Vol.34 No.10
【特 集】 国産材の活用に向けた研究開発


国産材の資源と利用の現状
(独)森林総合研究所    林 知行
 国内の森林資源量や国産材の利用状況について概説するとともに,国内林業を再生させるべく策定された森林・林業再生プランの目標を達成するために解決すべき諸課題について述べる。
(キーワード:国産材,森林・林業再生プラン,木材利用,公共建築物等木材利用促進法)
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スギ構造材の乾燥技術の現状と課題
九州大学大学院    藤本 登留
 国内の森林資源で最も豊富なスギは柱などの心持ち構造材に多用されている。乾燥の際に割れやすく,内部まで乾燥するには時間やコストがかかり,含水率のムラも大きいことから,新たな乾燥技術の開発が求められてきた。「高温セット処理」の開発で表面割れ防止が可能となり,これを応用した乾燥システムの開発が急速に進展している。高温セット処理は乾燥初期から100℃以上の高温,低湿度条件で極端な含水率傾斜,応力,ドライングセットを形成し,木材本来の収縮異方性を変えてしまう積極的な品質改善法といえる。しかし,この積極的な高温処理は内部割れや材色,耐朽性,強度性能の劣化を引き起こす原因にもなる。木材の乾燥ムラや乾燥エネルギーの低コスト化,低環境負荷化の対策とともに,高温セット処理材の欠点対策が今後の課題となっている。
(キーワード:心持ち材,構造材,木材乾燥法,高温セット処理,表面割れ)
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国産材を原料とした厚物構造用合板
セイホク株式会社    谷川 信江
 近年の木造住宅,特に在来軸組構法の床で厚さ24mm以上の厚物構造用合板を使用する工法が急速に普及しており,2010年度実績では,厚物構造用合板の生産量は月産100万枚を超えるまでに増加し,そのうち8割以上が国産材を用いている。この国産材を利用した厚物針葉樹構造用合板の製造開発経緯と,45分準耐火構造の床,倍率5.0の高倍率耐力壁および屋根への新規利用開発について紹介し,現在の利用状況と今後について述べる。
(キーワード:国産針葉樹,厚物構造用合板,ネダノン,面材耐力壁,水平構面)
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構造用集成材へのスギ材の利用
(独)森林総合研究所    宮武 敦
 近年,1戸建て住宅の柱や梁に構造用集成材が多く利用されるようになってきた。しかし,この原料には欧州からの輸入材が主として使用されてきた。国産材の太宗を占めるスギを構造用集成材の原料として利用するための異樹種複合や幅はぎ接着などの技術開発を民間企業,都道府県の林産関係研究所および森林総合研究所が連携して行った。また,集成材JASの見直しにおいてこれらの研究成果に基づいて技術的に可能な規制の緩和が検討され,その一部が改正された。最近では,国内生産される集成材の国産材の使用比率は徐々に上昇している。
(キーワード:スギ,構造用集成材,異樹種複合,幅はぎ,日本農林規格)
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国産材の難燃化処理技術
(独)森林総合研究所    原田 寿郎
 難燃薬剤を木材に含浸させることにより,木材を燃えにくくすることは可能であり,不燃材料や準不燃材料の性能を有する内装用木材が開発されている。しかし,水溶性の薬剤を注入するため,吸湿により薬剤が結晶となって表面に出てくる現象への対応や雨がかかる屋外での使用への対応は今後の技術的課題である。また,木材への薬剤注入では,注入量のばらつきを伴うので,そのことを踏まえた品質管理も重要な課題である。内外装材料のみならず,耐火集成材など構造材料への難燃処理木材の利用も,今後,期待される応用分野である。
(キーワード:木材,難燃化処理木材,不燃材料,準不燃材料,耐火集成材)
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木造建築における国産材利用の現状と課題
株式会社 ドット・コーポレーション    平野 陽子
 木造住宅と中大規模木造建築物における国産材利用の現状について,近年の施策から見えてきたことを網羅的に紹介する。木造住宅については,長期優良住宅先導事業や2×4住宅部品の開発事業などに見られるように,さまざまな規模の住宅供給事業者が国産材への取り組みを強化しており,今後の展開を期待したい。中大規模木造建築物については,他の構造とは異なる状況を分かりやすく示し,設計者・施工者が新たに取り組む際の労力低減対策が求められる。また,技術的な課題としては,木造の魅力を打ち出しやすい準耐火建築物を軸に,用途や規模などのターゲットを絞った効率的な技術開発が有効と思われる。
(キーワード:木造住宅,中大規模木造建築物,国産材利用,準耐火建築物,人材育成)
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土木にもっと木を
(財)建築研究協会    今村 祐嗣
 かつての土木工事では木材が主要な材料の1つであったが,現在ではその使用は限定されたものになっている。しかし,土木の分野においても木材利用による環境貢献が注目され,特に国産材をもっと使っていこうという動きが出てきた。木橋や遮音壁などの道路関連施設,ダムやえん堤などの治山治水工事,あるいは地盤補強などに木材を利用する例を示しながら,土木分野に木材利用を広げるための課題について考えてみたい。
(キーワード:土木,木杭,木橋,遮音壁,ダム,景観,耐久性,環境貢献)
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国産材のマテリアル新素材変換・利用技術の開発
(独)森林総合研究所    大原 誠資
 木材利用は炭素循環の中にある。森林は木材を生産し,製材品・合板などの木質材料を通して住宅・建築物などに使用される。木質材料を造る過程あるいは住宅・建築物を解体する際には大量の木質バイオマスが発生する。これらを石油代替のマテリアルとして利用し,最後に燃焼すれば,発生する二酸化炭素は再び森林に吸収・固定化される。本特集では,木質バイオマスのマテリアル新素材の開発に焦点を絞り,リグニン由来機能性素材,セルロースナノファイバー,樹木精油(香り成分)由来健康増進資材および木質・プラスチック複合材の製造技術に関する最近の研究開発動向を概説する。
(キーワード:マテリアル新素材,リグニン由来機能性素材,セルロースナノファイバー,樹木精油由来健康増進資材,木質・プラスチック複合材)
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