農業車両自動操舵補助システムの活用で圃場作業の負担軽減と効率アップを実感
【先端技術の概要】
l 先端技術を用いた商品・サービスの名称:『Trimble GFX-750』
l 商品に実装されているコア技術:GPS利用農業車両自動操舵補助システム
l 商品・サービス事業者:株式会社ニコン・トリンブル
l 対象となる作物等及び作業:米・麦・大豆の圃場作業(播種・田植え等)
l 目指した効果・メリット:作業の効率化と負担軽減
l 商品・サービスのウェブサイト:
https://www.nikon-trimble.co.jp/products/product_detail.html?tid=91
【導入事業者の概要】
l 名称(氏名):岡田吉司(専業農家 個人事業主)
l 取材対象者:岡田 吉司 氏
l 本社等所在地:愛知県豊田市
l 事業概要:愛知県豊田市で代々、家業として米作り等を営んできた専業農家。現在の作付け面積は移植水稲25ヘクタール、直播水稲20ヘクタール、小麦35ヘクタール、大豆30ヘクタール、梨60アールなど。近隣の兼業農家等からの業務請負も含め、取り扱う圃場面積は年々増加基調にある。家族(自身、父、母、姉)で農作業に当たるほか、パートタイムの作業者を年間3,000〜4,000人・時間ほど雇って大規模農業を展開。岡田吉司氏自身は自他ともに認める「あたらしモノ好き」「電子機器好き」であるため、先端農業技術への造詣が深い。
農業車両の前に立つ岡田氏
【先端技術の導入に至った経緯】
l そもそもどういう問題・課題に直面しており、それをどのように改善・解決したかったか:
「そもそも解決したかった課題というのは、田植え機などの農業車両を圃場において“真っすぐ進むようにしたい”ということでした。これは一見、簡単なことのように思えますが、実は難しい。例えば田んぼで、水位が高かろうが低かろうが、土の粘度が高かろうが低かろうが、地面の形状が平坦であろうがデコボコしていようが、あらゆる条件に対応して農業車両を常に真っすぐ進ませるというのは、かなり難しい。実際に田んぼで田植え機を操縦したことがある人ならば、誰もが実感していることだと思います。」
l その問題・解決を先端技術によって解決しようと思った理由・きっかけ:
「自分自身、圃場で農業車両を使う中で、手でのハンドル操縦テクニックだけで車両を真っすぐ進ませることは無理だなと感じていたので、何らかの補助的技術を導入するべきと考えました。自分はもともと新しモノ好きなもので、何かこれまでにない工夫をしてみようと思ったのと、メカや電子機器に興味があるので、先端技術の応用でなんとかなるのではないかと考えました。」
l 技術導入に際して助言・支援してくれた関係者:
「欧米などで真っすぐ走らせるための自動操舵システムが現場に導入されていることは知っていましたので一度ぜひ見てみたいと思っていたところ、たまたま、ある農業技術展示会に出展していた(株)ニコン・トリンブルのブースで、GPS利用農業車両自動操舵補助システム『Trimble GFX-750』を見つけました。日頃、展示会にはできるだけ足を運ぶようにしていました。」
【商品選択の決め手】
l 先端技術の導入までに検討した選択肢(製品・サービス)の内容:
「先ほどお話ししたとおり自分はもともとメカ・電子機器好きなので、真っすぐ走らせることについては何らかの先進的なシステムを活用して実現することを追求しました。それ以外の有効な解決策の選択肢というのは、自分にはこれといって思い当たりませんでした。」
l 先端技術の選定に際して重視した基準・目安:
「自分がこれまで使ったことのない先端技術を導入するケースで、近隣に使用経験者もいなかったので、明確な選定基準といったものはありませんでした。ですので、(株)ニコン・トリンブルの説明や、提供される資料などが機器導入の判断の拠り所でした。同社からはとても丁寧な説明をいただきました。ただ、現実問題として、導入に当たり圃場での“お試し操作”を行うことができないという問題がありました。田植え期とは全くことなる時期において、田んぼ全体を使って田植えを試行するというのは、現実的にはなかなかできません。そこで、それを少しでも補うため、同社がYouTubeにアップしている導入例の動画を見てバーチャルに確認しました。」
l 最終的に当該製品・サービスを採用すると決めた理由:
「実際にYouTubeの動画を見て『これならいけそうだ。やってみよう!』と思い、導入に弾みがつきました。」
【先端技術の効果・メリット】
l 先端技術の導入により、具体的にどういった効果・メリットを享受しているか。また、それは当初想定に比べてどうであったか:
「具体的な効果・メリットというのは、先ほど言った“農業車両を圃場で真っすぐ進むようにしたい”ということと密接に関連しています。つまり、真っすぐ進むことが人の手による操縦ではなくシステム的に実現されることにより、操縦以外の作業に注意や労力を振り向ける余裕が生まれるので、田植え機に残っている苗や農薬の量と状態のチェック、圃場の外での関連作業の進捗状況の確認、他の圃場で作業している人との連絡などを適切なタイミングで的確に行うことができるようになるということです。実際にやってみて、ハンドル操作にさほど気を奪われずに済むことで、気持ちの面でゆとりができるし、体力的にもずいぶん楽になったと実感しています。」
「また、作業の効率アップのメリットも感じています。これまでの田植えや播種作業では枕地を1周又は2周取るために、作業機の空走りを行って測っていました。ところが、『Trimble GFX-750』の場合は、最初に導線の基準となるAB線をきちんと設定しておけば、そういう面倒な作業を行う必要がありません。」
「加えて、基本的なハンドル操作はシステムがやってくれるので、夕暮れ時で多少暗くなった時間帯であっても、農業車両をよれることなく真っすぐに走らせることができる。そのため、1日当たりの作業効率が高まりました。ただし、車両を大きく旋回させるときや、速度のコントロールは人が行う必要があります。」
「なお、『Trimble GFX-750』は1つのシステム機器を複数車両に乗せ換えて利用できるので、機動性・利便性の点でもメリットを感じています。」
l 先端技術の効果・メリットのコストパフォーマンスをどう評価するか:
「先端技術は大変な労力と資金を投入して開発されているのでしょうから、活用に要するコストはそれなりに高いだろうと予想していました。実際、確かに初期導入と運用・メンテナンスにかかるコストは決して安価ではありませんでした。ここはある程度、仕方がないと考えています。」
「ただ、コストの内容を子細に見てみると、実は機器本体の価格はコスト全体においてさほど多くを占めているわけではなく、日々の運用に必要なインフラ的な部分にかかる費用が割と大きいことに気づきました。具体的には、GPSに不可欠な衛星システムを利用するには専用の“キー”というものを取得する必要があるのですが、これがけっこう効果です。また、GPSの精度を微細に調整する際にはスマートフォンを活用するのですが、その年会費にも割と費用がかかるなと感じています。このあたりが今後、低減していくとありがたいですね。」
「それでも、現時点では導入して正解だったと思っています。GPS利用農業車両自動操舵補助システムの場合、車両操舵の精度をセンチメートル単位で調整するので、従来の手動操作での播種作業等で当たり前のように生じていた播種レーンの重複によるムダを、ほぼ解消することができます。重複がなくなれば、肥料、農薬、苗、種子などの無駄を省くことができる。その結果、作物の生育が揃い、品質、収量が安定しますし、作業時間の短縮にもつながります。これによって、例えば年間30万円のムダが解消されれば、数年程度のスパンで初期導入コストは回収できるのではないでしょうか。」
「なお、ここまでに話した効果・メリットやコストパフォーマンスは、農地面積が広い方が実現されやすいと思います。私の感覚では“50ヘクタール以上”というのが1つの目安のように思います。」
l 効果・メリットを実現する上で、思わぬ苦労や障壁はあったか:
「GPS利用農業車両自動操舵補助システムは操舵精度をセンチメートル単位で緻密に調整するので、最初のセッティングをきちんとやることが非常に重要です。これをちゃんとやらないと十分なメリットが得らえません。そのため、私の場合、初期設定には(株)ニコン・トリンブルの技術者にお任せして、丸一日かけてやりました。ただ、当時と比べてシステムのインターフェース(Android OSベース)が改善されているので、いまではセッティングがかなり容易になっているはずです。」
「あと、自分の活用経験からすると、このシステムの導入・運用に際しては、GPSに関する基礎的な知識とスマホやタブレットなどの端末機器の操作スキルを持っている必要があると思います。」
『Trimble GFX-750』を操作する岡田氏
【先端技術の導入プロセスにおける専門コンサルの重要性】
l 先端技術の導入に際して、技術・サービス事業者や関係機関などから、どういった助言やサポートを得たか。それは何を解決するためであり、どういう効果・メリットを得たか:
「先ほど話したとおり、システムの初期設定にはシステムベンダーの全面サポートを受けましたし、それなりの時間がかかりました。素人にはできない部分なので、専門的なスキルを持った方に自分の圃場の状態や条件などを伝えながら、きちんと設定する必要があります。その上で、システムの現場導入にも立ち会っていただき、必要な調整を行っていただきました。」
l 技術・サービス事業者や関係機関などからの助言・サポートは有償であったか無償であったか。無償であった場合、それを当然と思うか。有償であった場合、費用を負担してでも欲しいと思える効果・メリットはあったか:
「ユーザーである私の意見としては、初期セッティングと現場導入までは、無償サービス(本体価格込みのパッケージサービス)として行っていただくのでよいのではないかと考えます。機器だけ渡されても利用できないからです。他方で、そこから先の部分、すなわちより有効なシステム利用の方法だとか、コスト回収に向けた計画づくりだとかは、内容やクオリティにもよりますが、有償のコンサルティングサービスとして実施してもよいように思います。機器は日々改善・高度化されていますし、農業への企業経営的手法の導入も今後進んでいくでしょうから、比較的若くて進取の気性を持った農業者であれば、有償提供に一定の理解は得られるでしょう。」
「ユーザーとしてさらに言えば、先端技術の導入には一定のリスクが伴うので、ベンダー側には“投資に見合うメリット”について、想定でいいので具体的に説明することが求められると思います。私は「あたらしモノ好き」「電子機器好き」なので比較的抵抗感なく導入しましたが、大規模専業農家や農業法人の中には導入に踏み切るに足る情報がなくて躊躇しているとこともあるように思います。」
【その他】
l 農林水産業における先端技術の導入を効果的に推進していくに当たっての、メーカーや国の機関等に対するニーズなどを自由に:
「圃場における自動運転システムやドローン等の先端機器類の利用に関する国としてのガイドラインを示してほしいです。」
「圃場で先端機器を利用するには通信や電源などが不可欠なので、そういったインフラ面の整備を早急に進めてほしいです。」
『Trimble GFX-750』を搭載した農業車両
【ここがポイント】
l 農業車両が高い精度で設定どおり真っすぐ進むことで、操縦以外の作業に注意や労力を振り向ける余裕が生まれ、作業全体の効率化や体力的な負荷軽減が実現する。
l 従来のような播種レーンの重複がほぼ解消され、肥料、農薬、苗、種子などの無駄が省かれる結果、作物の生育がそろい品質、収量が安定し、作業時間の短縮にもつながる。
l 日々の農作業と並行して先端技術の“お試し導入”を行うことは現実問題として難しい面がある。導入事例の動画などのバーチャル情報が役に立つ。
l システムベンダーは“投資に見合う想定メリット”についてユーザーに対して具体的に説明し、根拠に基づく経営判断ができるようにするべき。
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取材日:2019年9月20日