Vol.34 No.11 【特 集】 環境にやさしい農薬開発の最新動向 |
化学合成殺菌剤の開発状況と今後の課題 |
JA全農営農販売企画部 富士 真 |
化学合成殺菌剤は,時代の変化とともに,安心や安全,環境との調和が図れる殺菌剤へと変遷してきた。農業従事者の高齢化は,より少ない散布回数で,より労力をかけない,結果として環境負荷の少な
い防除法の開発を推し進めてきたと言えよう。本稿では,近年の新規化合物の登録状況と最近の開発状況について,作用機構による分類を基に整理するとともに,時代背景との関係についても言及した。また,
新技術の最近の開発状況について,時代背景との関係から分析した。耐性菌の発達と殺菌剤開発との関係ついても考察を加えた。これらの状況を踏まえ,今後の課題について分析した。
(キーワード:殺菌剤,作用機構,環境,省力,耐性菌) |
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病害対象生物農薬開発の現状と展望 |
(独)農業環境技術研究所 對馬 誠也 |
我が国の生物農薬の歴史は,1954年のトリコデルマ菌の登録から50年以上の歴史がある。その後長い間開発は停滞していたが,1998年のバイオキーパー水和剤の登録以降,急激に商品化が増え,2
010年5月現在12社25剤,出荷金額は2008年時点で7億9千万円と年々上昇傾向にある。しかし,その一方で,これまで多くの研究者が生物農薬の研究に取り組んできた割には,商品化が順調にいっていると
は必ずしも言えないと研究者は考えている。生物農薬への期待が多くなる中で,どのような研究,戦略が必要かを考えることが重要になっている。ここでは,日本における研究の現状と展望について報告する。
(キーワード:生物農薬(殺菌剤),環境保全型農業,IPM) |
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化学合成殺虫剤開発の現状と展望 |
日本農薬株式会社 西松 哲義・上原 正浩 |
1990年代以降,世界的な人口爆発の予測に伴った食料問題が提起されている。その解決手段の一つとして病害虫・雑草の防除による食料増産は不可欠であり,化学合成農薬の担う役割は大きい。一方
で農薬による環境負荷が国内外で取り上げられ,環境に優しい農薬の開発が求められている。特に殺虫剤では,従来からの哺乳動物に対する安全性に加え,非標的生物への安全性も高く,選択性の高い薬剤
の研究が進められ,昆虫特有の脱皮を阻害する昆虫成育制御剤(IGR)や,作用点レベルで選択性の高い薬剤が開発されている。今後も,本来の害虫防除性能を有するだけでなく,より一層,環境に優しい化学
合成殺虫剤の開発が求められるであろう。
(キーワード:化学合成殺虫剤,選択性,IPM,抵抗性管理) |
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害虫対象生物農薬開発の現状と展望 |
アリスタライフサイエンス株式会社 和田 哲夫 |
世界で最も多く使用されている生物農薬は昆虫ウイルス製剤である。その使用面積は数百万ヘクタールを超えるものがある。BT剤も一般に最も使用されている生物農薬と考えられるが,遺伝子組み換え
植物に利用されているBTタンパクの遺伝子も生物農薬の一種と考えれば,これが最大の生物農薬ということになる。実際米国では生物農薬の範ちゅうに含まれている。効果の高いボーベリア菌やメタリジウム
菌,昆虫疫病菌類を利用した微生物殺虫剤の今後の利用拡大および新規開発が期待される。各国では登録が必要ない天敵昆虫は主に施設栽培での利用が多く,市場が小さいため,低コストで開発できるよう
な登録システムへの移行が求められる。
(キーワード:生物農薬,微生物殺虫剤,天敵昆虫,昆虫ウイルス,生物農薬登録) |
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水稲除草剤開発の現状と展望 |
(財)日本植物調節剤研究協会 横山 昌雄 |
除草剤の開発は有効成分の探索から農薬登録,商品化まで,対象とする雑草,省力性や利便性の追求,安全性や環境負荷などいろいろな項目を検証している。スルホニルウレア化合物の開発以降の有
効成分の低成分化,一発処理剤,一キロ粒剤,フロアブル,ジャンボ剤などの利便性を追求した省力散布剤の開発,更に田植同時散布にみられる散布技術の開発,安全性や環境影響に配慮した除草剤の開発
と普及後の検証など,水稲除草剤は多様な機能を持つ除草剤として開発され,農家に雑草防除の資材として速やかに受け入れられてきた。今後,消費者にも受け入れられる除草剤の開発が求められる。
(キーワード:スルホニルウレア,多年生雑草,SU抵抗性バイオタイプ,一発処理剤,低成分高活性,土壌残留) |
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製剤化技術の現状と展望 |
クミアイ化学工業(株) 藤田 茂樹 |
環境負荷低減を農薬製剤に求める場合,ドリフトや漏水,落水などにより,有効成分が本来留まるべき場所から系外に出てしまうことを抑えることや,化学物質の投下薬量を少なくすること,環境負荷の
影響が少ない成分を用いることなどの方向性が考えられる。このような視点で近年実用化に至った製剤として,豆つぶ製剤,微粒剤F,微生物農薬,微生物農薬と化学農薬の複合製剤,および高度な溶出制御を
施した粒剤があり,これらの製剤についてどのような製剤であるか解説する。
(キーワード:農薬製剤,環境負荷,微生物農薬,ドリフト,溶出制御) |
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散布技術の現状と展望 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構生物系特定産業技術研究支援センター 宮原 佳彦 |
農薬散布作業は,病害虫防除のために欠かせない作業であるが,作業時のほ場外への農薬飛散(ドリフト)を防止あるいは極力抑制することが課題となっている。これは,農薬残留基準に関するポジティ
ブリスト制が実施されていることから,農薬を散布するほ場に近接して栽培される別の作物から,設定された残留基準値を超える農薬が検出されるリスクを可能な限り小さくするためである。本稿では,散布作業
時のドリフト低減を目的に近年実用化された散布機器(ノズル,散布装置等)を紹介するとともに今後の展望を述べる。
(キーワード:噴霧機,ブームスプレーヤ,スピードスプレーヤ,ノズル,ドリフト) |
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米国およびEUにおける農薬規制の動向 |
(独)農林水産消費安全技術センター 早川 泰弘 |
農薬の販売・使用の主要な国・地域である米国や欧州では,過去20年間において,農薬の安全性の再評価や安全使用対策が推進されてきた。米国では,1988年に改正された「連邦殺虫殺菌殺そ剤法」(
FIFRA)に基づき農薬の再評価が行われ,1996年に施行された「食品品質保護法」(FQPA)に基づき,残留農薬基準の再評価や総合的病害虫管理(IPM)の推進等がなされている。EUでも1991年に公布された「
植物防疫剤の販売に関する理事会指令(91/414/EEC)」に基づく既存農薬の再評価,2005年に公布された「農薬の残留基準設定に関する欧州議会および欧州理事会規則(EC)No396/2005」に基づく残留
農薬基準の再評価や「農薬の持続可能な使用の実現のための枠組み指令(2009/128/EC)」に基づくIPMを含む広範な農薬の安全対策の推進が行われている。
(キーワード:米国・EUにおける農薬と残留農薬基準の再評価,米国食品品質保護法,EU植物防疫剤の販売に関する指令,EU農薬の安全使用対策に関する指令) |
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