Vol.6 No.3
【特 集】 第13回若手農林水産研究者表彰受賞者の業績


西アフリカにおける砂漠化抑制と収量増加をともに実現する
省力的技術の開発
国際農林水産業研究センター     伊ヶ崎 健大
 最貧国が連なる西アフリカでは,依然として風食および水食(風や雨による土壌侵食)を主要因とする砂漠化が進行し,深刻な食糧不足の原因ともなっており,その解決は喫緊の課題である。本研究では,①まず新たな風食測定装置の開発を通して風食による砂漠化メカニズムを解明し,②それに基づき,風を味方につけるという新発想の下で,現地の人々でも簡単に実施でき,かつ作物収量も向上できる風食対策技術「耕地内休閑システム」を開発し,③その技術の最適な導入方法も明らかにした。さらに,同技術が水食対策としても有効である可能性が高いことから,現在はその有効性の検証試験を実施している。
(キーワード:土壌侵食,持続的土地管理,サハラ以南アフリカ,乾燥地)
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食品の有効な摂取に向けた体内時計調節に関する研究
農業・食品産業技術総合研究機構 食品研究部門    大池 秀明
 社会の24時間化が進んだことにより,体内時計と環境周期のずれに起因する健康リスクが増加している。このため,従来の栄養/食品研究に体内時計という視点を取り入れることによって,新しい食品開発の方向性が見えてくる。実際に,ポリフェノール,カフェイン,食塩など,日常的に摂取する食品成分によって体内時計は変化する。また,朝食による体内時計のリセットには,糖とアミノ酸の組合せが効果的であることや,不規則な食生活のみで肥満が誘導されることなども明らかになってきた。ここでは,自身の研究成果を中心に,時間栄養学という新たな研究分野について紹介する。
(キーワード:体内時計,時間栄養学,時計遺伝子,機能性食品)
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ナシとリンゴの省力栽培形質に関するDNAマーカーの開発
農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門     岡田 和馬
 果樹育種では,生産者の減少や高齢化に対応するため,省力栽培に適した新品種を早期に育成することが求められている。そこで,ニホンナシでは人工受粉作業を省力化できる自家和合性個体を,リンゴでは剪定作業などを省力化できるカラムナータイプ(円柱状)の樹形を示す個体を正確に選抜できるDNAマーカーを開発した。これらのDNAマーカーを用いることにより,幼苗段階で省力栽培形質を持つ個体を簡便に選抜できるようになり,品種開発が加速した。
(キーワード:ニホンナシ,リンゴ,育種,省力栽培,DNAマーカー,突然変異)
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乳酸菌オリゴDNAを腸まで届ける経口用ナノカプセルの開発
信州大学 菌類・微生物ダイナミズム創発研究センター    下里 剛士
 オリゴDNAとは,微生物ゲノムDNAに由来する免疫機能性核酸素材である。これまでに優れた免疫機能を有するオリゴDNA(DNA短鎖)が次々と見出されているが,その簡便かつ経済的な投与方法は確立されていない。特にオリゴDNAは胃酸による分解を受けることから,注射器による投与方法が採用されてきた。筆者らの研究グループは「食べるオリゴDNA」を掲げ,乳酸菌由来のオリゴDNAを独自技術でコーティングし,胃液に溶けず腸まで届く「DNAナノカプセル」の開発に成功した。さらに注射投与量の1/10量に相当するオリゴDNAをナノカプセル化し,繰り返し腸管に送達させることで,全身免疫系を制御できることを初めて示した。今後,オリゴDNAを有効成分とする家畜飼料や機能性食品の創製が期待される成果である。
(キーワード:オリゴDNA,乳酸菌,ナノカプセル,腸管,家畜飼料,機能性食品)
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TMRセンターを核とした地域飼料流通利用システムの開発
秋田県畜産試験場    渡邊 潤
 日本の飼料自給率は低く,多くの部分を輸入に依存している。このため,自給粗飼料と地域未利用飼料資源を活用した飼料自給率の高い畜産経営による安定化が求められる。一方で,農家の高齢化,規模拡大により,農家個々での自給飼料生産の拡大は難しい状況にある。そこで,今後とも畜産経営を持続的なものにするためには,「地域」を一つの生産経営体としてとらえる必要があると考えた。本研究では,地域の飼料資源を利用して混合飼料を製造・供給するTMRセンター(牛の給食センター)に注目し,そのシステムを運用していくための技術開発を行った。また開発した技術は民間企業へ技術移転され,実際の現場で活用されている。
(キーワード:TMRセンター,発酵TMR,飼料自給率,コントラクター,籾米サイレージ)
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