ハウス内の最適環境制御で“手間の作物・キュウリ”の収量を安定的にアップ

 

【先端技術の概要】

l  先端技術を用いた商品・サービスの名称:『EyeFARM』シリーズ(EyeFARM Cloudタイプ)

l  商品に実装されているコア技術:ハウス内環境制御(環境モニタリング及び遠隔操作)

l  商品・サービス事業者:株式会社ニッポー

l  対象となる作物等及び作業:キュウリのハウス栽培

l  目指した効果・メリット:ハウス内環境の最適化を通じた収量のアップ・安定化

l  商品・サービスのウェブサイト:

https://www.nippo-co.com/products/nogyo/cloud/eyefarmcloud.html

 

【導入事業者の概要】

l  名称(氏名):内野 貴人(個人事業主)

l  取材対象者:内野 貴人 氏

l  本社等所在地:埼玉県本庄市

l  事業概要:埼玉県本庄市で長年にわたり農業を営んできた専業農家。初代から数えて内野貴人氏は4代目に当たる。初代は養蚕から始めたが、その後、他の作物に事業を拡大し、父の代からはハウス栽培を開始。現在、キュウリのハウス栽培(約33a)を行うほか、米・麦(約4ha)の生産も手掛けている。作業従事者は主に本人、母、妻で、キュウリの収穫やハウス管理作業などにパート(4名程度)を充てつつ営農している。本人は新しモノ好きで、品質向上・収量増加等のため色々な新規技術を試す意欲が旺盛。

 


    ハウスの前で内野氏

 

【先端技術の導入に至った経緯】

l  そもそもどういう問題・課題に直面しており、それをどのように改善・解決したかったか:

「私は、家業を継ぐと決めてから、農業のやり方についてはほどんど全て、父の作業の様子から見よう見まねで学んでいました。正直に言って、初めは“ハウス内環境制御”という言葉すら知らなかったんです。そうした中で、同じJAに出荷している他の農家の中には、圃場規模が同じくらいなのに当家よりも生産量が顕著に多いところがあったり、病気が発生していないところがあったりする。そのため、日々の栽培管理のやり方に違いがあるのではないか? という点がけっこう気になり、私にとって大きな疑問でした。」

「そんなとき、20142月にこの地域(埼玉県本庄市)で大雪が降りました。当家のハウスの半分くらいが雪の重みでつぶれてしまうという予期せぬ大打撃を受け、残ったハウスで生産量を何とか増やさねばならないという課題に直面しました。また、当家は専業農家で、基本的には家族とパートさんで日々の作業をこなしています。私が何かの事情で農作業に従事できないときなどに、重要な作業を他の家族やパートさんに任せても何とかなるという手段を持つことができれば、経営面で大きな安定材料になります。こうしたことから、収量のアップと安定化が大きな課題だと言えます。」

l  その問題・解決を先端技術によって解決しようと思った理由・きっかけ:

「上述の大雪の際、どうやって残ったハウスで生産量を増やすかについて試行錯誤しました。有効な対応策が分からなかったので、日当たりか? いやCO2の量では? などと考えながら試行しました。例えば、計測器を買ってハウス内CO2濃度を測ったところ、ハウス内は密閉空間なのでキュウリがCO2を吸うと濃度は下がってしまう。でも濃度を高める効果的な手段がないので、家庭用石油ストーブを日の出前からハウス内で炊いてみたのです。そうしたらキュウリの生育が顕著に改善しました。実は、CO2を増やす効果的な方法として光合促進機があるのは知っていましたが、高価なものだったので導入することができず、自宅にあった家庭用の石油ストーブ3台をハウスに持ち込み使用したという経緯でした。」

「そんなとき偶然、ある企業が主催したセミナーに参加したのですが、そこでオランダ式の温度管理技術のことを知り、それを実践するためにハウス内の温度変化をグラフにする機械を購入しました。ところが、その機械はデータの保存しかできず、環境制御はできませんでした。結局、温度を正確に測ることはできませんでしたが、これを1年間使うことで環境制御に必要なデータが何かということは解りました。ちなみに、これは5分おきに関連数値を記録・蓄積するものでしたが、5分おきというのが長すぎるため、ハウス内環境が急変した場合の対応が遅れるという難点がありました。また、日光が機器に直接当たると正確な気温が計測できないとか、たまにwi-fiが作動しなくなるといった難点もあり、使用をやめました。」

「いま考えると色々やったものですが、その体験を通じて、自分の中で環境制御の重要性を身に染みて理解することができたと思います。」

l  技術導入に際して助言・支援してくれた関係者:

「ここまでにお話しした試行錯誤をやっているときにインターネットで(株)ニッポーの『HouseNAVI ADVANCE』という製品の存在を知りました。日頃お付き合いのあるJAの方を通じて同社を紹介していただき、こちらの経験や問題意識を伝えつつ色々とお話を伺ったところ、後述するように幾つかの明確なメリットが確認でき、これならいけるとの感触を得ました。」

 

【商品選択の決め手】

l  先端技術の導入までに検討した選択肢(製品・サービス)の内容:

「既にお話ししたとおり、(株)ニッポーの『HouseNAVI ADVANCE』にたどり着く前にも、幾つかの先端的技術の検討をしましたが、どれも十分に満足がいくものではありませんでした。データ取得は1分間隔だが遠隔操作できないものや、遠隔操作は可能だがデータ取得が15分間隔のものなど、“帯に短し襷に長し”のケースが多かったですが、結果的に、本当に役立ち、納得がいく技術を搭載した製品を導入することができました。」

l  先端技術の選定に際して重視した基準・目安:

「やはり、生産現場における稼働の安定性とデータの正確性が基本的に不可欠の要素ではないでしょうか。『HouseNAVI ADVANCE』はそれを満たしている上に、データ取得の間隔が30秒とかなり機動的で、遠隔操作なしでもハウス内環境の最適管理をある程度、自動的に行うことができます。他社製品の多くはハウス内環境の変動に応じて手動で様々な環境要素を調節する必要がありますが、『HouseNAVI ADVANCE』の場合は基本的には事前に最適環境の条件を設定しておけばよく、ユーザーは基本的にそのモニタリングをするだけです。」

l  最終的に当該製品・サービスを採用すると決めた理由:

「私のこれまでの経験値に照らして、『HouseNAVI ADVANCE』は納得がいくし、自分のニーズをかなりの程度、満たしてくれるものと思っています。特に、ハウス内環境の急変防止や細かい微調整のための設定をかなり自由に行うことができるという点が、私にとっては大きな利点です。なお、条件に合った測定器が付いていて、トータルの導入コストが比較的安価だったという点も好材料でした。」

 

【先端技術の効果・メリット】

l  先端技術の導入により、具体的にどういった効果・メリットを享受しているか。また、それは当初想定に比べてどうであったか:

「明確なメリットを感じています。第1に、かつて当家のキュウリ生産量は1反(10a)当たり年間25t程度でしたが、『HouseNAVI ADVANCE』導入後は安定的に3233t程度に増えています。2030%くらいアップしているという手応えです。」

「第2に、統合環境制御盤での条件設定は、それを設置している圃場と自宅の間を行ったり来たりしながら、しかも手作業で調整するという必要がありません。これは作業に要する時間と労力の節約という点で大きなメリットです。われわれの業界では“キュウリは手間の作物”と言われますので、環境制御に要する時間を削減し、その分をキュウリの品質管理などに充てることができるのは大きなメリットです。実際、キュウリの曲がりを少なくするといった対応により多くの時間を割くことが可能となり、出荷可能なキュウリの割合(歩留り)が向上しています。」

「なお、(株)ニッポーが行ってくれる初期設定は、ハウスの天窓とカーテンの全開閉の時間設定と各機械の動作確認だけです。他方、温度設定などの数値と時刻については、測定器が変わって過去の温度計の数値等は制御に使えなかったので、全て自分で決めました。導入当初はハウスにパソコンを設置して必要なソフトウェアをダウンロードし、データを記録しました。スマホからパソコンを遠隔操作することでモニタリングする形でしたが、導入して1年で同社の農業用クラウドシステム『EyeFARM Cloud』と『HouseNAVI ADVANCE』とを組み合わせたシステムに切り替えて、現在はそれを利用しています。これに伴ってデータ記録間隔は30秒から1分になり、パソコンは不要になりました。」

l  先端技術の効果・メリットのコストパフォーマンスをどう評価するか:

「いま使用している『EyeFARM Cloud』と『HouseNAVI ADVANCE』を組み合わせたシステムについては、コストパフォーマンスの点でも利点があると感じています。やはりユーザーとしては、先端技術導入にかかるコストを出来るだけ抑えたい。その点で、(株)ニッポーは設計から製造、現場導入(初期設定など)、運用支援まで一貫工程を敷きつつパッケージ的な料金体系で商品・サービスを提供してくれるので、全体としてコストが抑えられていると思いますし、得られる効果に対して、このコストなら十分に見合うという感触があります。」

「さらに言えば、今後、生産規模を拡大しようと思ったら、当家のような家族経営的な専業農家には人手の制約があるので、技術力に頼らざるを得ません。従来の人手に頼る経営手法では、品質安定や収量アップを確保しながら規模拡大することはおそらく無理です。今回の先端技術活用が、コストパフォーマンスという経営的観点から見ても効果的だと判ったことにより、規模拡大の実現性が開けてきたと言えます。先端技術というのは、人手に限りがある中での規模拡大追求という課題にこそ効果的な手段になると思います。」

l  効果・メリットを実現する上で、思わぬ苦労や障壁はあったか:

「先端技術一般に共通することかもしれませんが、生産現場に最初に導入する際の各種数値の初期設定が難しいです。これは各圃場の状況に応じて、ユーザーが自らの判断で調整する必要があるので、私自身、手探りで対応したというのが実際のところです。正直、できることなら一定の経験とスキルを持った人に任せたいという気持ちもありました。」

「それから、ハウス内の環境が急変した場合にどう対応するかということも、ある種の不安材料です。ハウス内環境は常に変わり得ますので、最終的にはユーザー(生産者)が天候の先読みなどをしながら、自己責任で環境の制御・調整を行う必要があります。いま利用しているシステムの場合、環境変化に対して遠隔操作で対応することが可能なので、この点は一定の安心材料です。」

 


  『House NAVI』を操作する内野氏

 

【先端技術の導入プロセスにおける専門コンサルの重要性】

l  先端技術の導入に際して、技術・サービス事業者や関係機関などから、どういった助言やサポートを得たか。それは何を解決するためであり、どういう効果・メリットを得たか:

「重要なサポートとしては、現場(圃場)における日々の運用面でのアドバイスが挙げられますが、これについては、ベンダー企業に所属する専門家(例えば栽培指導の資格を有する人材など)に現場に来ていただいて直接助言していただくことがあります。また、ベンダーが開催する説明会・講習会(基本的に参加無料)も実践的知識の吸収で役立ちます。これはベンダー側にとってもPR・知名度向上という点でメリットがあるでしょう。」

l  技術・サービス事業者や関係機関などからの助言・サポートは有償であったか無償であったか。無償であった場合、それを当然と思うか。有償であった場合、費用を負担してでも欲しいと思える効果・メリットはあったか:

「数値の初期設定は製品のパッケージ料金に含まれていました。これはとても大切なサポートサービスですが、内容としては初心者のユーザーに対する基礎的な助言が中心です。これに対して、日々の運用の中でより精度の高い環境設定を機動的に行うためのコンサルテーションとなると、基本的にはユーザー(農家)自身の責任と捉えていますので、それをどうしもベンダーに相談しなければならないときは有償で仕方ないと考えます。ただし、ベンダーと農家の関係を、より効果的な技術・システム実現のパートナーと考えれば、有償/無償と割り切れない部分も出てきますね。」

「総じて、私のようなユーザーにとって、有償であっても利用したいというコンサルティングサービスとしては、数値の初期設定、技術操作に関する実践的知識を得るための勉強会、いざというとき(環境急変時など)の専門家による支援、個別の圃場環境に応じたテイラーメイドの環境設定などが挙げられるでしょう。とはいえ、最終的には農家自身が習熟して出来るようになることが理想です。」

 

【その他】

l  農林水産業における先端技術の導入を効果的に推進していくに当たっての、メーカーや国の機関等に対するニーズなどを自由に:

「先端技術は新しいものであるがゆえに先行活用事例の情報が多くないので、有効利用するにはどうすればよいかについて、ユーザー自身が試行錯誤せざるを得ません。私は一度、環境制御を全て手動モードに切り替えて自分の感覚に基づいてハウス内環境を最適に保つ実験をしたことがあります。そうしないと、自動モードの設定値が適切かどうかを判断する手がかりがないからです。そういう意味では、多種多様な先端技術に関する実践例からの教訓や、実際に技術導入が行われている現場の見学会などがあるといいですね。」

 


  ハウスで生育しているキュウリ

 

 

【ここがポイント】

l  先端技術にはユーザーニーズに対して帯に短し襷に長しの場合もある。そうしたケースを体験したからこそ、本当に役立つ技術が何であるかを判別できるようになった。

l  キュウリは手間の作物”。先端技術の活用により環境制御に要する時間を削減し、その分を品質管理などに充てることができるのは作業効率や品質向上などの点で大きなメリット。

l  有償でも利用したいコンサルサービスは、数値の初期設定、技術操作に関する実践的知識を得る勉強会、環境急変時などの専門家支援、個別の圃場環境に応じたテイラーメイドの環境設定など。最終的には農家自身が習熟して出来るようになることが理想。

 

取材日:20191111