Vol.5 No.7
【特 集】 近畿中国四国地域の農業の明日を拓く品種と技術


特集のねらいと概要
農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター    水町 功子
 近畿中国四国地域では,地理的・気候的特性を活かし,府県によって特徴的な農産物生産が行われている。また,国内外を取り巻く環境や情勢の変化に応じて,新たな品種を導入し,それらを普及していくために様々な技術の開発に取り組んできた。本特集では,近畿中国四国地域で栽培されている最近の品種を取り上げ,生産者,実需者を対象として,生産性や収益性向上,高品質安定生産等につながる技術について紹介する。
(キーワード:中山間地農業,品種,技術,普及)
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日本初デュラム小麦品種「セトデュール」の栽培と商品化
日本製粉株式会社 フードリサーチセンター    田中 智樹
 日本で初めて品種登録出願されたデュラム小麦品種「セトデュール」は,赤かび病や穂発芽に不安を抱え,更に,商品加工の立場からはタンパク質含量をもっと高くしたいなど,課題がある。一方,市場からの期待は大きく,関係者の御尽力により,地産地消での試験販売も好調で,一般の商業販売の見通しも立っている。「セトデュール」で製造したパスタは,普通小麦に比べて,黄色味が強く,歯切れが良く,デュラム小麦特有の優れた性質を有している。セモリナ,乾燥パスタ,生パスタ,調理パスタなど「セトデュール」の用途は広く,魅力ある新しい食品素材である。
(キーワード:デュラム小麦,赤かび病,穂発芽,セモリナ)
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山口県におけるパン用小麦品種「せときらら」の
普及と品質向上の取り組みについて
山口県農林総合技術センター    村田 資治
山口県農林水産部農業振興課    内山 亜希
 山口県では,パン用小麦の生産者および実需者の要望に応えるため,多収で製パン性に優れるパン用小麦品種「せときらら」を奨励品種に採用した。「せときらら」の普及にあたっては,栽培技術の普及だけでなく,「せときらら」を利用した新商品の開発支援や商談会の開催など,需要の開拓にも取り組んだ。品質向上については,子実タンパク質含有率を高めるための開花期追肥を中心に技術開発を行った。これらの結果,山口県における「せときらら」の作付面積は拡大し,「せときらら」を利用した商品も増えてきている。
(キーワード:開花期追肥,子実タンパク質含有率,せときらら,ニシノカオリ,パン用小麦)
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大豆品種「あきまろ」と栽培管理技術の組み合わせで
中山間地域の大豆収量を向上させる
農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター    奥野 林太郎
 開発した栽培体系は,晩播適性の高い大豆品種「あきまろ」を用い,30cm狭畦で梅雨明け後の晩播栽培を行う。さらに,地下水位制御システム(以下,フォアス)により苗立ちを確保し,難防除雑草防除として適期に土壌処理剤,選択性茎葉処理剤の全面散布,非選択性茎葉処理剤の畦間株間散布を実施する。「あきまろ」の密植栽培は晩播でも収量が低下しづらく,フォアスによる梅雨明け後の灌漑により苗立ちが安定し,狭畦のため要防除期間が短くなるので,除草剤の適期散布による防除が可能となる。本栽培体系により中山間地域における湿害,雑草害による大豆の収量低下が改善され,収益が向上する。
(キーワード:「あきまろ」,地下水位制御システム,晩播,マルバルコウ,難防除雑草防除)
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裂莢しにくいダイズ「サチユタカA1号」のコンバイン収穫適性
兵庫県立農林水産技術総合センター    牛尾 昭浩
 近畿中国地域の主要な大豆品種「サチユタカ」は子実成熟期以降に裂莢(れっきょう)しやすくなることから,現状のコンバイン収穫体系では自然裂莢等による収穫損失が懸念された。狭条・晩期密播栽培やコンバインの改良によって収穫損失の低減を図っていたが,DNAマーカーを利用した難裂莢性個体の選抜と連続戻し交雑によって裂莢性のみがピンポイント改良された「サチユタカA1号」の導入を検討したところ,自然裂莢やコンバイン収穫損失が大幅に低減し,実質的な収量向上が見込まれた。兵庫県では,「サチユタカ」と同一の品種群として産地品種銘柄に設定して,いち早く品種転換に取り組んでいる。
(キーワード:ダイズ,難裂莢性,コンバイン収穫,狭条密播栽培,品種群設定)
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極短穂型イネホールクロップサイレージの飼料特性と家畜への給与
広島県立総合技術研究所 畜産技術センター    河野 幸雄
 水田と稲作技術を活用して栽培できるイネホールクロップサイレージ(WCS)の生産が拡大する中,農研機構 西日本農業研究センターにより育成されたWCS用の極短穂型品種について,飼料特性の評価や家畜への給与試験を行い,"倒伏しやすさ","不消化モミの発生による栄養ロス","糖含量の不足","繊維の消化しにくさ","収穫適期の短さ"など,従来のWCS用イネにおける課題を一気に解決できる,優れた特性を備えた品種であることを明らかにした。
(キーワード 自給飼料,飼料用イネ,イネホールクロップサイレージ,極短穂型品種)
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簡易土壌水分計を用いた中晩生カンキツ品種「はれひめ」等の
ブランド化率を向上させる栽培技術
農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター    黒瀬 義孝
 簡易土壌水分計は塩ビ管内の水位低下量で土壌の乾燥程度を判定する測器であり,土壌水分目視計の商品名で販売されている。簡易土壌水分計の1日当たり水位低下量はカンキツが受けている水分ストレスの指標となり,水位低下量を積算した値は糖度の指標となる。生産者は,毎日〜1週間間隔で簡易土壌水分計の水位を測定することによりカンキツが受けている水分ストレスを把握でき,増糖効果が得られる適度な水分ストレス状態を維持するようにかん水をコントロールする。簡易土壌水分計を用いてブランド品に必要な糖度をクリアし,ブランド化率を向上させる技術を紹介する。
(キーワード:簡易土壌水分計,カンキツ,水分ストレス,糖度,ブランド)
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簡易被覆栽培におけるブドウ「シャインマスカット」の高品質安定生産技術
岡山県農林水産総合センター 農業研究所    中島 譲
 「シャインマスカット」は果粒肥大が旺盛となる樹齢が遅く,樹冠拡大中は果粒肥大が不十分であるが,フルメットの花穂処理によって,果粒肥大促進が可能であった。簡易被覆栽培において,果粒肥大の優れる樹冠拡大完了後に果粒肥大と1新梢当たりの葉面積との関係を検討したところ,樹勢がやや強めの場合に果粒肥大が優れ,高糖度も維持された。このような強めの樹勢に導くためには,芽かきを既存品種に比べてやや強めに行い,新梢本数を少なめに配置して,1新梢当たりの葉面積を多めに確保することが望ましいと考えられた。
(キーワード:ブドウ,シャインマスカット,簡易被覆栽培,葉面積,果粒重)
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気化潜熱利用培地冷却技術と無育苗栽培法の組合せによる
省力・多収イチゴ高設栽培システム
農業・食品産業技術総合研究機構 西日本農業研究センター    山崎 敬亮
島根県農業技術センター    金森 健一
 島根県農業技術センターで開発されたイチゴ高設栽培における「無育苗栽培法」は,育苗施設を必要とせず,育苗の大幅な省力・低コスト化が可能な新しい栽培技術である。しかし,花芽分化の遅延・ばらつきにより初期収量の少なさや不安定さが課題であった。そこで農研機構西日本農業研究センターで開発した低コストで簡易な「気化潜熱利用培地冷却技術」を適用して,省力・多収のイチゴ高設栽培システムの構築を図った。その結果,"かおり野"や"紅ほっぺ"といった品種において安定的に花芽分化が早まり,"かおり野"における年内収量の50%増や,無育苗栽培だけでは年内の収穫開始が難しかった"紅ほっぺ"においても1株当たり60g程度の年内収量を確保できることが実証された。総収量も従来のポット育苗に比べて20〜30%の向上が認められた。
(キーワード:イチゴ,高設栽培,無育苗栽培法,気化潜熱,培地冷却,省力化)
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