Vol.1 No.5 【特 集】 広葉樹林におけるナラ枯れ発生拡大の原因と防除対策 |
ナラ枯れ流行の原因を探る |
東京大学 農学生命科学研究科附属演習林秩父演習林 鎌田 直人 |
養菌性キクイムシが媒介する樹木萎凋病害が世界中で問題となっている。これらの原因を,素因・誘因・主因に整理し,日本におけるナラ枯れ流行の原因を考察した。現時点では,薪炭林の放棄などによる寄主植物の大径化・単純な樹種構成・温暖化が有力な仮説として考えられた。カシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)とナラ枯れに弱いミズナラとの分布の重なりが増えたことと,フェノロジーのずれによりナラ菌に対する寄主の感受性が高い時期にカシナガが穿孔するようになったことが,温暖化が関係するしくみと考えられた。樹種による枯死率の差は,ナラ菌に対する感受性だけではなく,心材率や,カシナガに対する樹液による防御も関係している。 (キーワード:国内外来種,共進化,温暖化,大径化,フェノロジカルミスマッチ) |
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ナラ枯れの発病生理と森林管理の手法:ミクロからマクロへ |
神戸大学大学院 黒田 慶子 |
ナラ類樹木が病原菌Raffaelea quercivoraに感染すると,樹幹の細胞は防御反応として二次代謝物質を生産する。しかし,病原菌は集中加害した媒介甲虫カシノナガキクイムシの孔道を伝って迅速に分布するため,この防御の効果はほとんどない。一方,感染木は自分自身の過剰な防御反応によって水分通導が停止し,水不足により枯死へと向かう。このような発病の基本的知見を理解することによって,防除や被害軽減のための効率的な戦略をたてることができる。また,ナラ枯れが起こりにくい里山の管理を行うためにも,発病メカニズムを理解していることが重要である。 (キーワード:枯死メカニズム,防御反応,二次代謝,変色,Raffaelea quercivora,柔細胞) |
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ナラだけではないナラ枯れ |
(独)森林総合研究所関西支所 衣浦 晴生 (独)森林総合研究所九州支所 後藤 秀章 |
ミズナラやコナラといった,いわゆるナラ類に集中的な枯死被害を与えている「ナラ類集団枯死=ナラ枯れ」は,近年,その樹病名である「ブナ科樹木萎凋病」の通り,多くの樹種に拡がってきている。特に2010年には東京都島嶼部のスダジイで大量枯死被害が報告された。ここでは「ナラ枯れ」研究の中心樹種であるナラ類「以外」の樹種で発生している枯死被害について,その被害状況や傾向等について,現在までに明らかになっていることを紹介する。 (キーワード:ブナ科常緑樹,スダジイ,ウバメガシ,カシノナガキクイムシ,ミナミカシノナガキクイムシ) |
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カシノナガキクイムシの集団遺伝と被害予測 |
(独)森林総合研究所 加賀谷 悦子 (独)森林総合研究所九州支所 近藤 洋史 |
どこで新たなナラ枯れ被害が発生しうるのかを予測するために,カシノナガキクイムシの移動実態を遺伝子解析から推定し,前年度の被害状況から翌年の被害の可能性のある場所をマッピングする方法を確立した。マイクロサテライト領域の解析から,カシノナガキクイムシは1世代で50km強を越えて移入することはないことが示された。また,前年度の被害発生箇所といった被害履歴情報や森林の植生情報を組み合わせて,翌年度にナラ枯れ被害の発生を予測するモデルを構築した。このモデルによりナラ類の被害発生を予測したところ,約90%という高い精度で予測することができた。 (キーワード:遺伝子解析,GIS,ハザードマップ,マイクロサテライト,ロジスティック回帰モデル) |
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カシノナガキクイムシの生態に基づくナラ枯れの防除法 |
京都府農林水産技術センター・京都府立大学 小林 正秀 |
大径木などの好適な繁殖材料を利用してカシノナガキクイムシが大発生したことがナラ枯れの要因であり,この虫の駆除が対策の基本となる。さまざまな防除法を検討した結果,カシノナガキクイムシの生態を考慮して開発したペットボトルトラップによって大量捕獲が可能になった。粘着紙と併用することで面的な防除に成功しており,餌木誘殺との併用も有効であった。 (キーワード:カシノナガキクイムシ,ペットボトルトラップ,粘着紙,餌木誘殺,総合防除) |
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駆除・木材利用・森林更新の三和一体でナラ枯れを防ぐ |
山形県森林研究研修センター 斉藤 正一 |
ナラ枯れ被害の防除法は,単木的処理を中心に開発され,施用処理木での効果は高まっているが,急激に拡大していく被害に必ずしも対応できていない状況にある。ナラ類の附存量が多い東北地方では,ナラ枯れ被害軽減と未被害地での面的な被害対策が急務である。生立木を伐採し大量集積してそこにカシノナガキクイムシ(カシナガ)を誘引し,木材も利活用する事で,駆除・木材利用・森林の更新を三位一体で解決していく方法が有効である。 (キーワード:ナラ枯れ,おとり丸太,駆除,木材利用,更新) |
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カシノナガキクイムシの信号化学物質と殺菌剤を用いた防除の試み |
(独)森林総合研究所 所 雅彦 サンケイ化学株式会社 吉濱 健・猪野 正明 |
カシノナガキクイムシの防除に信号化学物質のフェロモン,カイロモンを利用するため,単離同定を試みた。雄成虫由来の抽出物から電気生理学的手法を用いて集合フェロモンを単離し,微量機器分析と合成異性体を用いて検証し,その主成分の化学構造を決定した。また集合フェロモンの誘引効果を高める被害樹木由来の揮発性成分を探索し,成分中のエタノールにカイロモンとして誘引協力効果を確認し,これらを予察用および防除資材として製剤化した。さらに枯損防止効果が認められる殺菌剤を樹幹注入剤として製剤化し,これらを組み合わせた防除法を提案した。 (キーワード:信号化学物質,集合フェロモン,ケルキボロール,カイロモン,殺菌剤) |
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