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Vol.1 No.6
【特 集】 大麦の需要拡大と増産を目指して


大麦自給率向上・需要拡大のための取り組み
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    小田 俊介
 現在の「食料・農業・農村基本計画」では,自給率向上を目指し,2020年までに大麦の生産量を現在の22万トンから35万トンに増産することを目標としている。この目標を達成するためには,品種育成,栽培技術,栽培体系,食品加工などの広範囲な分野の研究成果を結集して,高品質な大麦の安定多収を実現するとともに,水田高度利用による作付面積の拡大が必要である。大麦生産の現状と研究へのニーズ,今後の生産拡大に向けた研究戦略について概説する。
(キーワード:大麦,自給率向上,用途別品種,機能性成分,高品質)
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需要拡大と安定収量を目指した加工用途別の大麦品種育成
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    柳沢 貴司
 農研機構の第三期中期計画間の「大麦品種開発・利用」プロジェクトでは自給率向上のため「需要を拡大して消費を伸ばす」品種育成とその利用技術の研究を行っている。これは麦ご飯・味噌・麦茶といった用途に加えて新たな用途開発に向く品種の育成を目指すものである。また焼酎用や飼料用の国産比率をあげるために「生産量が安定し,多収にして低コストにする」品種の育成にも取り組んでいる。これらの戦略に基づいて育成された品種の紹介と現在実施している研究課題について紹介をしたい。
(キーワード:需要拡大,低ポリフェノール,食物繊維,硝子率,病害抵抗性)
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大麦の摂取がメタボリックシンドローム関連指標に及ばす効果
大妻女子大学    青江 誠一郎
 大麦の摂取が日本人のメタボリックシンドロームに及ぼす影響を調べた報告はわずかである。そこで,β―グルカン高含有大麦の摂取が,日本人の高コレステロール血症男性においてメタボリックシンドローム関連指標を改善するかどうか調べた。その結果,大麦の摂取は血清コレステロール濃度を低下させ,さらに,内臓脂肪,腹囲,BMIを有意に低下させることが認められた。次に,大麦の作用メカニズムを探るため肥満モデルマウスを用いて検討した結果,大麦の摂取は,腹腔内脂肪の蓄積と肥大化抑制,肝臓脂質の蓄積抑制ならびに耐糖能改善に有効であることが認められ,複合的にメタボリックシンドローム改善につながる可能性が示された。
(キーワード:大麦,β―グルカン,メタボリックシンドローム,内臓脂肪)
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高β-グルカン大麦粉を用いた食品開発の取り組み事例
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 作物研究所    小前 幸三
 作物研究所は,水溶性食物繊維「β―グルカン」を豊富に含有する大麦品種「ビューファイバー」を育成し,その大麦粉の利用加工技術の開発と製品化による普及拡大をめざしている。これまでに製品化された大麦粉配合食品には,大麦パン,大麦めん,大麦菓子および大麦粉末食品などがあるが,ヒト健康機能性評価による高付加価値化が普及に向けた重要課題になっている。今後,「ビューファイバー」をはじめとする高β―グルカン大麦品種の産地形成と大麦粉の利用拡大は,国産コムギやコメ粉の消費量を増大させ,食料自給率の向上と国民の健康維持改善につながるものと考えている。
(キーワード:大麦,大麦粉,β―グルカン,ビューファイバー)
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消費者受容性の高い「機能性大麦食品」の開発と普及活動
埼玉大学 大学院理工学研究科     円谷 陽一・小竹 敬久
前・埼玉大学 教育学部 川嶋 かほる
前・埼玉大学 研究機構 オープンイノベーションセンター 東海林 義和
 大麦は古くからわが国の主要な穀物として食されてきたが,50年ほど前から激減し,国民1人当たりの年間摂取量は50年前の1/40(0.2kg,2010年)になっている。大麦水溶性食物繊維(主成分β―グルカン)の健康機能性が注目されており,大麦食品の開発と普及を目指して水溶性食物繊維高含有大麦新品種を低温粒度制御粉砕法によって水溶性食物繊維8%以上含有の「機能性大麦粉」を開発した。この大麦粉を小麦粉に15%以上配合したパンや麺などの「機能性大麦食品」を作ることができた。
 健康機能性が期待できる水溶性食物繊維高含有の大麦食品普及のためには,①水溶性食物繊維高含有の大麦新品種の栽培拡大 ②高品質「機能性大麦粉」の工業的生産 ③消費者受容性の高い「機能性大麦食品」の開発 ④大麦の健康機能性に関する社会的認知度向上が課題である。
(キーワード:大麦粉,粉砕,水溶性食物繊維,β―グルカン,健康機能性,消費者受容性)
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大麦の自給力向上に関する先進的事例と課題
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 北陸研究センター    長嶺 敬
 大麦は民間流通での需要に対して生産が不足しており増産が求められている。本稿では現場での事例を中心として,大麦増産にむけた「多収化」や「作付面積の拡大」にむけた取り組みを紹介する。多収栽培技術や多収新品種の利用事例のほか,中山間地での新たな産地形成,新しい品質特性をもつ品種を利用した作付拡大の試みなどと併せて,大麦の増産に向けた問題点を整理した。
(キーワード:大麦,多収,栽培法,面積拡大,省力化)
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硝子率が低く精麦品質の優れるはだか麦新品種「ハルヒメビシ」
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 近畿中国四国農業研究センター     高橋 飛鳥
愛媛県農林水産研究所 山口 憲一
 近年,硝子率の増加によって品質評価基準を達成できないことが全国の大・はだか麦生産地で問題となっている。そこで,従来品種よりも硝子率が低く,精麦品質の優れる「ハルヒメボシ」を育成した。「ハルヒメボシ」は早生の粳性の六条裸麦である。穂数は少ないが穂長は長く,育成地では「イチバンボシ」より平均1割以上多収であり,愛媛県で有望品種として導入が検討されている。愛媛県では,従来品種に比べて収量は同程度かやや優れ,硝子率は有意に低く,精麦白度は高くなった。施肥体系は,7―2―3N㎏/10a(基肥―中間追肥―穂肥)で倒伏せず最大収量を得られた。「ハルヒメボシ」は多収,低硝子率,高白度の品種として,今後の普及が期待される。
(キーワード:はだか麦,硝子率,精麦品質,多収)
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