Vol.34 No.7 【特 集】 土壌資源情報:最新の研究と活用 |
土壌情報の蓄積と有効利用 |
首都大学東京 小崎 隆 |
各種の土壌調査事業や個別の課題研究から得られた土壌調査情報や圃場を単位とした営農管理情報の高度利用を目的とした土壌情報システムの歩みを振り返りつつ,そのハードならびにソフトウエアーの特性に応じた土壌および関連情報の取得,入出力管理手法の変遷と蓄積情報の利用の多様化とその制限を明らかにした。また,それらならびに日々多様化する社会のニーズと急速な情報処理技術の変化に基づき,今後のあるべき情報システムと情報利用ならびに情報発信のあり方について議論する。 (キーワード:土壌情報システム,営農管理,土地資源,情報発信,多目的利用) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
包括的土壌分類 第1次試案 |
(独)農業環境技術研究所 小原 洋 |
わが国では,さまざまな土地利用形態に共通して使用できる土壌分類法の整備が遅れていた。(独)農業環境技術研究所は,日本全国のあらゆる土地利用において使用でき,農業・環境問題に関する取り組みに適した土壌情報を提供できる「包括的土壌分類 第1次試案」を作成した。この新たな土壌分類法は,土地利用を問わず共通の土壌情報を提供できるため,さまざまな土地利用が混在する地域を対象とする炭素貯留機能,水質浄化機能,生物多様性など,環境に関わるさまざまな調査研究や行政ニーズに応える基盤となりうる。 (キーワード:土壌分類,農業・環境問題,土壌情報) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
インベントリーの利活用における土壌モノリス |
(独)農業環境技術研究所 大倉 利明 |
土壌標本(モノリス)は,土壌の分類を行ううえで,定義された分類群の代表断面として,または,レッドデータやユニークな土壌断面を記録保存するために収集されてきた。その歴史は国際的に19世紀にまでさかのぼるが,(独)農業環境技術研究所では,これまでに国内約190断面,国外約30断面の土壌モノリスを収集し,土壌試料の分析値とともにインベントリーを構築してきた。日本が開発した化学合成樹脂による剥離法によって,モノリス作成の効率が向上し,諸外国でも使われる技術となり,土壌の社会的認知の増進が期待される。 (キーワード:土壌モノリス,土壌分類) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
土壌情報閲覧システムの構築と利用 |
(独)農業環境技術研究所 高田 裕介 |
地力増進基本指針の改正に伴い,生産現場では土壌の種類や性質に応じた改善目標を設定し,改善方策を選択することが重要となった。このような状況において,(独)農業環境技術研究所では,インターネットを介して生産現場でも簡単な操作で土壌の種類や性質を調べることができる「土壌情報閲覧システム(http://agrimesh.dc.affrc.go.jp/soil_db/)」を公開した。本システムでは,①土壌分類解説,②土壌図,③基準土壌断面データベース,④作土層の理化学性データベース,⑤土壌温度図,および⑥大日本帝国土性図(フェスカ式土性図)を閲覧することが可能である。本システムには平成22年に公開した後,1年間で約30万件のアクセスがあり,生産現場を始めとした多くの分野において土壌情報に寄せる期待の大きさが伺えた。 (キーワード:土壌図,土壌分類解説,土壌情報,土壌断面データベース,フェスカ式土性図) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
土壌情報と数理モデルを利用した河川における農薬濃度の推定 |
(独)農業環境技術研究所 稲生 圭哉 |
農耕地などで使用される農薬の一部が水系などへ移行し,飲料水源の汚染や生態系へ悪影響を及ぼしているのではないかという懸念が強まっている。欧米では農薬の物理化学性,土壌の特性などを用いて農耕地における農薬の挙動を予測する数理モデルの開発研究が進められてきた。しかし,欧米では農耕地に占める水田の割合が小さいため,水田における農薬の挙動を予測する数理モデルの開発研究は非常に少ない。本稿では,筆者らが開発した水田で使用する農薬の濃度予測モデル(PADDY,PADDY―Large)について紹介する。
(キーワード:水稲用農薬,環境動態,数理モデル,土壌特性,流域特性) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
土壌情報とモデルを利用した農地の土壌炭素量変化の全国推定 |
(独)農業環境技術研究所 白戸 康人・矢ヶ崎 泰海 |
英国で開発された土壌炭素動態モデルであるローザムステッド・カーボン(RothC)モデルを,まず,日本の農地土壌における長期連用試験データを活用して検証した。非黒ボク土畑ではモデルの計算値が,土壌炭素量の実測値の経時変化と精度良く適合した。黒ボク土畑と水田ではモデルが実測に精度良く適合しなかったため,それぞれの土壌有機物動態の特徴を考慮した改良を行い,改良モデルを提案した。次に,これらの改良を行ったモデルを日本全国の農地に適用し,2種類の有機物投入シナリオのもとでの土壌炭素量の変化を全国計算した。この全国計算の不確実性を小さくするには,気象,土壌,土地利用変化,農地管理などの面的情報の整備が重要である。 (キーワード:土壌炭素モデル,気候変動,温暖化緩和,土壌有機物,ローザムステッド・カーボン・モデル) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
森林における枯死木、リター、土壌の炭素蓄積量の全国調査 |
(独)森林総合研究所 金子 真司 |
森林は,生態バイオマスに加え,枯死木やリター(落葉)や土壌にも多量の炭素を蓄えていることから,国連の気候変動枠組条約では地上部と地下部のバイオマスに加えて,枯死木,リター,土壌も炭素吸排出報告の対象になっている。この報告の信頼性を高めるため,森林における枯死木,リター,土壌の炭素蓄積量の全国調査が計画された(平成18~22年森林吸収源インベントリ情報整備事業)。森林総合研究所では調査・分析方法を定めるとともに都道府県研究機関や民間会社と協力してこの調査を行った。ここでは,この調査の内容や4年目までの成果の概要を紹介する。 (キーワード:地球温暖化,枯死木,リター,森林土壌,炭素蓄積量,インベントリ調査) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
土壌情報を利用した作物生産力評価 |
株式会社ズコーシャ 丹羽 勝久 |
農耕地土壌の作物生産力を評価するためには,土壌情報に作物収量情報を重ねることにより,土壌タイプ別の作物収量特性を明確にすることが必要である。そのためには,詳細な作物収量データの収集を行う必要がある。本報告では,北海道十勝地域を対象として,集落別に詳細な収量データを持つテンサイに着目し,土壌別の作物生産力評価を行った事例を紹介する。 (キーワード:集落別収量,テンサイ,有効土層,排水改良,気象変動) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|
衛星データ、デジタル土壌図など土壌情報を利用した環境影響評価 |
千葉県農林総合研究センター 八槇 敦 |
井戸水や河川水から環境基準値を超える硝酸態および亜硝酸態窒素が検出され,その一部は農地における施肥や有機物施用に由来することが指摘されている。このような地域では,農地から流出する硝酸態窒素量を面的に把握し,削減対策を進めることが求められる。そこで,衛星データ,デジタル土壌図,土壌特性および土地利用などの土壌に関する情報を地理情報システムで統合して,千葉県の畑土壌に関する100mメッシュの窒素負荷量図と年間浸透水量図を作成した。これらの図を活用して,農地から流出する硝酸態窒素による負荷を地域的に評価し,低減化対策を進めていくことが期待される。 (キーワード:土壌情報,ランドサットデータ,土壌図,環境負荷,100mメッシュ図) |
←Vol.34インデックスページに戻る
|