Vol.6 No.7
【特 集】 米の多用途利用に向けた技術開発


米粉を使った新たな食品開発の展開
新潟薬科大学    大坪 研一
 米粉を使った新たな食品開発について展望する。食糧自給率を高める意味から,農林水産省は米粉の開発と普及を支援している。新潟県は米の主産県として長い技術開発研究と行政的施策の歴史がある。また,筆者らによる米粉の加工利用研究についても紹介させていただいた。米粉の食品開発は,おいしさと健康機能性を求めて社会的ニーズが強い。グルテンフリーと用途適性をキーワードとする普及活動も盛んになりつつあり,海外への輸出も踏まえて,今後の消費拡大が期待される。
(キーワード:米粉,食味,グルテンフリー,機能性,食品開発)
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米粉用等に適した水稲品種の開発
農研機構 次世代作物開発研究センター    石井 卓朗
 農研機構では,米粉パンに適する品種として,粒径が小さく損傷デンプンの割合が低い米粉に製粉できる「ほしのこ」,「ゆめふわり」,「こなだもん」,米粉麺に適する品種として,アミロース含有率の高い「北瑞穂」,「越のかおり」,「ふくのこ」等,日本の各地域での栽培に適した米粉用品種を育成してきた。今後は,高品質で低価格な米粉生産を実現するため,各用途にあった米粉特性を有し,収量性を一層向上させた米粉用品種の育成を進めることが重要である。
(キーワード:水稲,米粉,米粉パン,米粉麺,多収)
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米粉性状と製パン性の関係
新潟県農業総合研究所    本間 紀之
 従来にない新規微細米粉の開発により米から麺やパン類などの製造が可能となっている。微細米粉は多様な粉粒の集合体である一方,加工利用する際は他原料との関係性もあるため,有効な米粉性状が不明瞭となる場合がある。そこで篩い分けした米粉を使用した製パン試験により,小麦粉並の微細性・低い澱粉損傷度が製パンにおいて有効であることを再確認した。また,米粉の性状は製粉条件・方法と原料米特性の組み合わせにより左右されるが,そのうちアミロース含量や未熟粒率が精白米の製粉性に影響を与えることを明らかにした。
(キーワード:米粉,製粉,粒径,澱粉損傷度,米粉パン)
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米粉を米麹で作るノングルテン米粉パンの開発と普及
農研機構 次世代作物開発研究センター    荒木 悦子
 米麹やプロテアーゼを用いてノングルテン米粉パンを製造する技術を開発した。この技術においては,米粉,米麹(あるいはプロテアーゼ),水を混合したパン生地の作成,生地の加熱・保温(45〜55℃,5〜15時間),イースト発酵,焼成の工程によりノングルテン米粉パンを製造する。プロテアーゼ活性による米粉のタンパク質の部分分解,およびパン生地を45〜55℃で5〜15時間保温することによりパン生地の粘度が高くなるため,グルテンを加えなくても米粉パンを作ることができる。このノングルテン米粉パンの食味改良に取組み,大豆発酵食品を添加した「米麹を用いたノングルテン米粉パン」が商品化され,販売が始まった。
(キーワード:米粉パン,ノングルテン,グルテンフリー,米麹,プロテアーゼ,生地粘性)
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米粉パンの加工技術と品質評価
農研機構 食品研究部門    奥西 智哉
 米粉パンの加工性には米粉の吸水特性が影響を与えている。一般的には米粉の損傷デンプンと呼ばれている製粉時の熱的ダメージがその原因である。デンプンの熱損傷の程度によりパン材料の適正加水量は大きく異なるが,ファリノグラフ400BUにおいて各種パンの適正水量を示すことができる。パン製造時においては生地に粘りを付与することで発酵ガスの保持を促し良好なパンになるが,デンプンあるいはタンパク質を改変することで達成している。パンの製法を選択することで熱損傷の大きい米粉でもその特性を生かすことができる。
(キーワード:米粉パン,損傷デンプン,ファリノグラフ,比容積)
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新規食品素材「米ゲル」による新たな食品の開発の現状
一般社団法人米ゲル技術研究所    杉山 純一
 高アミロース米に,水を加えて炊飯し,高速せん断撹拌を施すことで,食品素材「米ゲル」ができる。主な特徴として,1)様々な物性制御が可能,2)物性の経時変化が少ない,3)工程の簡略化が可能,4)離水がしにくく,カロリーも抑えられ,5)様々な加工がしやすい,等を特徴としている。普及に問題となっていた大量生産技術も確立され,工場生産も立ち上がり,「ライスジュレ」として国内での食品開発に使われ始め,海外にも輸出が検討されている。
(キーワード:高アミロース米,ダイレクトGel転換,ライスジュレ,大量生産技術,お好み焼き)
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油糧米を利用した米糠の活用―「水田を油田に」を目指して
三和油脂株式会社    山口 興左衛門
 今年から米の生産調整(減反)制度が廃止になった。それは日本の米消費が減少している中,米の需要の伸びが見込める品種や地域は増産の機会が生まれるチャンスでもある。これまで 食料自給率の向上のため,飼料用稲の栽培や米粉の利用など飯米以外での米の消費拡大が国の施策として進められ,一定の成果を上げている。その中の一つに「油糧米」という利用法があり関心が高まっている。こめ油の原料となる米糠(胚芽を含む)を生産するための米を栽培するという考えである。当社では,油糧米として巨大胚種「金のいぶき」に注目した。胚芽が大きいことにより,発生する米糠の量が多く,得られる油の量も多い。今回,「金のいぶ き」から当社の新規圧搾技術を応用したプレミアムこめ油及び関連商品の開発を行ってきており,その一例を紹介する。
(キーワード:米糠,こめ油,油糧米)
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米粉の需要拡大に向けた取り組み
農林水産省政策統括官付穀物課    小俣 範雄
 我が国の米の消費量は,毎年約8万トンずつ減少している中で,小麦粉と同じようにパンや麺,菓子など多様な食品に加工ができる米粉が注目を集めている。しかし,単なる「米粉」では,製品によって品質の違いが大きく,利用の拡大・定着を図ることは難しい。このため,消費者が米粉をより使いやすいように,「菓子用」・「パン用」・「麺用」といった,用途に合わせた米粉の統一的な基準が公表された。また,グルテンを含まない食品への需要の増加が見込まれることから,グルテンを含まない米粉製品の表示に関するガイドラインが公表された。農林水産省としても,このような取り組みや輸出の拡大を支援し,米粉の需要拡大を後押ししていく。
(キーワード:表示,用途別基準,ノングルテン,第三者認証,米粉協会)
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