米・麦・大豆の最適生産管理にITクラウドを適用して効率化とやる気アップを実現
【先端技術の概要】
l 先端技術を用いた商品・サービスの名称:『豊作計画』
l 商品に実装されているコア技術:農業IT管理クラウド
l 商品・サービス事業者:トヨタ自動車株式会社
l 対象となる作物等及び作業:米・麦・大豆の最適生産管理
l 目指した効果・メリット:作業の効率化
l 商品・サービスのウェブサイト:https://www.toyota.co.jp/housaku/
【導入事業者の概要】
l 名称:有限会社鍋八農産
l 取材対象者:代表取締役 八木 輝治 氏
l 本社等所在地:愛知県弥富市鍋田町稲山393-15
l 会社ウェブサイト:https://ssl.nabe8.co.jp/
l 事業概要:地元の愛知県弥富市を中心に他市町村にもまたがって「田んぼ作業受託」を柱とする農業を展開し、採れた作物はスーパーや飲食店等に販売。肥料等の資材や栽培方法にこだわり、美味しく安心して食べられる作りを考えつつ農業に取り組んでいる。近年ではモミ殻や米ぬかを利用し堆肥を作って田んぼに散布したり、ITを活用して栽培管理の徹底を図るなどの取組を実施したりしている。代表取締役の八木輝治氏は、弥富地域農業機械銀行受託部会の会長等を務めるほか、第55回農林水産祭天皇杯などの受賞歴を持つ。
執務中の八木氏
【先端技術の導入に至った経緯】
l そもそもどういう問題・課題に直面しており、それをどのように改善・解決したかったか:
「もともと、農業を会社経営的に運営しようと思うと様々な問題があるなと思っていました。例えば、作業受託の報告書を作るとき、従来のやり方では紙の図面をひたすらコピーしてそこに作業状況などを手で書き込むのですが、これがとても手間で非効率。しかも、古い紙の図面は現況と一致していないことも多く、正確さの点でもおぼつかない。そんな作業を繰り返していたらモチベーションも下がります。そんな問題がいまの農業にはたくさんある。そういう状況を抜本的に改善して作業効率を高めることが必要だと思います。」
l その問題・解決を先端技術によって解決しようと思った理由・きっかけ:
「実は、当社が導入した『豊作計画』は、トヨタ自動車と当社のいわば共同開発の賜物なのです。農業IT管理クラウドの開発には作業工程の理解が不可欠であることから、トヨタ自動車の要請を受けて、2011年から2015年まで当社にトヨタ自動車の開発スタッフを受け入れて作業現場の実態をお見せするとともに、農業者としての意見を言って開発に反映してもらいました。」
【商品選択の決め手】
l 先端技術の選定に際して重視した基準・目安:
「『豊作計画』は生産工程管理を通じて作業を最適化するために、“見える化”や改善活動というトヨタ自動車のノウハウを一緒に提供してくれる(ただし有償)。単にデータを記録したり図表にしたりするだけでなく、それを具体的な改善につなげるという点がとても重要だと考えています。」
【先端技術の効果・メリット】
l 先端技術の導入により、具体的にどういった効果・メリットを享受しているか。また、それは当初想定に比べてどうであったか:
「デジタルベースの農業IT管理クラウドの最大のメリットの1つは、リアルタイムで圃場の状況を把握できる点です。例えば、圃場Aで何らかのトラブルが起きて人員を追加投入する必要が生じたら、人員が厚めに配置されている他の圃場から人を移動させる必要があります。そうした事態には即座に対応することが大切です。ところが、かつては、その日の作業が終わった後になってから「実は圃場Aでかくかくしかじかの問題が起きていた」という報告を受けることがありました。経営者としては『いまごろ言われても遅いよ!』となる。その時その時の状況に応じて即座に手を打てることは最適化の大前提です。」
「また、作業全体の効率化が進み、結果的に無駄な残業がかなり減りました。これは経営的にも大きいですし、従業員にとっても時間的ゆとりができるメリットがある。実際、作業量自体が減ったのかなと錯覚するぐらい、効率化できています。」
「加えて、圃場状況の情報をリアルタイムで従業員全員が共有しつつ改善対応を行う中で、従業員が自分でいま何をすべきかを考えるようになりました。それで成果が出るとさらに考えるようになる。こうした変化を受けて当社はいま、スタッフ全員に圃場の一部を任せきりにして、個々人で栽培方法を考え、栽培試験を行い、食味等を確認させています。このモチベーション効果は、実は予期していなかったことなのですが、とても大きなメリットです。農業者にとっての仕事の張り合いは収量増や食味向上ですが、今回導入したシステムが新たな張り合いの源になっている面があります。」
l 先端技術の効果・メリットのコストパフォーマンスをどう評価するか:
「例えば、春に行う米の育苗作業では不必要な苗の削減などで25%のコスト圧縮が出来ました。苗が足りないと困るので多めに作るのですが、予備があるという安心感が逆に災いしてつい作り過ぎていたんです。データに基づいてIT管理することで、本当に必要な分だけ予備の苗を作るようになり、大幅なムダ削減に繋がりました。」
「同じように秋の収穫期にもIT管理により、米の乾燥施設の稼働状況に合わせて収穫を上手にコントロールできるようになり、深夜の施設操業などを減らすことができています。要するに、モノの“出”と“入”が合わないことによる非効率を無くすという、経営上の基本的なことが出来るようになったということです。」
「先端農業技術の導入に要するコスト(投資)は決して少額ではないですが、前述の効率化やモチベーション向上の効果が今後も継続するなら、長い目で見てコストは回収できる。いまのところは先端技術導入の投資に見合うコスト削減効果があると感じています。」
l 効果・メリットを実現する上で、思わぬ苦労や障壁はあったか:
「特にそういうものはないですが、当社は作物の安全・安心も追求しているので、これまで思い込みで化学肥料や農薬の必要量を判断していることがあったので、それを明確な科学的基準に基づいて判断したい。その点でも先端技術を上手く活用できるようになりたいと思っています。」
『豊作計画』を操作する八木氏
【先端技術の導入プロセスにおける専門コンサルの重要性】
l 技術・サービス事業者や関係機関などからの助言・サポートは有償であったか無償であったか。無償であった場合、それを当然と思うか。有償であった場合、費用を負担してでも欲しいと思える効果・メリットはあったか:
「『豊作計画』は導入とセットで、トヨタならではの改善ノウハウによるコンサルテーションを実施してくれるのですが、これは有償です。個人的には、無償というのは長続きしないように感じます。『どうぜタダだから』と、利用する側が真剣に使おうとしないことになるのではないでしょうか。大切なことは、経営課題・目標を明確に意識して、それを達成するために必要な投資を行うということです。それには有償の方が効果的かもしれません。ただし、コンサルテーションをする側も、ユーザーの経営課題に真剣に向き合い、ともに結果を出す努力が必要だと思います。」
【その他】
l 農林水産業における先端技術の導入を効果的に推進していくに当たっての、メーカーや国の機関等に対するニーズなどを自由に:
「農業系の先端技術には良いものがたくさんあるように思いますが、1つ1つが高価であり、オプションも多いので、あれもこれもと買い求めていたらコストが膨れてしまいます。全体として最適で、しかもコストが過大にならないような形ができればよいと思います。」
「また、農業現場ではまだまだ事故が多い。事故防止に先端技術の機能がもっと発揮されれば嬉しいですね。」
鍋八農産の生産現場風景
【ここがポイント】
l 生産工程管理では、単にデータを記録したり図表にしたりするだけでなく、それを具体的な改善につなげることが大切。
l リアルタイムで圃場の状況を把握し、必要な対策をタイムリーに打てることが、農業IT管理クラウドの最大のメリット。
l 先端技術の導入に際しては、経営課題・目標を明確に意識し、それを達成するために必要な投資を行うという意識を持つこと。
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取材日:2019年9月11日