Vol.34 No.12 【特 集】 米粉利用技術の新展開 |
米粉利用食品の展望 |
新潟大学大学院 自然科学研究科 大坪 研一・中村 澄子 |
世界の食糧需給は逼迫が予想されており,米粉の消費拡大による自給率向上が必要とされている。米粉は,従来,米菓や調理用に利用されてきたが,最近,パン,麺,菓子などの小麦粉分野の新規需要
への利用が求められている。これまで,農水省の新形質米研究プロジェクトや新潟県食品研究センターの微細米粉製造技術などの研究蓄積があるが,最近,農水省の米粉利用推進や新潟県のR10プロジェク
トなどで加速されている。筆者らは,食総研および新潟大で新形質米および超硬質米の利用研究を行い,糊化練り込み技術や超硬質米の機能性を活かした新規食品の開発を行ってきた。新潟県では,米粉の
規格化に関する委員会を発足させることで米粉用途の明示や消費拡大を目指している。今後は,小麦粉の代替にとどまらず,食味や機能性など,米粉の特徴を生かした新用途の開発が必要とされている。全
国の産学官共同研究によって,米粉利用食品の研究開発がさらに進展するものと期待される。
(キーワード;米粉,新形質米,超硬質米,機能性,規格化) |
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米粉用米の品種開発の実例と今後の展開 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 三浦 清之 |
食料自給率の向上と生産調整の円滑化を目的として,農林水産省では,戦略作物の新規需要米として米粉用米(米以外の穀物代替となるパン・麺などの用途に使われる米)の栽培を推進している。この情勢下において,麺線の付着性が少なく,弾力性のある麺ができ,米粉100%の製麺が可能な高アミロース水稲品種「越のかおり」および米粉パンとして利用可能な多収穫品種「北陸193号」を育成したので,その概要を紹介するとともに,米粉用品種の今後の展開について述べる。 (キーワード:水稲,品種,麺,パン,多収穫) |
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粉質米の米粉への利用と品種開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター 芦田 かなえ |
小麦代替利用に適した米粉には,胚乳澱粉の損傷が少なくかつ粒子径が細かいという性質が求められる。このような米粉を製造するために,米の軟化処理と湿式製粉が行われているが,大規模な製粉設備と複雑な製粉工程が必要である。今後,米粉の利用を拡大するためには,簡便な製粉方法でも加工に適した米粉になる品種を開発する必要がある。近年,粉質米と呼ばれる粳(うるち)の突然変異米が,米粉への加工に適していることが分かってきた。粉質の形質を持つ米粉用品種の育成が全国で進められている。 (キーワード:米粉,粉質米,乾式製粉,品種開発) |
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米粉の多様な製粉技術と品質特性 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 岡留 博司 |
米粉製造にはロールミル,胴付き粉砕機,ピンミルや気流粉砕機など様々な原理の粉砕機が使われているのが現状である。また粉砕機の種類や吸水の有無など粉砕条件によって米粉の粒度,ハンドリング特性や加工適性が大きく変動することが知られている。製粉方法が米粉の製パン性に与える影響については湿式で微粉砕した米粉は粒度が細かく,パンの比容積が増大傾向を示す報告事例が多い。幾つかの作物由来の澱粉を用いた乾式微粉砕では数μm程度まで微粒子化すると澱粉の糊化特性が類似することが示された。 (キーワード:米粉,粉砕機,比容積,損傷澱粉,糊化特性) |
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高品質な米の製粉技術の開発とこれを用いたパン・麺の製造 |
新潟県農業総合研究所 食品研究センター 高橋 誠 |
米の消費は減少傾向にあり,用途・消費の拡大が強く求められていた。従来法の米粉は粒度が粗く用途拡大が困難であったが,新潟県では硬い米を微細に粉砕するため二段階製粉技術,酵素処理製粉技術を開発し,微細で高品質な米粉を得ることに成功した。また微細米粉を利用した新規食品として,グルテン添加米粉パン,グルテン無添加米粉パンおよび高アミロース米「こしのめんじまん」を利用した米粉麺について,製造技術の概容や特徴を紹介する。さらに,米粉利用の今後の課題について述べる。 (キーワード:米,粉食化,微細米粉,米粉パン,米粉麺) |
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多収穫米・新形質米による米粉パンの製パン特性 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所 青木 法明 |
多収穫米は低コスト栽培が可能であるが,多くの品種は食味が劣るために炊飯米には向いていない。しかし,アミロース含有率がやや高く,糊化温度が低い品種を選定すれば多収穫米でも米粉パンに向いている。窒素施肥量の多寡による米粉パン特性への影響は少ないため,多肥栽培により得られた米でも米粉パンに使用できる。また,長時間の吸水処理により作成された玄米粉を活用することで,機能性成分を多く含む高品質な米粉パンが得られる。 (キーワード:多収穫米,新形質米,米粉パン,窒素施肥,玄米粉) |
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米粉パンの大量製パン技術の開発 |
(株)山崎製パン 中央研究所 後藤 雅文 |
食料自給率の向上が叫ばれ,米粉の利用研究が求められる中,農水省の米粉利用に関するプロジェクトに参画し,大量製パンラインにおいてより多くの米粉利用を進めるための製パン技術の開発を行った。大量製パンラインで課題として挙げられる,米粉生地の機械耐性,安定性の確保を目的に試験を行い,小麦粉の半分を米粉に置換するためには,フラッシュドライ製法のバイタルグルテンが小麦粉と米粉の総重量に対し12%必要であり,70%標準中種法(本文参照)の中種と本捏生地に米粉およびバイタルグルテンを7:3の割合で使用し,さらにバイタルグルテンの一部をグリアジン製剤とすることで,生地の安定性を図ることができ,これらの課題が達成可能であることを実際の大量製パンラインで実証した。 (キーワード:米粉パン,大量製パン,バイタルグルテン,グリアジン,中種法) |
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炊飯米を利用した「ごはんパン」 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 奥西 智哉 |
炊飯米を製パン材料に用いることでパンの品質を向上させることができる。それは,官能検査による食味評価とパンの膨らみを表す比容積によって支持される。炊飯米はパン生地の様相を変化させ,発酵ガスの漏出を少なくさせることが膨らみを維持する一因である。米品種はパン比容積に影響を与え,アミロース含量あるいは炊飯米物性がその主要因となる。ミキシング工程を改変することによる「ごはんパン」製造は製パン現場に適用できる。さらに,家庭用ホームベーカリにもその技術は応用されている。
(キーワード: ごはんパン,炊飯米,官能評価,比容積,ホームベーカリー) |
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多様な調理への米粉の利用 |
秋田大学 教育文化学部 長沼 誠子 |
食生活の多様化に対応した米の用途拡大が求められており,その一つに米粉の利用がある。本稿では,米粉の調理科学研究の事例として,米粉の微粉化と調理特性,ゲル状食品への利用,多孔質食品への利用について紹介する。今後,米粉の普遍的な調理特性を解明するとともに,地域食材としての米粉の活用方策に貢献することが期待される。 (キーワード:米粉,微細米粉,調理,ゲル状食品,多孔質食品) |
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