Vol.1 No.12 【特 集】 農作物生産におけるウイルスの有効利用 |
クリ胴枯病菌と白紋羽病菌のウイルス−病原動力低下因子とヴァイロコントロール− |
岡山大学 資源植物科学研究所 鈴木 信弘 |
クリ胴枯病菌は,ウイルスを利用した生物防除(ヴァイロコントロール)成功例の対象菌として,同時にウイルス/宿主相互作用を解析するためのモデル糸状菌として注目されている。クリ胴枯病菌から分離されたウイルスのみならず,他の菌から分離されたウイルスの解析も可能となっている。一方,白紋羽病菌は,ヴァイロコントロールを目指したウイルスハンティングの最前線となっている。1,000を超える日本産白紋羽病菌分離株からウイルス探索が行われ,10を超える新規のウイルスが発見され,中には,ヴァイロコントロール因子として有望視されるウイルスも見つかっている。本稿では,これら2つの宿主菌のウイルスに関する最近の知見とそれらを用いたヴァイロコントールを紹介する。 (キーワード:ヴァイロコントロール,マイコウイルス,dsRNA) |
←Vol.1インデックスページに戻る
|
マイコウイルス伝搬の障壁となる細胞質不和合成機構とその克服 |
神戸大学大学院 農学研究科 池田 健一 |
病原力低下作用を有するマイコウイルスを利用した生物防除法「ヴァイロコントロール」では,対峙したお互いの菌糸が融合し細胞質を移行させることが重要となる。しかし,菌糸間で遺伝型が異なる場合,細胞質不和合性反応が誘導され,マイコウイルスの伝搬が遮断されてしまう。マイコウイルスを伝搬させるためには,細胞質不和合性機構を理解し,これを抑制する手法を開発する必要がある。この細胞質不和合性機構は細胞学的解析により,液胞の崩壊を端緒とした糸状菌独自のプログラム細胞死であることが示唆された。また,プログラム細胞死を抑制する試薬の選抜を行った結果,亜鉛化合物が任意菌株へのマイコウイルス伝搬能を付与することを明らかとした。 (キーワード:細胞質不和合性,菌糸融合,プログラム細胞死,液胞,塩化亜鉛) |
←Vol.1インデックスページに戻る
|
マイコウイルスで果樹類白紋羽病を制御するための技術開発 |
(独)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹研究所 兼松 聡子 |
マイコウイルスは菌類(カビ)に感染するウイルスである。難防除果樹病害である白紋羽病菌に感染しているマイコウイルスに着目し,多くのウイルス種の中から菌の病原力を低下させるウイルスを発見した。これらウイルスを糸状菌病の防除(ウイルスによる病害の制御:ヴァイロコントロール)へ利用するためには菌体外から感染しないとされるマイコウイルスの導入系が必要となる。そこで,細胞学的,生態的アプローチにより白紋羽病菌の任意の菌株へウイルスを導入可能とする複数の技術を開発した。ウイルス導入菌の利用法と今後の課題についても述べる。 (キーワード:果樹類白紋羽病,ヴァイロコントロール,マイコウイルス,VC因子) |
←Vol.1インデックスページに戻る
|
イネいもち病菌マイコウイルスを用いた防除資材の開発 |
東京農工大学 農学研究院 浦山 俊一・森山 裕充 |
稲作は日本人の主食を担う産業であり,コメの安定生産を脅かすイネいもち病菌は最重要病原菌である。今回報告するイネいもち病菌に感染する菌類ウイルスMoCV1は,宿主であるイネいもち病菌の生育異常を引き起こすマイコウイルスであり,新たな生物防除資材として利用できる可能性を有している。実際にイネいもち病菌から精製したMoCV1ウイルス,または特定のMoCV1構成タンパク質成分をイネいもち病菌に添加することで,いもち病菌分生子の生育を抑制できることが示唆された。近年MoCV1に近縁なウイルスが他の植物病原菌からも報告されるようになり,新規な菌類ウイルスの利用法として発展する可能性がある。 |
←Vol.1インデックスページに戻る
|
植物ウイルスワクチンによる農作物のウイルス病防除 |
宇都宮大学 農学部 夏秋 知英 |
農作物のウイルス病を防除するために利用される「ワクチン」(弱毒ウイルス)の効果は,植物があるウイルスに感染すると同種のウイルスに感染しなくなるという「干渉効果」の原理に基づいている。本稿では,これまで本格的に実用化された「ワクチン」の具体例と,これまでに解明された弱毒化の分子機構について紹介する。 (キーワード:弱毒ウイルス,ワクチン,干渉効果,防除) |
←Vol.1インデックスページに戻る
|
植物ウイルスベクターを利用したリンゴの世代促進技術 |
岩手大学 農学部 山岸 紀子・吉川 信幸 |
リンゴは播種してから開花・結実するまでに5〜12年の年月を必要とし,これがリンゴの効率的な育種における大きな障壁となっている。一方で,近年,植物の開花遺伝子を操作することで植物の開花を人為的に制御できる可能性が見えてきた。筆者らの研究室ではリンゴに無害な潜在性ウイルスの一種であるリンゴ小球形潜在ウイルス(ALSV)を,一過的な外来遺伝子の発現や内在性遺伝子の発現抑制に利用できるウイルスベクターに改変すると共に,ALSVのリンゴへの効率的な接種法を確立した。本稿では,これらの技術を利用してリンゴに早期開花を誘導し,リンゴの1世代を1年以内に短縮できる世代促進技術について紹介する。 (キーワード:リンゴ小球形潜在ウイルス,ウイルスベクター,リンゴ,早期開花,世代促進) |
←Vol.1インデックスページに戻る
|