Vol.5 No.8
【特 集】 東北農業の未来を拓く革新技術


東北農業の将来像と技術開発
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    白川 隆
 我が国の食料生産基地として位置づけられている東北地域において,その基幹作物である米の価格低下等による米の産出額低下,農業従事者の減少と高齢化など,農業を取り巻く状況は厳しくなっている。この問題を打開して明るい東北農業の将来を展望すると,ICT等の先進技術を活用して大規模営農をターゲットにした省力的で低コストな高収益水田輪作営農システムの確立が有望であり,1)大規模化などの土地利用型作物の低コスト・省力化栽培技術,2)持続的安定生産技術,3)収益性を向上させるための野菜等の高品質安定生産体系,4)輪作体系の確立と現地実証および経営評価の4項目を考慮した取り組みを強化していくことが重要と考えられる。
(キーワード:水田輪作,省力,低コスト,大規模営農,直播栽培,露地野菜,経営評価)
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衛星リモートセンシングを活用したブランド米の生産管理
青森県産業技術センター 農林総合研究所    境谷 栄二
 青森県の新品種「青天の霹靂」では,高品質米生産を支援するため,津軽全域の指導機関で衛星情報を利用できる体制を整備し,2016年から実証を始めた。衛星画像から,「青天の霹靂」の収穫時期と玄米タンパク質含有率を水田一枚ごとにマップ化し,この状況を基に農家にきめ細かな指導を行う。津軽地域では,2016年9月に指導機関が現地講習会を展開し,タブレット端末等を用いて収穫指導を行った。収穫時期を水田単位で具体的に示せるマップは,指導員や農家に好評で,利用した指導員の大部分が従来よりも高い効果が期待できると評価した。
(キーワード:リモートセンシング,タンパクマップ,収穫適期予測マップ,青天の霹靂,米)
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大規模水田輪作のためのICT利用
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    
長坂 善禎・関矢 博幸・冠 秀昭・齋藤 秀文・
中山 壮一・松波 寿典・大谷 隆二
農業・食品産業技術総合研究機構 農業技術革新工学研究センター    林 和信
 筆者らは宮城県の津波被災地において,大区画ほ場でのプラウ耕グレーンドリル乾田直播栽培技術を核とした水田輪作体系の中でICT(Information-Communication Technology)を利用した作業の高精度化,ほ場や作物情報の数値化等の技術を開発,実証している。GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用した均平作業,自動操舵やガイダンスシステムの利用では作業の省力化,高精度化を達成した。均平時の運土情報に基づいた可変施肥では大区画ほ場の地力ムラによる生育差を小さくすることができた。このほか生育センサを利用して大区画ほ場の幼穂形成期の生育ムラを評価した。
(キーワード:乾田直播,大区画ほ場,プラウ耕,水田輪作,GNSS)
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東北地域におけるタマネギの春まき新作型導入による露地野菜作の振興
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    山崎 篤
 東北地域においてタマネギはこれまで秋まき作型で栽培され,寒冷積雪地での越冬がその生産性を不安定にしていたため,栽培面積・生産量とも少なく,タマネギの空白地帯とも言える状況であった。これを打開するため,春まきの作型を適用するべく農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業等により研究に取り組み,7〜8月の端境期出荷が可能な東北ならではの新作型が開発できた。東北6県への普及も順調に進んでおり,水田転作品目として導入の進むことが期待される。
(キーワード:端境期,加工・業務用野菜,土地利用型農業,水田転作)
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クラウン温度制御を利用した施設イチゴ栽培の長期安定生産技術
宮城県農業・園芸総合研究所    高山 詩織
 促成栽培イチゴの生産量は全国的に減少傾向にあり,その原因の一つとして近年の気候温暖化による品質低下や,高齢化による作付面積の減少などがあげられる。東北地方南部沿岸地域は,冬期の日射量が比較的多く温暖な気候であるため,震災前よりイチゴ産地が形成されていた。震災後には大規模施設によるイチゴの養液栽培が始まり,長期どりを目指してクラウン温度制御技術が導入された。宮城県では夜冷短日処理した苗を,早期に定植した後からクラウン温度制御を行うことで,11月から6月までの間,安定したイチゴの生産が可能となり,現地実証試験においては,クラウン温度制御の導入により7tの多収どりが可能となった。
(キーワード:イチゴ,促成栽培,クラウン温度制御)
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東北地域の畜産の現状と技術的課題
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    山田 明央
 東北地域の乳用牛,肉用牛,豚,産卵鶏,肉用鶏,飼料作物について,2016年の畜産統計を中心に,東北地域の飼養動向等について概観した。東北地域は乳用牛と肉用牛で全国統計に比べ飼養規模が小さく,反対に豚や産卵鶏・肉用鶏では大きいことが特徴的である。東北地域の畜産においては,近年東北地域において急速に増加している飼料用米やトウモロコシ子実等の新たな飼料資源の活用が求められていること,およびその他個別畜種ごとに技術的課題について概説した。
(キーワード:乳用牛,肉用牛,豚,産卵鶏,肉用鶏,飼料作物)
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国産濃厚飼料の地域内流通を支える新技術
農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター    魚住 順
 国産濃厚飼料の地域内流通に必要な「穀実サイレージの省力調製技術」と「タンパク質源飼料の生産体系」を開発した。トウモロコシや飼料用米などの穀実飼料は,フレコンをラッピングする「フレコンラップ法」により省力的にサイレージ化できる。処理速度は飼料用米で3.2t/h,トウモロコシ子実で3.7t/hに達し,これは既存体系の約3倍である。また,トウモロコシや飼料用米に不足しているタンパク質は,若刈り牧草と飼料用ダイズを連続栽培することにより,粗タンパク質含量16%程度の牧草サイレージとして330〜450kg/10a(乾物),粗タンパク質含量20%程度のダイズサイレージとして420〜590kg/10a(乾物)を自給できる。
(キーワード:国産濃厚飼料,飼料用ダイズ,サイレージ,タンパク質源飼料)
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東北地域のみずみずしいリンゴに付加価値をつけて販売
−果汁の多いリンゴの非破壊選別−
農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門    岩波 宏
 東北地域で生産されるリンゴのブランドイメージを高めるため,「みずみずしさ」をキーワードに果汁の多いリンゴを選別して販売する方法を検討した。果汁が多いと感じるのは,果肉組織の含水率が高く,かつ果肉が硬く,さらに果肉組織の細胞間隙溶液量が多い場合であった。このうち「みずみずしさ」は,細胞間隙溶液量と強く結びついていた。細胞間隙溶液量の多い完熟した果実を収穫することで,果汁の多さやみずみずしさをアピールした販売ができる可能性が示された。また,収穫時に光センサー選果機で含水率の高い果実を選別することで,貯蔵後に果汁の多い果実を販売することも可能であった。
(キーワード:リンゴ,果汁,含水率,細胞間隙,近赤外,選果)
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東北農業における6次産業化の現状と課題
岩手大学 農学部    佐藤 和憲
 6次産業化に取り組むには,地域性があり需要量が限られているため民間企業が参入しにくい商品やサービスを選択するか,さもなければ原材料,製法,地域イメージなどによる製品差別化が必要である。技術力や営業力の弱さをカバーするには,プラントメーカー,食品メーカー,流通業者,その他異業種との連携が効果的である。長期的な持続・発展を図るには,農業側に異業種とスムーズなコミュニケーションの図られる人材が必要であり,そのためには外部からの人材導入が必要となる。
(キーワード:東北,6次産業化,地域資源,集落営農,農業法人,連携)
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