Vol.5 No.3 【特 集】 乳酸菌が持つ新たな微生物機能の解明とその利用 |
特集のねらい | ||||||||||||
北里大学 獣医学部 山本 裕司 明治大学 農学部 佐々木 泰子 |
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乳酸菌は,安全で宿主の健康に良い影響を与える有用微生物として食品を中心に様々な分野で利用されている。本特集では,特に乳酸菌の持つ微生物としての機能に注目し,近年明らかとなりつつある新たな機能とその利用面における可能性について,執筆者の先生方に最新の動向を紹介していただく。本稿では特集に先立ってそのねらいを説明する。 (キーワード:乳酸菌,プロバイオティクス,微生物機能) |
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ヨーグルトの発酵を担う乳酸菌の共生とNADHオキシダーゼの役割 | ||||||||||||
北里大学 獣医学部 山本 裕司 明治大学 農学部 佐々木 泰子 |
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ヨーグルトの製造に用いられる2種類の乳酸菌,Streptococcus thermophilus と Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricusは共生関係にあり,互いに支え合うことで迅速な乳の発酵を可能としている。近年のゲノムやオミクス解析によって,両菌の共生にはこれまでの想定よりも多くの因子が関与することが明らかとなりつつあり,さらなる発酵工程の効率化が期待されている。本稿では共生に関する最近の知見を紹介するとともに,筆者らが進めてきた溶存酸素の影響についてNADHオキシダーゼの役割を中心に解説する。 (キーワード:乳酸菌,ヨーグルト,共生,酸素) |
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メタ16S解析が詳らかにする伝統水産発酵食品中の乳酸菌の挙動と多様性 | ||||||||||||
石川県立大学 生物資源環境学部 小柳 喬 | ||||||||||||
わが国には,魚醤油やなれずしといった特徴ある水産発酵食品が多数根付いている。これらの食品の発酵熟成工程では乳酸菌が増殖する例が多くみられ,その優勢化の様相や細菌叢の多様性について,これまで次世代シークエンサーを用いたメタ16S解析により明らかにしてきた。石川県加賀のかぶらずしや能登のなれずしにおいて,Lactobacillus 属を筆頭にバラエティ豊かな乳酸菌種が製品ごとに優勢化している様子をつかんだほか,魚醤油において一部問題となるヒスタミン生成型Tetragenococcus 乳酸菌の詳細にも迫った。また,分離乳酸菌を活用した産学官連携事業も推し進め,これまでに3例の新規発酵食品の実用化にも繋がっている。 (キーワード:伝統発酵食品,水産発酵食品,発酵菌叢,次世代シークエンス解析,メタ16S解析) |
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乳酸菌がつくる色素の生理機能とその利用の可能性 | ||||||||||||
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 萩 達朗 | ||||||||||||
乳酸菌の中には脂溶性の黄色色素(カロテノイド)を生産する株が存在する。カロテノイドは,植物に含まれるβ-カロテンやリコペンなどが抗酸化物質として知られているが,乳酸菌の生産するカロテノイドはそれらとは少し構造が異なり,乳酸菌におけるカロテノイドの機能については未解明な部分が多い。本稿では,乳酸菌由来カロテノイドが乳酸菌の酸化ストレス耐性を含む様々なストレス耐性に寄与することや,生産調節メカニズムについて紹介するほか,その機能性と利用の可能性についても言及する。
(キーワード:乳酸菌・色素・カロテノイド・ストレス耐性) |
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リポテイコ酸の構造多様性から見える乳酸菌の特徴 | ||||||||||||
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リポテイコ酸は,グラム陽性細菌の細胞表層の構成分子の一つであり,細菌と宿主との相互作用(定着や免疫誘導など)において重要な分子と認識されている。われわれは,リポテイコ酸を介した細菌と宿主との相互作用メカニズムを解明するため,菌種菌株間で異なるリポテイコ酸の構造多様性について研究を行っている。これまでのリポテイコ酸の構造情報からは,プロバイオティクスとしても利用される典型的な乳酸菌(Lactobacillus 属,Lactococcus 属,Leuconostoc 属細菌)に共通した特異的な構造の存在が示唆されている。この特異的な構造をもつリポテイコ酸は,乳酸菌の機能性に関与していることが考えられ,優良なプロバイオティクスのスクリーニングにおけるターゲット分子のひとつとなることが期待される。 (キーワード:プロバイオティクス,Lactobacillus gasseri,リポテイコ酸,アンカー糖脂質) |
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未利用バイオマスからのD-乳酸生産に向けた乳酸菌の代謝工学研究 | ||||||||||||
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乳酸菌の遺伝子情報と遺伝子操作ツールの拡充により,乳酸菌の代謝経路をデザインする時代が到来しつつある。本稿では植物由来プラスチックであるポリ乳酸の耐熱化に重要なD-乳酸を未利用バイオマスから生産することを目指した乳酸菌の代謝工学研究について二つの研究事例を紹介する。一つ目の事例では乳酸菌Lactobacillus plantarum のL-乳酸生産経路を遮断し,アミラーゼの分泌生産能を賦与することで未利用米からのD-乳酸生産が可能となった。二つ目の事例では木質系バイオマスに多く含まれるペントースより効率的にD-乳酸を生産できるよう同株の代謝改変を行った。その結果,広葉樹パルプからの高効率な同時糖化発酵に成功した。 (キーワード:代謝工学,バイオマス,D-乳酸,Lactobacillus plantarum) |
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乳酸桿菌における実用的なランダム変異導入法の確立とその利用 | ||||||||||||
北里大学 薬学部 伊藤 雅洋 | ||||||||||||
乳酸桿菌など宿主に有益な作用を示すプロバイオティクスは,その医学的効果が証明されている代表的な機能性食品のひとつであるが,その作用に関する科学的実証の欠如が指摘されている。われわれはその解決に向けて,プロバイオティクス作用を有する乳酸桿菌Lactobacillus casei ATCC27139においてEZ::TNトランスポソームシステムを用いた実用的なランダム変異導入法を初めて確立した。そして,得られた変異株を用いて本菌株が有する自然免疫賦活化作用を規定する遺伝子を明らかにし,その有用性を実証した。本稿ではこれまで乳酸桿菌では困難とされていた実用的なランダム変異導入法の確立に至った経緯について概説し,その応用例を紹介する。 (キーワード:プロバイオティクス,乳酸桿菌,トランスポゾン,ランダム変異導入) |
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