Vol.1 No.7
【特 集】 農業における生物多様性評価法の現状


生物多様性プロジェクトと指標生物マニュアルの概要
(独)農業環境技術研究所     田中 幸一
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 井原 史雄
 環境保全型農業の推進が図られているが,それが生物多様性に及ぼす効果は定量化されていなかった。そこで,環境保全型農業が農地の生物多様性に及ぼす効果を表す指標生物とその評価法を開発するため,農林水産省委託プロジェクト研究が実施され,その成果として,農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアルが刊行された。本稿ではプロジェクトの背景や目的,実施方法などを説明し,とくに指標生物およびその調査法,評価法を解説する。それによって,農業の生物多様性評価法の現状を示し,あわせてそれらの活用や今後の課題を述べる。
(キーワード:環境保全型農業,生物多様性,指標生物,天敵,評価法)
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北日本の水田における指標生物と評価法
福島県農業総合センター 浜地域研究所     三田村 敏正
 プロジェクト「農業に有用な生物多様性の指標及び評価手法の開発」の中で,北日本の水田を対象として調査を行った。まず,環境保全型農業を行う水田と慣行栽培水田で生物を採集し,その中から環境 保全型農業を行う水田で有意に多くなる生物を指標候補種とした。その後,指標候補種を対象として簡便な統一された手法で調査を行い,アシナガグモ類,コモリグモ類,アカネ類またはイトトンボ類,ダルマガエル類またはアカガエル類,水生コウチュウ類と水生カメムシ類の合計の5種類(グループ)の指標種が選抜された。さらに,これらの指標種を用いた調査方法も確立され,スコア化によって水田を評価することが可能となった。
(キーワード:水田,生物多様性,指標生物,評価法,北日本)
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カンキツ園における指標生物と評価法
愛媛県農林水産研究所 果樹研究センター    崎山 進二
 カンキツ園の生物多様性を評価するために,防除体系の異なる園地において発生する節足生物の調査を行った。その結果,環境保全型農業に取り組む園地で,多く発生する有用(指標)生物を選抜した。選抜した指標生物は,テントウムシ類(キアシクロヒメテントウ除く),トビコバチ類,カブリダニ類(ミヤコカブリダニ除く),樹上造網性クモ類,ハネカクシ類,シデムシ類,アリ類,地上徘徊性クモ類の8生物群である。これら指標生物を捕獲・確認数に応じてスコア化することで,環境保全型農業に取り組んだ効果や園地の状況を定量的に測定できる。
(キーワード:カンキツ,指標生物,生物多様性,評価法)
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ネギ畑における指標生物と評価法の現状
千葉県農林総合研究センター(現 千葉県立農業大学校)    大井田 寛
 関東のネギ畑における生物多様性の指標生物を選抜するため,周辺環境が異なる千葉県内3地域において,病害虫の防除圧や管理などの農法が異なる根深ネギの畑をそれぞれ選定し,複数の調査手法を用いて生物相を調査した。その結果,農業に有用であり,かつ,防除圧の影響を受けて個体数が変動する種(種群)を,指標生物として選抜できた。また,各指標生物について,所定の時期に所定の方法で調査し,捕獲または観察された個体数をスコア化することにより,農業に有用な生物多様性の高さ(環境保全型農業への取り組み程度)を客観的に評価する方法を確立した。
(キーワード:生物多様性,指標生物,土着天敵,評価手法,ネギ)
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果樹園における指標生物調査のためのピットフォールトラップ調査基準
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所    外山 晶敏
 果樹園の指標生物調査の一つに,地表徘徊性の節足動物に対するピットフォールトラップ調査が提案されている。本トラップの捕獲数には生息密度以外にも多くの要因が関与する。広く調査を実施するためには,出来る限り方法・条件を統一する必要がある。一方,生産現場での実施を考えれば,簡便性や労力的負担の軽減など,実行性に対する配慮も不可欠である。調査基準の策定にあたっては,トラップサイズ,調査期間,トラップ設置期間・場所や設置個数など,方法・条件について最低限守るべき事と実施者の裁量に任せる範囲とを明確にし,捕獲結果については,過小評価の可能性に配慮しつつ,背景に十分な考察を加える。
(キーワード:農業生態系,ゴミムシ,クモ,ピットフォール,環境指標性)
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欧州の農業環境支払い制度における生物多様性評価とその手法
九州大学国際教育センター    野村 久子
 EU諸国における農業環境支払いは,EU共通の概念に基づきつつ,各国の状況に適したかたちで実施されている。生物多様性評価に深くかかわる制度の支払い方法は,行動に基づく支払い(aoAES)と成果に基づく支払い(roAES)に大別されるが,本稿では,それらの経済的根拠を概観し,それらの利点と欠点をまとめた。そして,aoAESとroAESを組み合わせたドイツ式と,aoAESのみながら成果重視の上級レベル事業を設定している英国式の農業環境支払いがあることを整理した。制度効果を検討する際には,生物多様性向上の成果を見られる評価手法は重要であるが,農家の取り組みやすさと行政の制度運営における費用対効果のバランスが重要である。
(キーワード:農業環境支払い,行動に基づく支払い,成果に基づく支払い,成功指標)
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