Vol.5 No.9 【特 集】 家畜ゲノム研究の現状と将来 |
特集とそのねらい |
農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 上西 博英 |
21世紀に入り,各種の家畜においてゲノム解読が行われるなど,ゲノム情報の蓄積の進展は著しい。さらに,ゲノム情報を活用した家畜の改良のための研究など,様々な応用についても顕著な進展が見られる。そこで,これまでに明らかにされた各種家畜のゲノム情報と,その様々な活用の場面について紹介し,畜産におけるゲノム研究の有用性について改めて振り返ることを企画した。併せて,JATAFFが筆者などの関連研究者とともにこれまでに取り組んできた,ブタゲノム解析の成果と今後の活用について紹介したい。 (キーワード:家畜ゲノム,塩基配列解読,ゲノム情報,育種,ゲノム編集) |
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ゲノム情報を活用した豚の生産性向上のための取り組み |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 谷口 雅章 |
豚の生産性の向上において,繁殖性および飼料利用性は,それぞれ生産頭数およびコストに直結することから,それらの能力改善が必須である。近年,ブタの全ゲノム解読が完了した。さらに,ゲノム情報を取得するためのツールや,詳細に解析するためのシステムなどが次々と開発されている。われわれは,民間種豚場および県の系統造成集団において,ゲノム情報を活用した遺伝学的な解析手法を用いて,豚の生産性の育種改良に貢献するツールとしてDNAマーカーの開発を試みた。その結果,ブタの繁殖性ならびに飼料利用性の向上に寄与するものを見出すことができた。本稿でこれまでの取り組みについて紹介する。 (キーワード:育種改良,飼料利用性,ゲノム,繁殖性,ブタ) |
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ゲノム情報を活用したブタの抗病性向上に向けた取り組み |
農業・食品産業技術総合研究機構 生物機能利用研究部門 上西 博英 |
感染症による生産性の低下や衛生対策コストの上昇は養豚業において極めて重要な問題であり,現代の養豚業は病気との闘いであると言っても過言ではない。ブタの疾病対策としては病原体からのアプローチの他に,宿主であるブタ自体の抗病性を高めることも重要と考えられる。ゲノム塩基配列や遺伝子構造などのブタのゲノム情報の蓄積により,感染症への感受性と関連するゲノム領域や遺伝子の解明がブタにおいても可能になりつつある。パターン認識受容体など,病原体認識にかかわる分子をコードする遺伝子の多型などを中心に,これまでのブタ抗病性向上のためのゲノム情報を利用した研究の概要を紹介する。 (キーワード:抗病性,免疫系遺伝子,パターン認識受容体,DNAマーカー,ゲノム情報) |
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豚肉の霜降りを増やすために−ゲノム情報を活用した取り組み− |
元 (公社)農林水産・食品産業技術振興協会 農林水産先端技術研究所 (現 日本ハム株式会社 中央研究所) 両角 岳哉 |
豚肉の筋肉内の脂肪を増加させることは,豚肉生産において高付加価値付けや差別化に繋がり,生産者の増収や地域振興などへの貢献が期待される。国産豚肉の多くは,2品種を掛け合わせて生まれた母とデュロック種の父から生産される三元豚であり,デュロック種の肉質への影響は大きい。ブタにおいて蓄積の進んだゲノム情報と,表現形質と関連する領域に関するデータベース情報を活用し,次世代シーケンサー解読などの技術を用いて,デュロック種複数集団の霜降りの改良に有効なDNAマーカーを開発した。 (キーワード:筋肉内脂肪割合,育種改良,DNAマーカー,QTLdb,デュロック種) |
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ウマゲノム情報が産業界にもたらすもの |
公益財団法人競走馬理化学研究所 戸崎 晃明 |
ウマにおいては,2007年にゲノムが解読されたことで,公的データベースの整備やSNPチップ開発など,遺伝学的研究推進のための研究インフラの整備が大きく進んだ。これにより,競走能力や体型,疾患などの原因遺伝子が明らかとなり,距離適性検査などの遺伝学的検査が,世界各国で行われるようになった。これらの遺伝学的情報は競走馬の健康と福祉を目的とした遺伝子治療などの先端獣医療に貢献する一方で,その不正利用にあたる遺伝子ドーピング問題も誘起した。本稿においては,ゲノム情報が産業界に及ぼす影響について述べるとともに,後継プロジェクトである動物ゲノム機能注釈付け(FAANG)プロジェクトについても紹介する。
(キーワード:ウマ,ゲノム,フェノム,FAANG,遺伝子ドーピング) |
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和牛のゲノム解析とDNAマーカーの利用 |
神戸大学大学院 万年 英之 |
和牛は我が国固有のウシ品種であり,その肉質から世界的に高い評価を得ている。これまでに和牛に対するゲノム解析は,産肉形質を代表とする経済形質に対するゲノム解析と候補遺伝子解析,遺伝的不良形質に対するゲノム解析と遺伝子マーカーの利用,個体識別・親子鑑定,牛肉の品種・産地鑑定,DNA情報を用いた遺伝的多様性解析など,様々な分野で応用されてきている。本稿では和牛に対するこれまでのゲノム解析の経緯を示し,これら開発されたDNAマーカーの利用について概説する。今後の和牛に対するゲノム解析は,より高品質な牛肉を生産する目的に適用・利用されるとともに,集団からの遺伝疾病変異の排除,繁殖形質などの生産効率にかかわる形質,遺伝的多様性維持などの,複数の育種改良目標を達成するために利用されていくだろう。 |
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日本における乳用牛のゲノミック評価 |
独立行政法人家畜改良センター 佐分 淳一 |
日本において,ホルスタイン種のゲノミック評価が2017年から本格的に開始された。当初,国内のリファレンス集団が小さいことが特に問題となっていたが,米国やカナダとSNP情報の一部を共有することが可能となり,現在では種雄牛約1万頭のリファレンス集団を使用してゲノミック評価を行っている。評価値の計算には,大規模SNP情報に対応したSNP-BLUPを用い,従来評価の計算とゲノミック評価の計算を別々に行うマルチ・ステップを採用している。若雄牛のゲノミック評価の信頼度は従来評価から約30%向上している。ゲノミック評価値を持つ若雄牛や未経産牛を有効利用し,世代間隔の短縮から遺伝的能力のさらなる改良が期待されている。 (キーワード:ホルスタイン種,SNP,ゲノミック評価,リファレンス集団,世代間隔) |
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家禽のゲノム編集と畜産における利用方向 |
農業・食品産業技術総合研究機構 畜産研究部門 田上 貴寛 |
鶏卵は現代の人類の生活を支えている必要不可欠のものとなっている。食用としてだけではなく医療,特にワクチンの製造にも利用されている。一方で,鶏卵は食物アレルギーの原因物質の第一位であり,鶏卵の利用に慎重にならざるを得ない人も多い。そこで,従来の育種法では困難だったアレルゲンを含まない卵の生産を,近年開発されたゲノム編集技術によって実現しようと考えた。今回,鶏卵アレルギーの原因物質として最も強力な「オボムコイド」を含まない鶏卵を作出することを目的に,遺伝子の一部をゲノム編集技術により欠失させたニワトリを作出したので本稿において紹介するとともに,ゲノム編集技術を用いた新しいニワトリの活用方法について紹介する。 (キーワード:鳥類,畜産,卵,卵白アレルギー,バイオリアクター,ゲノム編集,遺伝子ノックアウト・ノックイン) |
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