Vol.1 No.10 【特 集】 臭化メチル剤から脱却した最新栽培技術 |
土壌くん蒸用臭化メチル剤全廃の経緯と野菜栽培の新たな展開 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 中央農業総合研究センター 津田 新哉 |
臭化メチル剤は,土壌病害虫のみならず雑草防除にまで効果を示す卓越した土壌くん蒸剤として農業現場で恒常的に使用されてきた。しかし本剤は,環境破壊物質として国際的に指定され,わが国の土壌くん蒸用途は2012年末日に表舞台から姿を消した。本特集号では,われわれが2008年度から5年計画で農林水産省の「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業」において,農研機構を中心に13機関で開発してきた臭化メチル代替栽培マニュアルの概要を掲載する。本剤を使用してきた地域の生産者部会,農業関係の行政・普及部局さらには試験研究機関の間で今後の持続的安定生産について真剣に議論を交わすことで,産地の維持・発展に繋がることを期待したい。 (キーワード:臭化メチル,ピーマン,キュウリ,メロン,ショウガ) |
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臭化メチル剤全廃後のピーマン栽培マニュアル |
茨城県農業総合センター鹿島地帯特産指導所 小川 孝之 鹿児島県農業開発総合センター 西 八束 |
臭化メチル剤はピーマンのモザイク病(PMMoV)に効果のある唯一の土壌消毒剤だが,2013に不可欠用途臭化メチル剤の全廃が示され,代替え技術の確立が急務となった。臭化メチル剤から脱却したピーマンの栽培マニュアルはELISA法によりモザイク病の土壌伝染による発病リスクを評価し,濃度に応じて技術を選択することを基本としている。残根の腐熟促進を基本とし,根を保護する技術や弱毒ウイルス等の技術を組み合わせる。 (キーワード ピーマン,臭化メチル,モザイク病,残根の腐熟促進,ELISA法) |
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臭化メチル剤全廃後の露地ショウガ栽培マニュアル |
高知県農業技術センター 森田 泰彰 |
露地ショウガにおいては,根茎腐敗病,雑草,ネコブセンチュウの被害が発生する。そこで,これらを対象に,臭化メチル剤から脱却した露地ショウガ栽培マニュアルを開発した。本マニュアルでは,代替くん蒸剤による土壌消毒と生育期間中の薬剤防除を中心に,植付け時の観察,収穫時の観察などを併せた体系防除を行うこととした。代替くん蒸剤や生育期間中の防除体系は,防除に要する経費も考慮して,前作の病害虫,雑草の発生程度に応じて決定することが重要である。本マニュアルに従うことで,根茎腐敗病の甚発生圃場でも高い防除効果が認められ,有効性が確認された。
(キーワード:露地ショウガ,臭化メチル,根茎腐敗病,雑草,ネコブセンチュウ) |
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臭化メチル剤全廃後の施設ショウガ栽培マニュアル |
和歌山県農業試験場 安井(大谷) 洋子・衛藤 夏葉 |
ショウガ根茎腐敗病は施設ショウガ栽培における重要病害である。本病に対する臭化メチル剤全廃後の代替防除として,定植前と収穫後の2回の土壌消毒を組み合わせた総合防除について検討した。ショウガ収穫後の二重被覆太陽熱土壌消毒は,地温40℃以上の積算時間が300時間程度でショウガ根茎腐敗病に対する殺菌効果が得られ,その効果は既存の土壌消毒剤と同等以上であった。ショウガ根茎腐敗病汚染圃場における土壌中病原菌密度は,ショウガ定植前の土壌消毒と収穫後の太陽熱土壌消毒により後作の葉菜1作栽培後まで低く保たれた。これらのことから,施設ショウガ栽培における臭化メチル代替防除には,定植前および収穫後の土壌消毒を組み合わせた総合防除が有効であることが明らかになった。 (キーワード:施設ショウガ,臭化メチル,根茎腐敗病,代替防除,太陽熱土壌消毒) |
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臭化メチル剤全廃後の地床アールス系メロン栽培マニュアル |
千葉県農林総合研究センター 鐘ヶ江 良彦・植松 清次 現 安房農業事務所 押切 浩江 |
土壌消毒剤として広く利用されてきた臭化メチル剤は,地床アールス系メロンにおいては土壌菌媒介性のウイルス病であるメロンえそ斑点病(以下,えそ斑点病)に対する防除薬剤として使用されてきたが,2012年末をもって全廃された。千葉県では,2008年から新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「臭化メチル剤から完全に脱却した産地適合型栽培マニュアルの開発」に参画し,防除技術の開発に取り組んだ。その結果,えそ斑点病に抵抗性で優れた品質を有する6つのメロン品種または系統を選定するとともに,代替薬剤であるクロルピクリン・D―Dくん蒸剤の安全な使用方法を確認し,栽培マニュアルを作成した。 (キーワード:メロン,メロンえそ斑点病,抵抗性品種,土壌消毒,輪作) |
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臭化メチル剤全廃後のキュウリ産地のための栽培マニュアル |
宮崎県南那珂農業改良普及センター(現 宮崎県南那珂農林振興局) 黒木 尚 |
臭化メチル剤全廃後のキュウリ緑斑モザイク病の防除技術として,土壌中の残渣を分解処理(以下,腐熟処理とする)する技術を核としたキュウリ産地のための臭化メチルから脱却した栽培マニュアルを開発した。牛糞堆肥を用い,残渣の腐熟処理を約3ヵ月間行うことで,残渣中のウイルスを不活化し,キュウリ緑斑モザイク病を防除することができる。また,この残渣腐熟処理法は,化学くん蒸剤を使用しない持続的農業技術である。 (キーワード:キュウリ緑斑モザイク病,KGMMV,腐熟処理,土壌伝染,持続的農業) |
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