小麦等圃場画像の高精度解析による営農最適化で効率化と作業負荷軽減を実現

 

【先端技術の概要】

l  先端技術を用いた商品・サービスの名称:『天晴れ』

l  導入した先端技術:人工衛星やドローンから撮影した圃場の画像を解析し、農作物の生育状況を診断するサービス(クラウド型システム)

l  商品・サービス事業者:国際航業株式会社

l  対象となる作物等及び作業:水稲、秋小麦の生育状況の判断・管理

l  目指した効果・メリット:高精度データ解析による業務効率化・最適化、作業負荷の軽減

l  商品・サービスのウェブサイト:https://agriculture.kkc.jp/

 

 

【導入事業者の概要】

l  名称:南幌大地利用組合(JAなんぽろを母体とした生産者組織)

l  取材対象者:南幌大地利用組合関係者(南幌大地利用組合 組合長 伊藤 茂男 氏、同組合 前組合長 河村 由紀男 氏、JAなんぽろ農業振興課担当者、ほか)

l  本社等所在地:北海道空知郡南幌町栄町1-4-7JAなんぽろ所在地)

l  団体ウェブサイト:http://www.ja-nanporo.or.jp/JAなんぽろ)

l  事業概要:南幌大地利用組合は、JAなんぽろ(南幌町農業協同組合)を母体とする生産者組織。現在(取材時)の会員数は法人2、個人3JAなんぽろは19484月設立で組合員数は約2,800名、販売品年間取扱高は約36億円。「永続可能な南幌町農業」を目指し、環境変化に柔軟に対応できる経営基盤確立に向けた取組や、札幌市に近いという立地条件を活かして安全・安心な農産物を提供する「クリーン農業」を推進している。

 


      南幌大地利用組合の施設外観

 

【先端技術の導入に至った経緯】

l  そもそもどういう問題・課題に直面しており、それをどのように改善・解決したかったか:

「近年、農地の集約化が進み農家1戸当たりの事業面積が拡大しつつありますが、これはJAなんぽろ管内(南幌町)でも同様です。農業における法人化の動きもあり、この傾向は今後も強まっていくと予想されますが、それに伴い必然的に生じる問題があります。すなわち、ある事業者が管理すべき圃場が町内のあちこちに散在することとなり、作業従事者は離れた場所にある各圃場にいちいち時間をかけて赴いて作物の生育状態の確認などを行う必要あるということです。これは経営効率という点でも作業負荷という点でも看過できない問題であることから、有効な対応策が求められます。」

1993年にGATTウルグアイ・ラウンドの農業合意がなされて日本の米市場の部分的な開放が決まったことを受け、JAなんぽろは国の補助金を使って1999年に大規模な籾乾燥調製施設の運用を開始しました。これを利用する生産者の組織として、地域の生産者集団を母体に南幌大地利用組合(以下『大地』と記す)は設立されたのです。『大地』に結集した有志は個人としてだけでなく、南幌町全体としての農業の将来を考えており、圃場の大規模化と散在に伴う問題についても地域レベルでの対応策を講じていこうという機運が高まり、今回の先端技術の導入につながりました。」

l  その問題・解決を先端技術によって解決しようと思った理由・きっかけ:

「対応策を検討する中で、生産者同士の情報交換や勉強会を通じ、南幌町の近隣地域にて国際航業(株)のクラウド型営農支援サービス『天晴れ』を利用した圃場画像解析に基づく農作物生育状況診断が活用されていることを知り、『大地』でも導入できないものかと考えました。ただ、いきなり全町で新しい技術やシステムを導入するのはリスクが大きいので、良い意味での“実験”的な意味合いで、まず『大地』で率先して取り組んでみようということになりました。」

l  技術導入に際して助言・支援してくれた関係者:

2017年頃を中心に、『大地』メンバーの圃場に『天晴れ』を試験導入し、該当する全ての圃場でその有効性を実施確認したところ、上空から撮影された圃場画像の精度は予想以上に高く、農作物の生育状況を把握・判断する上で信頼に足り、業務効率化にも効果があると判りました。そのため、導入に向けた取組を進めることについて有志から特に大きな異論は出ませんでした。加えて、『天晴れ』は初期投資が不要といったメリットがあり、導入に弾みがつきました。」

 

【商品選択の決め手】

l  先端技術の導入までに検討した選択肢(製品・サービス)の内容:

JAなんぽろでは南幌町の営農情報全体の集約化の取組を進めていて、一部の情報の活用については国際航業(株)の『天晴れ』の機能がうまく適合しました。そうしたことから、今回の先端技術導入では複数のサービスを比較検討するのではなく、同社との連携を基礎として『天晴れ』を導入することを前提に進めました。ちなみに、同社は全国農業協同組合連合会(JA全農)との間で、システム連携を通じた地域農業活性化を目的とする情報利活用プロジェクトも進めています。」

l  先端技術の選定に際して重視した基準・目安:

「国際航業(株)と『天晴れ』の導入に向けた協議・準備を進める中で重視したことは、第1に、コストの抑制です。上述のとおり『天晴れ』は“初期投資不要”という特長を持っています。専用のPC端末やソフトウェアを必要としないので、そのための投資が不要というメリットがあります。月々の基本使用料やユーザー登録料も基本的に無料で、利用面積と回数に応じて課金される料金体系なので、固定費を抑えることも可能です。第2に、使い勝手の良さが挙げられます。例えば、小麦の収穫判断の重要指標である“穂水分率”が判り易く圃場マップ上に可視化されますし、広大な圃場を1,000haくらいの単位に分割して可視化することも可能です。そのおかげで、生産者が日頃使用している指標や経験値、用語をそのまま使って判断・作業することができ、ICTが身近なものに感じられます。ドローンなどを使って自分で撮影した画像を『天晴れ』のウェブサイト上にアップロードして解析依頼をすることが出来ます。第3に、業務効率の向上です。上空から撮影された圃場画像を高精度で解析することで農作物の生育状況を的確に判断でき、作業従事者がいちいち全ての圃場を見て回る作業から解放されつつあります。利用者の中には、小麦の収穫時期において穂水分率を確認する作業が50%削減されたという人もいます。」

l  最終的に当該製品・サービスを採用すると決めた理由:

「先に述べたとおりJAなんぽろでは営農情報の集約化を進めており、先端技術をテコに南幌町全体で営農を効率化して競争力を高めようとしています。そうした全町的ミッションにおいて、『大地』は生産者目線や現場感覚に基づいて先導的な役割を果たしているわけですが、『天晴れ』の機能とサービスがその『大地』のメンバーから有効性の高いものとして認知されているという事実は非常に重要です。今後、『天晴れ』とJAなんぽろ独自のGIS(地理情報システム)との間での情報共有化も進められていくことになっています。」

 

【先端技術の効果・メリット】

l  先端技術の導入により、具体的にどういった効果・メリットを享受しているか。また、それは当初想定に比べてどうであったか:

「『天晴れ』の診断レポートの解析精度が予想以上に高く、正確な結果がマップ上に可視化されることは大きな利点です。解析対象エリア全体の解析結果を一覧しながら、多くの圃場の中でどの地点に手を加える必要があるかを的確に判断することが可能です。そのため、作業の効率化が進んだことはもちろんですが、作業時間総量の削減(夜間業務の回避)や、雨天時における不必要な業務の削減など、人繰りのやり易さの向上や作業担当者に掛かる負荷の軽減という点でも、確かなメリットを感じています。」

「こうしたメリット全体を通じて、農作物の収穫順序(どの圃場から先に収穫するか)を科学的根拠に基づき合理的に決定できるようになっています。また、これに連動して、関連施設(例えば収穫物を乾燥させる機械設備)の運用を効率化することも可能になってきています。ある乾燥施設からは、稼働時間の計画的な管理による無駄な操業の削減が奏功し、燃料費を顕著に削減できたとの報告を受けています。乾燥施設は地域の共用設備ですから、その運用の効率化は南幌地域全体のメリットとして波及します。」

l  先端技術の効果・メリットのコストパフォーマンスをどう評価するか:

「現状では、『天晴れ』導入のコストパフォーマンスは非常に高いものがあるという評価です。もちろん、そのサービスを適用するエリアや対象作物(現状では水稲と秋小麦で今後は大豆などにも適用予定)を拡大すれば、利用回数の増加に伴いコストも増加しますが、先端技術の活用により収量・品質が高まり、業務効率が向上し、全体として収益性が高まるならば、一定のコストを投じる価値は十分あると納得感をもって考えています。」

 


『天晴れ』から得られた情報に基づき実際に圃場で現地確認をしている様子。

 


地続きの小麦の圃場にて。
人の目では判りづらいが、一方は立ち枯れしている状況が可視化されている

 

【先端技術の導入プロセスにおける専門コンサルの重要性】

l  先端技術の導入に際して、技術・サービス事業者や関係機関などから、どういった助言やサポートを得たか。それは何を解決するためであり、どういう効果・メリットを得たか:

「有償であるか無償であるかを問わず、やはり先端技術を利用する際には、それを正確かつ適切に使いこなすための指導・助言を得る必要があると感じます。一定のコストをかける以上、それに十分に見合うだけの事業収益性の向上を実現することが不可欠だからです。」

「加えて、新規導入した製品のメンテナンス(保守)をメーカーがどこまで責任を持ってやってくれるか、ユーザーとして関心があります。一般論ですが、高性能な電子機器の場合は正常稼働のために微妙なセッティングや調整が必要なことが多いので、どこまでが保守サービスの範囲で、どこからがユーザーの自己責任なのかを明確に線引きする必要があるように思います。特に、正常稼働しなかった場合に、それが果たして製品自体の故障・不具合なのか、それとも操作ミスなのかによってユーザーが担うべき責任範囲が変わってくるので、できれば国に先端技術に基づく製品のメンテナンスの責任範囲に関するガイドラインを作ってほしいところです。」

l  技術・サービス事業者や関係機関などからの助言・サポートは有償であったか無償であったか。無償であった場合、それを当然と思うか。有償であった場合、費用を負担してでも欲しいと思える効果・メリットはあったか:

「これまで『大地』と国際航業は、単に営農支援サービスのユーザーとベンダーという関係にとどまらず、より良いサービスの開発・現場実装を実現するパートナー的な関係で協業してきました。その中で、サービス利用に係る助言・サポートは金銭的に有償であるべきか無償であるべきかという次元とは異なる、win-winの関係を築いてきたと思っています。」

「一般論として言うならば、有償でなされるべきコンサルティングサービスの領域はあると思います。ただし、営農支援サービスなどの先端農業技術の内容は高度な知的産物であり、その中身は特許等の知的財産も含めてブラックボックスになっている面もあるので、開発に直接関わっていない主体(非ベンダー企業)がサービス利用に関するコンサルティングを有償で実施できるかと言えば疑問です。従って、有償事業としてコンサルティングを実施するのであれば、直接の開発主体(ベンダー)がそれを担うのが最も自然な形でしょう。ちなみに、『天晴れ』の場合、ベンダーである国際航業(株)が各地で開催される先端技術関連のセミナーや勉強会などで具体的な利用方法やメリット実現に関する情報提供をやっています。それは有料の場合もあれば無料の場合もあります。」

「これも一般論ですが、先端技術ベンダー企業の視点に立つと、ユーザーからフィードバックされる使い勝手や改善点などに関する情報は大変貴重でしょうから、そうした情報が得られるならば、たとえ無償であってもコンサルティングを通じて入手する意味があるかもしれません。そうだとすれば、先端技術・サービスがある程度普及・定着するまでの間は、われわれ『大地』のような生産者とのパートナーシップの構築がベンダーにとって第一義的に重要で、ビジネスとしての有償・無償の問題はその先の論点かもしれません。」

 

【その他】

l  農林水産業における先端技術の導入を効果的に推進していくに当たっての、メーカーや国の機関等に対するニーズなどを自由に:

「圃場周辺では電波環境の脆弱さなどにより、RTK(リアルタイムキネマティック)制御時などにおいて通信障害を起こすことがたまにあります。これは結果的に業務効率の妨げになり、コストパフォーマンスを低下させてしまうので、この点の解決に国などは力を注いでいただきたいです。」

 

 

【ここがポイント】

l  営農支援サービスの利用は、生産者が日頃使用している指標や経験値、用語をそのまま使って判断・作業することができると、ICTが身近なものに感じられて効果的。

l  先端技術により営農の効率化・最適化が進むと、関連施設(収穫物を乾燥させる機械設備など)の運用効率化も連動して可能となり、地域全体にメリットが波及する。

l  先端技術ベンダーの視点に立つと、ユーザーからフィードバックされる改善点などの情報は貴重であり、ユーザーとのパートナーシップ構築が第一義的に重要。

 

取材日:20191112