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Vol.5 No.11
【特 集】 九州沖縄地域の多様な農業を支える技術開発


九州沖縄農業の概要と特集のねらい
農研機構 九州沖縄農業研究センター    井手 任
 九州沖縄地域では,温暖な自然環境などを背景に多様な農業が展開される一方で,昨年4月には熊本地震,本年7月には九州北部豪雨に見舞われるなど,自然災害にも立ち向かわなければならない。特集では,熊本地震による農地や作物への影響について報告するとともに,水田輪作,畜産,果樹,サトウキビに関する技術を紹介する。さらに海外飛来性害虫の飛来予測,地域ブランドを支える技術を紹介し,最後に,栽培が広がりつつある大麦とカンショの品種の魅力を紹介する。
(キーワード:熊本地震,技術,品種)
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「平成28年熊本地震」で農地や作物に何が起こったか
農研機構 九州沖縄農業研究センター    岡本 正弘
 平成28年熊本地震では,震源地の近くの農地で不陸(地表の凹凸)が発生した。ドローンによる観測の結果,凹部の発生個所は基盤整備以前の圃場の水路部分と一致することがわかった。凹部においては,水稲は葉色が濃く生育旺盛で多収となった反面,大豆では湿害が発生し減収した。有明海や八代海沿岸部で生じた液状化は,トマトの次期作の生育には影響しなかった。ウンシュウミカンは,石垣の崩壊により根が3割以上露出すると,樹や果実の生育に影響がみられた。阿蘇地域において水稲の代替として作付けされた飼料作物は,栽培経験のなさや湿害等により,本来の収量を発揮できない場合が少なくなかった。
(キーワード:平成28年熊本地震,不陸,液状化,ドローン,電気探査,作物)
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べんがらとモリブデン化合物で種子を被覆した
水稲湛水直播「べんもり直播」
農研機構構 九州沖縄農業研究センター    原 嘉隆
 水稲作において直播は低コストで省力な技術として期待されるが,普及率はまだ低い。直播面積の大半を占める湛水直播では苗立ちの確保が重要である。これまでも苗立ちの確保のために種子被覆が行われてきたが,より低コストで省力な「べんモリ被覆」を開発した。この方法は,加重のためのべんがら(酸化鉄)と,土壌中で有害な硫化物イオンの生成を抑制するためのモリブデン化合物と,付着剤を種子に被覆する。このべんモリ被覆種子は,従来のカルパー被覆種子と同様の機械で土壌中に播種でき,同等程度の苗立ちが確保できている。この被覆による「べんモリ直播」は普及が進み,2017年は全国の推定1,500haの水田で実施された。
(キーワード:水稲,湛水直播,種子被覆,べんがら,酸化鉄,モリブデン)
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地域分業化による大規模肉用牛繁殖経営
農研機構 九州沖縄農業研究センター    服部 育男
 肉用牛繁殖経営の経営規模の拡大と育成および産地機能の維持を目的に,それをサポートする飼料生産組織,飼料を供給するTMRセンター,子牛を育成する子牛育成センターが子牛生産にかかる一連の役割を大規模繁殖経営と連携・分担することで,それぞれを最適化し,低コスト,高品質子牛生産を実現する地域営農の体系化を実現する。飼料生産組織では不耕起播種による3毛作体系の導入により,年間の実乾物収量は約4割増収し,慣行を上回る労働報酬と収益性が確保できた。TMRセンターにおいては麦焼酎粕濃縮液を活用することで,飼料原料費が平均6円/頭/日削減できた。大規模繁殖経営ではICTによる分娩監視技術により,分娩事故は実質0%となった。子牛育成においては強化哺育技術により,哺乳期間,出荷日齢が短縮された。これら新技術導入効果を合わせると,子牛1頭あたり生産費は約5%低下することが実証された。
(キーワード:肉用牛繁殖経営,飼料生産組織,TMRセンター,子牛育成センター,地域分業化)
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佐賀県におけるウンシュウミカン根域制限栽培技術の開発と普及
佐賀県果樹試験場    新堂 高広
 ウンシュウミカンの高品質果実が生産しにくい平坦地において省力化を図りながら安定して高品質果実が生産できる根域制限栽培の研究を重ね栽培法を確立した。本技術は現場において経営的な有利性や管理作業の省力性を明らかにするとともに,慣行のマルチ栽培に比べ地域のブランド率を著しく向上させることに貢献している。今後は機械化をすすめることで,大規模省力栽培における高品質果実生産技術を確立し,産地の維持,活性化へとつなげていく。
(キーワード:根域制限栽培,ウンシュミカン,高品質,省力化)
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茎の日伸長速度から見たサトウキビの灌水開始時期と灌水効果
沖縄県八重山農林水産振興センター    砂川 喜信
 宮古地域は島尻マージが主体であり,生産量が干ばつ期間の長短に大きく左右されてきた。灌水が有効である事は良く知られているものの,「効果的な灌水開始時期」に関する知見は乏しかった。今回,茎の日伸長速度を毎日計測することにより,梅雨や台風などの大雨の後であっても1週間以上降雨がない場合,急激に日伸長速度が低下することや,約2週間以上降雨がない状態が継続すると茎伸長が停止することがわかった。また,梅雨明け1週間以内から灌水を継続した場合,梅雨直後の高い日伸長速度推移が維持されることや,6月の日伸長速度が一番高いことも示された。
(キーワード:サトウキビ,茎,日伸長速度,灌水,干ばつ)
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海外から飛来するイネウンカ類の飛来予測システム
農研機構 九州沖縄農業研究センター    松村 正哉
 西南日本の水稲栽培で特に問題となる重要害虫の海外飛来性ウンカ類について,日本に飛来する時期とどこから飛来するかを予測するシステムを開発した。予測システムはトビイロウンカ・セジロウンカ版とヒメトビウンカ版の2つに分かれている。これらの予測システムは,現在,日本植物防疫協会のデータベースサービスJPP-NETで実運用されている。メールアドレスと予測したい県をシステムに入力することで,飛来が予測される時に飛来予測図のURLなどが配信される。このシステムは都道府県の病害虫発生予察担当者・研究者に利用されている。
(キーワード:水稲害虫,発生予察,トビイロウンカ,セジロウンカ,ヒメトビウンカ)
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みやざきブランドを支える残留農薬検査システム
一般社団法人食の安全分析センター    安藤 孝
 宮崎県総合農業試験場は,農産物から残留農薬などを効率よく抽出する超臨界流体抽出技術を1998年に開発し,約250成分の残留農薬を2時間で分析できる体制が宮崎県内に構築された。この技術をベースとした日本一の農産物出荷前自主検査を現在も継続している。また,2012年からは,この技術のさらなる向上を目指して,大阪大学,神戸大学,株式会社島津製作所との共同研究を進め,世界最先端の分析装置を開発した。2015年には,食品の安全性や機能性,おいしさを科学的根拠で示し,ブランドの強化や輸出拡大を支援する一般社団法人食の安全分析センターが設立された。
(キーワード:残留農薬,みやざきブランド,輸出促進,超臨界流体,装置開発)
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多収でオオムギ縞萎縮病に強く穂発芽しにくい
二条大麦品種「はるか二条」
農研機構 九州沖縄農業研究センター    平 将人
 「はるか二条」は暖地・温暖地向けの二条大麦品種として,2012年11月に品種登録出願された。本品種は,九州で広く栽培されている二条大麦品種「ニシノホシ」と比べて,穂数が多く,整粒歩合が高く,多収である。また,容積重および千粒重が大きい。さらに,オオムギ縞萎縮ウイルスⅠ~Ⅴ型系統およびうどんこ病に対する抵抗性は"極強",穂発芽性は"やや難"で,いずれも優れる。歩留55%搗精時の砕粒率はやや高く,精麦白度はやや低いが,炊飯適性および焼酎醸造適性は同等である。2017年9月時点で長崎県,鹿児島県,福岡県および宮崎県で奨励品種等に採用されており,九州の広い範囲で普及が進められている。
(キーワード:二条大麦,多収,オオムギ縞萎縮病,穂発芽,焼酎醸造適性)
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良食味で作りやすく,加工にも向く青果用サツマイモ品種「べにはるか」
農研機構 九州沖縄農業研究センター    甲斐 由美
 蒸しいもや焼きいもの甘味が強く,柔らかくしっとりとした食感を持つ青果用サツマイモ品種「べにはるか」は,食味だけでなく外観や収量性も優れている。西日本向けとして育成されたが,現在では大分県,鹿児島県,茨城県,千葉県など,全国各地で栽培面積が拡大しており,産地におけるブランド化も順調である。焼きいも用として特に人気があるが,干しいもや菓子類,焼酎などの原料としても評価が高く,商品化率が高いことも大きな魅力となっている。
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