Vol.34 No.5 【特 集】 食品の研究:最近の展開方向 |
わが国の食を支える科学技術研究の新展開 | ||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 林 清 | ||||
高齢社会は,先進諸国のみならず後進国においても到来する必然的な社会問題である。社会的コスト負担に限界もあり,これまでの治療中心から予防へとシフトする必要がある。予防,健康寿命の延伸において「食」はその基盤であることから,わが国の食に関わる問題点,食を支える食品産業の展開方向,それに関わる最近の科学技術について解説する。 (キーワード:超高齢社会,食と健康,食品産業,科学技術,新展開) |
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食の知覚と消費者行動に関する心理学研究の最前線 | ||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 食品機能研究領域 和田 有史 | ||||
神経活動の測定技術やコンピュータの発展に伴い,人間の心に対する科学的な認識も大いに変化した。その研究対象は,特殊な実験条件における知覚現象の解明から,感情などが入り混じる日常に近い感性の解明にまで拡大しつつある。それに伴い,食に関わる人間の認識についての知見も着実に拡がっている。本稿では,"あじ"に関わる多感覚統合,視覚による鮮度知覚などの食に関わる視知覚メカニズム,消費者行動を左右する要因を概説し,実験心理学的なエビデンスに基づいた食の感性研究の最前線を展望する。 (キーワード:心理学,多感覚知覚,視覚,消費者行動) |
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医農連携による機能性食品研究の新展開 | ||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 日野 明寛 | ||||
我が国が世界に先駆けて提言した農産物・食品の機能性に関する研究開発について,世界中で活発に行われてきた社会的背景とこれまでの主要な動きを紹介し,また,超高齢社会を迎えた日本の現状と問題点を整理したうえで,今後必要となる機能性成分ごと又は農産物ごとの一貫した研究を医学,工学,農学,産業界の連携により実施し,より高度な科学的根拠を構築するための研究プロジェクトの骨格を紹介する。 (キーワード:機能性,医農連携,超高齢社会,予防医学) |
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食品の抗酸化力表示による高付加価値化を目指して | ||||
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食品が活性酸素を消去する能力(抗酸化力)を有することが注目され,統一的な食品の抗酸化力指標が産業界等から求められている。筆者らは統一的な食品の抗酸化力指標の確立・普及を目指した取り組みを実施している。統一的な食品の抗酸化力測定法としてORAC(oxygen radical absorbance capacity:酸素ラジカル吸収能)法に注目し,ポリフェノールをはじめとする親水性成分の抗酸化力を測定するための分析法を改良し,標準作業手順書を作成した。本手順書に従って測定すると,測定値のばらつきが国際的な妥当性確認の基準内に収まることが確認された。今後,本技術を利用して信頼性の高い測定を行うことにより,消費者の関心が高い食品の抗酸化力表示への展開が期待される。 (キーワード:抗酸化力,ORAC法,標準化) |
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食品表示を担保する安定同位体比分析−適用可能性と限界− | ||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 鈴木 彌生子 | ||||
食品の表示偽装問題に対して,科学的手法として,主にDNA分析・無機元素分析が挙げられる。さらに,近年,安定同位体比分析が注目を集めている。炭素・窒素・酸素・水素といった生元素の安定同位体比は,生物が育った環境を反映することから,生物固有の"化学指紋"を読み取ることにつながり,食品においては,異性化糖の添加有無の判別や産地判別の分析技術として開発されつつある。本稿では,安定同位体比分析を中心に,食品表示を裏づける最新の分析技術について,その可能性を概説するとともに,安定同位体比分析の留意点や判別における限界についても述べる。 (キーワード:安定同位体比,DNA分析,無機元素分析,産地判別,農水畜産物) |
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需要が高まる高齢者食の現状と今後の課題 | ||||
キューピー(株)研究所 健康機能R&Dセンター 伊藤 裕子 | ||||
超高齢社会に突入した日本では,高齢者食の需要がますます高まっている。加齢に伴う様々な変化,特に咀嚼や嚥下にまつわる機能低下により,高齢者食には個人差への配慮をはじめとし,物性面,栄養面,QOL面における配慮が求められる。通常の食事では摂食困難な人でも食事を楽しんでもらうと共に,介護する側への負担軽減につながる高齢者食の提供は,今後の超高齢社会を支える上で重要である。その重要性を認識した上で,日本介護食品協議会の一員として,ユニバーサルデザインフードの認知啓蒙,品質向上に,協議会加盟企業と共に取り組み,QOL向上に貢献するため引き続き努力していきたい (キーワード:高齢者,介護食,咀嚼,嚥下,ユニバーサルデザインフード) |
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食品変敗防止、食中毒防止に有用な食品微生物挙動データベースの開発 −有害微生物の増殖・死滅予測を画像表示− |
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(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 小関 成樹 | ||||
食品産業界で食品製造や衛生管理に広く利用できる,食中毒菌および腐敗菌を含む29種類の菌種,18種類の食品群における細菌の増殖する/しない環境条件(温度,pH,水分活性)と,増殖速度の情報を一括して検索可能とした微生物挙動に関するデータベースMRV〔Microbial Responses
Viewer(http://mrv.nfri.affrc.go.jp)〕を開発した。本データベースの大きな特徴は直感的な検索方式の採用と,検索結果を明快に図示する点であり,食品産業界における微生物挙動に関する情報共有の基盤となることが期待される。 (キーワード:予測微生物学,増殖,死滅,データベース) |
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