Vol.1 No.11
【特 集】 明日の花き産業を支える新技術


EOD-Heating 処理を活用した花きの低コスト生産技術の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所    道園 美弦
 花きの施設栽培では,暖房に欠かせない石油価格の高騰により経営を圧迫され厳しい状況が続いていることから,低コストとなる効率的な温度管理技術が望まれている。われわれはEOD(End of Day)-Heating(日没時短時間昇温)処理による花きの低コスト生産技術を開発する取り組みを行っている。はじめに人工気象器下のアフリカンマリーゴールドにおいてEOD-Heating処理により開花促進の効果があることを見いだした。実用化に向けた取り組みとして冬季のスプレーギクの切り花生産において,著しい生育不良の生じない最低気温13℃程度の温度域内でEOD-Heating処理(日没時20℃,3時間)を活用することにより,最低気温18℃条件と比較して開花を顕著に遅らせることはなかった。加えて,出荷規格上,重要な花房形質を劣化させることもなかった。これによりEOD-Heating処理は効率的な温度制御技術となり得る可能性を示した。
(キーワード:温度,開花,変温管理,アフリカンマリーゴールド,スプレーギク)
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日持ち保証を可能とする切り花の品質管理技術の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所    市村 一雄
 消費者に対する各種アンケート調査により,日持ちは切り花において最も重要な要素であることが明らかにされている。そのため,日持ち保証販売により,切り花の消費の拡大が期待されている。切り花の品質管理技術は主として,常温での管理を前提として開発されてきたため,日本の夏季のような高温に特化した技術はほとんど開発されていない。また,ダリアなど,近年人気の高い品目では品質管理技術が未確立であった。そこで,日持ち保証に対応した切り花品質管理技術の開発を行った。これらの成果に基づき,主要切り花30品目の品質管理方法を記載したマニュアルを作成した。
(キーワード:切り花,日持ち,品質管理,品質保持剤)
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花きにおけるゲノム解析研究の現状
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所    八木 雅史
 ゲノム解析,マーカー育種という言葉が誕生して久しい昨今であるが,品目数が多く,研究勢力の小さい花きにおいては世界的に見てもゲノム解析研究はあまり進んでいなかった。ところが近年のいわゆる次世代シーケンサーの誕生により,その環境が変わりつつある。本稿では,花き研究所におけるカーネーションのゲノム関連研究の最近の成果についてご紹介するとともに主要花きのゲノム関連研究について海外の動向を含めて概説する。
(キーワード:花き,DNAマーカー,連鎖地図,マーカー選抜,ゲノム解読,次世代シーケンス)
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遺伝子組換えによる多弁咲きシクラメンの開発とその実用化
北興化学工業株式会社 開発研究所    寺川 輝彦
 遺伝子組換えや組織培養技術を利用した新たな花形や花色を持つ新品種開発に取り組んできた。その結果,シクラメンの花器官形成に関与する遺伝子を取得,解析し,さらにCRES―T(クレスティー)法を利用した花器官改変技術により,雄ずい・雌ずいの代わりに花弁が次々と形成される今までに無い「多弁咲きシクラメン」の作出に成功した。遺伝子組換え花きを栽培するには環境への影響について規制を受け,生物多様性影響評価が必要となるが,「多弁咲き」の形質は雄ずいが無く,花粉が無いことから,花きとしての有用形質だけでなく,生物多様性影響評価の観点からも有効である。
(キーワード:シクラメン,遺伝子組換え,花器官,組織培養,不定胚)
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チューリップの新品種育成
富山県農林水産総合技術センター 園芸研究所    辻 俊明
 富山県では,農林水産省の指定試験事業として1951年よりチューリップの新品種育成を開始した。現在は,珍しい花型,草姿などの新規形質の獲得や病害抵抗性品種の育成を主な育種目標としている。これらの育種目標を達成するために,遺伝資源として約2,100品種を保存している。昨年度,22年の育種年月をかけて品種登録された"春のあわゆき"は,八重咲きとしては数少ない白色の花色で,花冠中央部が盛り上がる珍しい花型から,関係者からも早く市場流通するよう期待されている。近年,生産者の中にも新品種育成への関心が高まりつつあり,優良な品種が発表されている。このような新しい品種の普及が生産現場に活力を与えている。
(キーワード:チューリップ,新品種育成,新規形質,育種年限,遺伝資源)
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キク矮化病の蔓延防止マニュアルの概要
愛知県農業総合試験場 園芸研究部    平野 哲司
 キク矮化ウイロイド(Chrysanthemum stunt viroid,CSVd)によって引き起こされるキク矮化病は,キク栽培における最も重要な病害で,全国のキク産地で問題となっている。新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業「目指せ発病ゼロ!ウイロイドによって引き起こされるキクわい化病の防除対策の確立」の中で,矮化症状を発症する原因や伝染方法の再確認,防除対策,抵抗性品種のスクリーニング手法などを検討し,発病株の早期抜き取りが次作の発病を減少させること,器具等の消毒には塩素が有効で,拭き取りと組み合わせることで消毒時間を短くできることなどを中心に蔓延防止マニュアルとして取りまとめた。
(キーワード:キク,キク矮化病,ウイロイド,蔓延防止)
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トルコギキョウの低コスト冬季計画生産技術の開発
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所    福田 直子
 トルコギキョウは用途が多様であることから周年需要があるが,計画生産が困難で暖房コストが増大する冬春季の国内生産量は少ない。近年増加する亜熱帯地域からの輸入増加に対抗し,低コストで確実に生産するために,大苗定植,長日処理,高昼温低夜温管理,定植初期重点施肥を組み合わせた技術体系を開発した。本技術の有効性は冬季低日照地域(福岡県)〜高日照地域(静岡県)の1〜3月出荷で実証されており,1月の日照時間平年値が100時間以上の関東以西の平坦部に適用可能と考えられる。花き研究所ホームページにて「トルコギキョウの低コスト冬季計画生産の考え方と基本マニュアル」が公表されている。
(キーワード:トルコギキョウ,冬春季,技術体系,マニュアル)
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フラワーアレンジメント技術を利用した脳機能訓練と心のケア
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 花き研究所    望月 寛子
 切り花を利用した脳機能訓練としてフラワーアレンジメント・プログラム(Structured floral arrangement program: SFAプログラム)を開発した。SFAプログラムではパズルを組み立てる要領で,マニュアルに従って花や枝葉をスポンジに配置していく。同プログラムの実施により外傷性脳損傷や統合失調症患者の認知機能障害が改善し,意欲も増進した。メンタルヘルス・ケアを目的として東日本大震災の被災者にSFAプログラムを実施したところ,軽度の神経症状は改善したケースが認められた。花と緑を利用したSFAプログラムは脳と心の健康に寄与する新技術である。
(キーワード:フラワーアレンジメント,脳機能,訓練,心のケア,東日本大震災)
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