Vol.1 No.4 【特集1】 第8回若手農林水産研究者表彰 |
ブドウ根頭がんしゅ病の拮抗細菌および生物的防除法 |
岡山県農林水産総合センター 川口 章 |
ブドウ根頭がんしゅ病はブドウの難防除病害として世界中で問題になっているが,本病の正確な診断には多大な労力が必要であり,有効な防除手段がなかった。そこで,病原細菌を簡易かつ迅速に検出できる遺伝子診断法を開発した。さらに,本病の防除に活用できる拮抗細菌の簡易・迅速なスクリーニング方法を開発し,本病の発病を最も強く抑制する菌株を選抜した。また,それらの菌株を用いた本病の生物的防除法の開発に取り組み,菌株の懸濁液にブドウ苗木の根を浸漬することによって,定植後の発病を強く抑制することに成功した。今後は,本生物的防除法を実用化するため,世界初のブドウ根頭がんしゅ病防除剤の開発を進めていく予定である。 (キーワード:ブドウ根頭がんしゅ病,遺伝子診断,生物的防除,拮抗細菌) |
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食中毒苗の簡易迅速検知技術の開発と実用化 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 食品総合研究所 川崎 晋 |
食中毒事件の未然防止のため,食品製造現場での衛生管理業務,特に食中毒菌の日常的な自主的衛生検査が重要視されている。しかし,従来の食中毒菌検査法では結果を得るまでに数日を要するため,製品の安全性保証や製造現場での衛生状態の改善に活用することができない。そこで,食品製造現場の衛生管理業務に対応できる自主衛生検査の開発・普及を目指して,複数食中毒菌を一括同時に迅速
検出可能な技術を開発した。本開発手法では検体25g中にわずか1細胞の標的菌が生存すれば検出可能で畜肉・野菜を含む60種類以上もの食材においても適応できる。 (キーワード:食中毒菌,迅速検査,大腸菌O157,サルモネラ,リステリア・モノサイトゲネス) |
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近赤外分子法を用いた熱帯産農産物の品質評価システムの開発 |
国立大学法人琉球大学 平良 英三 |
サトウキビやマンゴーは南西諸島において重要な作物であり,安定生産とともに高品質化が求められている。品質指標の糖度や関連する成分を測定するためには試料を破壊して分析するため,非破壊かつ簡易に品質を評価する手法が必要であった。そこで近赤外分光法を応用してサトウキビやマンゴーの内部品質を非破壊で測定する手法を確立した。サトウキビ搾汁液および細裂試料の近赤外スペクトルから糖度やミネラル成分の測定が可能となり,地域全体で栽培改善を図る一筆圃場管理システムを実証した。さらに,モバイル型の近赤外分光装置を活用して沖縄産マンゴーの品質を評価し,地域全体の糖度分布とその推移を初めて明らかにした。 (キーワード: サトウキビ,マンゴー,近赤外分光法,生産支援) |
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超強力コムギ新品種「ゆめちから」の開発および実用化 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構北海道農業研究センター 西尾 善太 |
非常に低いパン用コムギの国内自給率の向上に役立つ,製パン性が画期的に優れるコムギ新品種「ゆめちから」を開発した。国産パン用として従来の春播きではなく,多収性の秋播き品種でこれを実現したことにより,国産パン用コムギの安定供給の途を開いた。「ゆめちから」において,土壌伝染性で薬剤防除が不可能なコムギ縞萎縮病に関してわが国最強レベルの抵抗性を獲得し,かび毒によるコムギの汚染が大きな問題となっているコムギ赤かび病抵抗性についても北海道向け品種として最強レベルとした。「ゆめちから」は北海道において急速に普及が拡大しており,将来のわが国の食料自給率向上への寄与が期待される。 (キーワード:超強力コムギ,縞萎縮病抵抗性,製パン性,ブレンド利用) |
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野菜類の多様な病害の原因解明および防除に関する研究 |
地方独立行政法人北海道立総合研究機構 三澤 知央 |
野菜類は栽培作物数が多いことから発生する病害も多様であり,生産現場では迅速・正確な診断と防除対策の確立が求められている。本研究では800点の生育異常症状の発生原因を解明した。このうち50病害は国内・北海道内で未発生の病害であった。また,イチゴ疫病の無病苗生産方法・土壌消毒技術を開発し,品種の抵抗性を解明した。ネギ葉枯病の研究では,病原菌の伝染環を解明するとともに化学的・耕種的防除対策を確立した。さらに,ニラ白斑葉枯病およびサヤエンドウうどんこ病に対する各種薬剤の防除効果と残効期間を解明した。本研究は野菜類病害の診断と防除に大きく貢献した。 (キーワード:野菜,病害,同定,防除) |
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Vol.1 No.4 【特集2】 2012年農林水産研究成果10大トピックス |
高温でコメに乳白粒が発生する原因を遺伝子レベルで解明−高温登熟耐性品種の開発に期待− | ||||||||||
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近年の温暖化によって,西日本や北陸地域ではイネの登熟時期が過高温となっている。登熟期の高温は,私たちがコメとして食べるイネ種子へのデンプンの充填を阻害し,白く濁った玄米,乳白粒を生じる。乳白粒の混入によってコメの商品価値が低下するため,乳白粒の発生が少ないイネ品種が求められている。筆者らは,乳白粒が発生する原因として,高温によるデンプン分解酵素,α‐アミラーゼの活性化を見出した。α‐アミラーゼを抑制することで,高温下での乳白粒の発生が減少した。乳白粒が発生する原因が遺伝子レベルで解明されたことで,猛暑でもコメの外観品質が低下しにくい高温登熟耐性品種の開発がさらに加速すると期待される。 (キーワード:イネ,高温登熟,乳白粒,α‐アミラーゼ) |
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トマトの全ゲノム解読に世界で初めて成功!−育種の加速に期待− | ||||||||||
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トマト(Solanum lycopersicum)は国内外で広く栽培されており,日本国内では生産量(収穫量)が約70万t(平成23年産野菜生産出荷統計),産出額は約2,051億円で,野菜としては第1位(平成23年生産農業所得統計)の重要作物である。2012年5月,14ヵ国からなる国際コンソーシアムによってトマトの全ゲノムが解読され,約3万5,000個の遺伝子の構造が明らかになった。これによって,耐病性,害虫耐性,乾燥耐性に優れた高収量トマトや,カロテン,リコペン,ポリフェノールなどの機能性物質に富む高機能性トマトの育成など新たなトマト品種や,さらにはナス科作物全般の育種が大きく加速することが期待される。 キーワード(トマト,ゲノム解読,分子育種,ナス科,国際コンソーシアム) |
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低カドミウムコシヒカリの原因遺伝子を発見 | ||||||||||
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コメはカドミウムの主な摂取源であるため,低カドミウム水稲品種の開発が求められている。当研究グループは,イオンビームを「コシヒカリ」種子に照射し,玄米にカドミウムをほとんど蓄積しない変異体を作出した。この変異体の収量や食味などの形質は「コシヒカリ」と同等であることから,実用性の高い低カドミウム変異体であることが分かった。低カドミウムの原因遺伝子として,マンガンの主要なトランスポーター遺伝子であるOsNRAMP5に変異があることを見つけた。この変異遺伝子の塩基配列を基にDNAマーカーを開発した。このDNAマーカーを活用することで,ブランド品種を効率的に低カドミウムに変えることも可能である。 (キーワード:カドミウム,イオンビーム,イネ変異体,OsNRAMP5,DNAマーカー) |
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世界初!免疫不全ブタを開発−ヒト組織や臓器の再生に向けた研究の進展に期待− | ||||||||||
(独)農業生物資源研究所 大西 彰 | ||||||||||
近年,ヒトの細胞,組織あるいは臓器を保有するヒト化マウスの研究が大きく進展している。この技術のブタへ応用を目的に,免疫能を喪失した免疫不全ブタの開発に世界で初めて成功した。抗体医薬品開発,iPS細胞などのヒト由来培養細胞の長期安全性試験,実用的なヒト組織や臓器の再生に向けた最初の一歩として,今後の活用が期待される。 (キーワード:免疫不全,ブタ,体細胞クローン,遺伝子ノックアウト,再生医療) |
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ブタのゲノムおよび遺伝子配列の解読に成功−ブタの品種改良の加速化に期待− | ||||||||||
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(独)農業生物資源研究所(生物研)と(公社)農林水産・食品産業技術振興協会 農林水産先端技術研究所(JATAFF研)が参加する国際ブタゲノム解読コンソーシアムは,ブタゲノム塩基配列の約90%について高精度解読を行った。一方,生物研とJATAFF研は共同で,ブタのさまざまな臓器などで実際に働いている遺伝子約1万5,000個の遺伝子の配列の解読を行った。これらの成果により,ブタゲノム上には,約2万5,000個の遺伝子が存在することが明らかとなった。これらのブタゲノムに関する情報は,肉質,生産性,抗病性に優れたブタの育種を効率化するとともに,医療用実験モデル動物としてのブタの利用促進に貢献することが期待される。 (キーワード:ゲノム塩基配列,遺伝子,ブタ,国際コンソーシアム,育種,モデル動物) |
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汚染された農地土壌からセシウムを99%除去−汚染土壌などの大幅な減容化に期待− | ||||||||||
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小型回転式昇華装置を用いた福島県飯舘村での実証試験において,放射性セシウムの揮発を促進する熱処理条件を明らかにし,複数の高性能反応促進剤の添加により,福島県内の農地土壌(60,000Bq/kgレベル)から,土工資材などに利用可能なレベル(100Bq/kg以下)まで放射性セシウムを分離除去(99%以上)し,その含有量を低下させることに成功した。本成果を用いることで,放射性セシウムに汚染された土壌の削り取りなど,除染によって発生した廃棄土壌などの大幅な減容化が可能であり,除染および廃棄物処理の現場での活用が期待される。 (キーワード:減容化,農地除染,放射性セシウム,セシウム除去,昇華技術) |
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分娩後のウシ胎盤の剥離排出シグナルの発見と胎盤停滞のない昼分娩誘起法への応用 | ||||||||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所 鎌田 八郎 | ||||||||||
分娩は胎子の娩出と胎盤の剥離排出の2段階で達成されるが,後者の胎盤剥離のためのシグナルを世界で初めて発見した。これを応用した胎盤停滞のない昼分娩誘導技術は,農家を深夜早朝の分娩介護から解放し,かつ無理のない分娩介護の実施により子牛の損耗率を低減することが期待できる。また本知見はヒトを含めた他の哺乳類への応用も考えられる。 (キーワード:ウシ胎盤,昼分娩誘導,オキソアラキドン酸,マトリックスメタロプロテアーゼ) |
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青刈りトウモロコシ用高速不耕起播種機の開発 | ||||||||||
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高速・高精度作業が可能な青刈りトウモロコシ用不耕起播種機を開発した。2m/sの高速播種が可能で,不耕起ほ場に限らず耕起ほ場でも利用でき,わが国で一般に普及している30馬力(22kW)級のトラクタに装着できることが特徴である。高速作業時でも1粒率(1回の種子繰出で1粒が繰出された数の割合)は98%以上,株間の標準偏差は約5〜7cm,リードカナリーグラス主体の永年牧草地(不耕起)での作業能率は2条播きで64a/hであった。 (キーワード:トウモロコシ,不耕起播種,小型軽量,高速,高精度) |
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有機質資源を短期間で無機化、エネルギーを必要としない新技術−CO2排出量の大幅な抑制に期待− | ||||||||||
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 篠原 信 | ||||||||||
有機質資源から無機肥料を製造する新技術を開発した。微生物を定着させた多孔質の担体(微生物担体)に有機物を加え,水で洗うことにより,無機の肥料成分を含む水溶液として回収できる。添加した有機物は微生物担体内で分解され,有機物と水の添加を毎日繰り返すことにより,無機成分の回収を毎日行うことができる。有機物や水を添加するだけなので,肥料製造時に電気などのエネルギーを必要としない。製造時に大量の化石エネルギーが必要な化学合成の無機肥料(化学肥料)と比べて省エネである。畜産廃棄物など保管に場所を取る有機質資源を速効性の無機肥料に変換すれば保管コストを低減でき,輸出も容易な形態となる。 (キーワード:無機肥料,有機質資源,硝酸化成,土壌化,カラム) |
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農薬飛散・騒音を大幅に低減できる果樹用新型スピードスプレヤーの開発 | ||||||||||
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薬剤の付着性能を落とすことなく,エンジン・送風機回転数を下げ,農薬の飛散(ドリフト)や騒音を小さくできる棚栽培果樹用スピードスプレヤー(以下,「開発機」)を開発した。開発機は運転席からのスイッチ操作で棚面に近づけて散布できる昇降型のノズル管支持装置を備え,さらに,樹形に合わせてノズル管の高さ・角度を調節できる装置を装備している。開発機に2頭式の専用ノズルを装着することで,新梢先端までの薬液到達と,葉が混んでいる部分への付着性が確保されると同時に,一層のドリフト低減が可能である。 (キーワード:果樹,棚栽培,スピードスプレヤー,ドリフト,騒音) |
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