抜による豆類品種の育成 |
北海道立総合研究機構十勝農業試験場 田中 義則 |
本年(2010年),北海道立総合研究機構十勝農業試験場が育成した大豆「ユキホマレR」および菜豆「福寿金時」は,豆類ではDNAマーカーで選抜されたわが国最初の優良品種である。これによりマーカー選抜は,ダイズシストセンチュウ抵抗性などの複数遺伝子座支配の形質を対象とする戻し交雑育種で有効であること,さらにインゲン黄化病抵抗性など不良形質と強連鎖する形質では大規模な集団から有用な組換え型個体の選抜に有効であることを実証した。今後も育種とゲノム,病害虫,栽培生理および品質加工分野との密接な連携によるマーカーの開発と利用により有用形質が集積された豆類優良品種の開発が期待される。 (キーワード: 大豆,菜豆,マーカー選抜,戻し交雑,複合障害抵抗性) |
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野菜のDNAマーカー育種技術開発の動向と展望 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 福岡 浩之 |
野菜におけるゲノム情報を利用した育種技術の開発研究について,DNAマーカー技術関連の成果を中心として主に農研機構を中心とする公的研究機関の基盤的研究やこれを用いた品種育成の事例を紹介する。また,特に欧米や中国を中心として近年急激に加速している海外の研究開発の動向について概説するとともに,わが国の野菜育種の将来を展望し競争力の維持・向上のための方策について論じる。 (キーワード:野菜,DNAマーカー,マーカー選抜,全ゲノム解読,バイオメジャー) |
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DNAマーカーを利用したピーマン育種技術の開発 |
宮崎県総合農業試験場 杉田 亘 |
ピーマン栽培において,土壌病害虫による被害は年々増加傾向にあり,生産現地において深刻な被害を及ぼしている。このため,効率的な抵抗性の導入が可能となるDNAマーカーを開発するとともに,各種土壌病害抵抗性を有する台木用品種を育成し,生産現地への普及を行った。DNAマーカー技術の利用により,抵抗性品種の迅速な育成が可能となるとともに,育成した抵抗性台木を用いることで,病害虫被害多発圃場においても安定的なピーマン生産が可能となり,生産性の向上に寄与できる。 (キーワード:ピーマン,DNAマーカー,抵抗性,遺伝解析) |
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果樹類におけるDNAマーカー選抜の現状について |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 山本 俊哉 |
果樹類では,種子から開花・結実まで長い期間が必要であることや栽培に広大な圃場面積と労力を必要とするため,DNAマーカー選抜が最も有効な作物である。ニホンナシでの各種DNAマーカー開発と連鎖地図作成,黒星病抵抗性や黒斑病抵抗性に関連するDNAマーカーの取得と選抜の現状,さらに,カンキツの無核性とカンキツトリステザウイルス抵抗性,カキの甘ガキ性,リンゴのカラムナー性と根頭がんしゅ病抵抗性での事例について概説する。 (キーワード:ニホンナシ,カンキツ,カキ,リンゴ,病害抵抗性,無核性,甘ガキ性) |
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DNAマーカーを利用した飼料作物育種 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 佐藤 尚 |
飼料作物育種におけるDNAマーカーの利用は,草種が多岐にわたることおよび繁殖様式から,トウモロコシ,イタリアンライグラス,ソルガムで今のところ先行している。トウモロコシの耐湿性について,近縁種テオシントが持つ地表根形成能および通気組織形成能に関するマーカーを利用して優良親系統への導入に取り組んでいる。イタリアンライグラスでは,冠さび病抵抗性に関するマーカーを利用して優良品種へ複数の冠さび病抵抗性を導入・集積することに取り組んでいる。 (キーワード:マーカー育種,トウモロコシ,耐湿性,イタリアンライグラス,冠さび病) |
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花き育種におけるDNAマーカーの利用について |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所 小野崎 隆 |
花きは種類がきわめて多く,一種類当たりの産業規模やマーケットが小さいことから,花きにおけるマーカー研究への取り組みは他の作物に比べ立ち後れていたが,2000年代に入ってからその研究事例が急速に増加している。(独)農研機構 花き研究所では,カーネーション萎凋細菌病抵抗性に連鎖したDNAマーカーを開発し,それを実際の育種に利用して,抵抗性野生種D.capitatus由来の強抵抗性を有するカーネーション新品種‘花恋ルージュ’を育成した。 (キーワード:カーネーション萎凋細菌病,種間交雑,連鎖地図,マーカー選抜,病害抵抗性品種) |
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