Vol.6 No.9
【特 集】 害虫防除技術の最前線


特集のねらいと内容
保全生物的防除研究事務所    根本 久
 天敵資材費の低減化や防除労力の削減のための技術として,国内版の「バンカー法」が開発されている。一方,露地栽培では,圃場内外への天敵温存植物の植栽や天敵に悪影響の少ない防除剤を選択し,土着天敵の定着や増殖を図っている。この他,化学農薬に依存しない防除技術として,物理的あるいは植物と昆虫の生理的メカニズムを利用した防除技術がある。施設園芸での紫外光照射によるイチゴのハダニ類防除やイチゴ苗の高濃度炭酸ガス処理によるハダニの長期間発生抑制技術,植物ホルモンを利用したアザミウマ類の忌避物質の利用技術についても紹介する。併せて,農薬サイドからの薬剤抵抗性発達回避手法の提案についても紹介する。
(キーワード:バンカー法,タバコカスミカメ,紫外光照射,高濃度炭酸ガス処理,ジャスモン酸)
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施設園芸害虫アブラムシ類に対する基盤的防除のための
次世代型バンカー資材キット
農研機構 中央農業研究センター    長坂 幸吉
 バンカー法は,施設内に十分量の天敵を維持できる餌場を設けて天敵を長期継続的に維持することにより,害虫を待ち伏せ,低密度のうちに防除する技術である。アブラムシ対策としての従来のバンカー法では,対応できるアブラムシの種類が限定されていたこと,実施手順が煩雑で,管理も難しいことなどが問題だった。これに対して,生物農薬として既登録の天敵コレマンアブラバチと土着で寄生範囲の広いナケルクロアブラバチを併用し,植物上に餌アブラムシと天敵を付着させたバンカー型製剤を新たに開発した。試験圃場において,これを用いた次世代型バンカー法による防除効果を主要4種のアブラムシで確認し,イチゴ生産地などでの現地実証試験でも良好な結果を得ている。
(キーワード:アブラムシ,アブラバチ,バンカー法,天敵)
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施設栽培キュウリのアザミウマ類防除のための
土着天敵タバコカスミカメ利用技術
農研機構 中央農業研究センター     日本 典秀
 施設栽培キュウリのアザミウマ類の防除のための土着天敵タバコカスミカメの利用技術を開発した。はじめに,本種の雑食性を利用したバンカー法の確立のために,本種の維持に適した植物種としてバーベナ「タピアン」とスカエボラを選定した。また,本種を1週間間隔で3〜4回放飼することによって,アザミウマ類の密度を抑制できた。さらに,バンカー法により害虫密度が上昇する前に本種を維持しておけば,タバコカスミカメ密度・防除効果ともに約2倍となった。ただし,本種の導入から個体群の確立までは数週間を要することから,他の初期防除手段と組み合わせることが望ましいと考えられた。高知県が実施した体系化実証試験では,定植直後からスワルスキーカブリダニを併用することによって,安定的なアザミウマ類防除体系を構築できた。
(キーワード:タバコカスミカメ,バンカー法,アザミウマ,土着天敵,生物農薬)
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イチゴの輸出を支えるアブラムシ類防除技術
「次世代型バンカー法」の現地実証
福岡県農林業総合試験場     鍋谷 霞
 輸出用のイチゴ栽培では,輸出相手国の残留基準値に対応できる農薬が少ないため,アブラムシ類に対する農薬代替技術が必要である。既存のバンカー法の問題点を解決し,イチゴで発生する複数種のアブラムシに対応でき,簡便にバンカー法を実施できる資材キットが開発されたため,これを用いた次世代型バンカー法について,現地での効果試験と製品化された後の普及に向けた支援を行った。2カ年の現地試験の結果,イチゴで発生するワタアブラムシとジャガイモヒゲナガアブラムシへの防除効果が示唆され,農家からも簡便であると評価がなされた。今後普及に向けて検討が必要な点があるが,これによりイチゴの輸出IPM体系の確立に向けて見通しが立った。
(キーワード:イチゴ輸出,アブラムシ類,次世代型バンカー法,IPM)
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飛ばないナミテントウとコレマンアブラバチを併用し代替餌
システムを導入した半促成栽培ナスのアブラムシ防除
大阪府立環境農林水産総合研究所 食と農の研究部     金子 修治
 大阪府内の半促成ナス栽培施設において,天敵温存植物・スイートアリッサムをナス株間に植栽し,代替餌・アルテミア耐久卵を麻ひもに付着させた資材をナス株上に設置した条件で,飛ばないナミテントウ2および3齢幼虫を3回,コレマンアブラバチ成虫を2回放飼し,4月下旬〜7月下旬にアブラムシ類(モモアカアブラムシ主体)の密度推移を調査した。その結果,アブラムシ類の密度は調査期間を通じて低く維持され,この天敵利用体系によりアブラムシ類の密度を長期間抑制できる可能性が示された。
(キーワード:アブラムシ,アルテミア耐久卵,寄生蜂,スイートアリッサム,ナミテントウ)
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土着カブリダニ類を生かしたモモとナシのハダニ類管理
福島県農業総合センター 果樹研究所
川口 悦史・荒川 昭弘・佐々木 正剛
 果樹の害虫防除に使用する殺虫剤を土着天敵に配慮したものに代えることで,土着の天敵,特にカブリダニ類を保護し,殺ダニ剤の散布に頼らずにモモやナシのハダニ類を低密度に抑えようと試みた。モモで選択性殺虫剤を主体に防除体系を組み,土着のカブリダニ類を保護できることを示した。同圃場でハダニ類は低密度に推移した。ナシでも殺虫剤散布を極力減らした虫害防除技術の実証研究を行い,選択性殺虫剤のみで防除する体系と下草管理を組み合わせることで殺ダニ剤を散布しないでもハダニ類は低密度に推移した。
(キーワード:ハダニ類,カブリダニ類,土着天敵,モモ,ナシ,防除)
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紫外光(UV−B)照射を基幹とした
施設イチゴの病害虫同時防除技術
兵庫県立農林水産技術総合センター 農業技術センター     田中 雅也
 栽培施設内は,風雨にさらされない,紫外線(UV-B)が減少している,などの要因によりハダニが増えやすい。ハダニ増殖要因の一つである光(UV-B)環境を改善することでハダニが抑制できないか検証した。イチゴ栽培ハウスにおいて,UV-Bランプと光反射シートを組み合わせ,葉裏に生息しているハダニにUV-Bを当てることでハダニ増殖が抑えられた。UV-Bの照射を受けたハダニ卵が孵化しないことが主な作用機構と考えられる。同ランプはイチゴうどんこ病も抑制することから,イチゴの難防除病害虫を同時に防除する技術となる。収量・品質の向上も確認されており,イチゴ生産を安定化できる基幹技術の一つとして期待できる。
(キーワード:UV-B,ナミハダニ,光反射シート,うどんこ病,施設イチゴ)
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高濃度炭酸ガスによる植物の害虫フリー苗生産
−イチゴ苗の処理−
株式会社アグリクリニック研究所    村井 保
 施設栽培野菜においては害虫の寄生しない苗を植え付けることがIPMの基本中の基本であるが,薬剤抵抗性が発達している害虫の苗からの持ち込みをなくすことは不可能に近かった。とりわけ,イチゴのハダニは抵抗性の発達が著しく,栽培管理上の最大の課題となっている。イチゴは,苗を育成するまでの期間が長く,8〜9月に定植され,収穫は10月から始まり翌年の6月まで長期にわたる。定植直前の苗に,高濃度炭酸ガスの処理を行ったところ,イチゴの生育に障害なく,定植後のハダニの発生を長期間抑制できた。ここでは,高濃度炭酸ガス処理の効果,処理装置,処理方法などについて紹介する。
(キーワード:高濃度CO2,イチゴ,ハダニ防除,害虫フリー苗)
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難防除害虫アザミウマの行動制御を目指して
理化学研究所バイオリソースセンター     安部 洋・小林 正智
農研機構 中央農業研究センター
    櫻井 民人・津田 新哉
神奈川県農業技術センター
    大矢 武志
広島県立総合技術研究所
    松浦 昌平
農研機構 九州沖縄農業研究センター
    冨高 保弘
Meiji Seika ファルマ社
    三冨 正明・梅村 賢司
日本ゼオン社
    腰山 雅巳
 殺虫剤抵抗性を獲得した害虫の問題が顕在化している。特にアザミウマやコナジラミなどの微小害虫においては,ウイルス病の媒介性とも相まって状況は深刻である。病害と比較すると虫害の場合,抵抗性品種の育成なども立ち後れていることから,新たな防御手法の確立は急務といえる。このような中,我々は殺虫するのではなく行動を制御する制虫技術の確立を目指し,アザミウマ忌避剤の開発を行っている。忌避剤により,アザミウマの行動を制御し,「殺虫から制虫への転換」とともに,「殺虫と制虫の融合」をも可能としたい。本稿ではSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)から支援を得て行っている忌避剤開発の現状について紹介したい。
(キーワード:ミカンキイロアザミウマ,ジャスモン酸,植物防御,プロヒドロジャスモン,植物防御,プロヒドロジャスモン)
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殺虫剤抵抗性管理を農業生産者へ分かりやすく伝える仕組み作り
日本曹達株式会社 小田原研究所    山本 敦司
 薬剤抵抗性病害虫の顕在化は,薬剤を使用する限り避けられない。その原因の一つは,抵抗性発達リスクを考慮しない防除を行う我々のヒューマンエラーである。一方,後手に回らない抵抗性対策推進のため,リスク分析の考え方,すなわち,リスク評価(研究)→リスク管理(施策・指針)→リスクコミュニケーション(対話・伝達)を活用する。そして,抵抗性対策ツールであるRACコード,抵抗性リスク評価表,IPM技術,薬剤ローテーションなどを整備して,生産者へ抵抗性管理の方法を伝える仕組み作りに取り組んでいる現状と,抵抗性対策の成功事例を概説する。
(キーワード:薬剤抵抗性管理,リスクコミュニケーション,RACコード,抵抗性リスク評価表)
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