Vol.23 No.5 【特 集】 トランスジェニック動物−現状と展望 |
トランスジェニック動物作出の目的と意義 |
関川 賢二 |
マウスを用いた遺伝子操作は自由自在となっており,トランスジェニックやノックアウトマウスは遺伝子機能解析あるいは疾患解析のための実験動物として広く利用されている。 トランスジェニック家畜の作出はコストがかかることもあり,我が国において本格的な取り組みが進んでいない。しかし,体細胞核移植によるクローン家畜作出技術がほぼ確立されたので, 低コストによるトランスジェニック家畜の作出が可能となり,産業利用への展望が開けた。一方カイコのトランスジェニックとノックアウト法が開発され, カイコを物質生産工場として利用する道も開けてきた。 |
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クローン技術とトランスジェニック動物 |
高橋 清也・渡部 聡・赤木 悟史・山口 学・居在家 義昭・細江 実佐・徳永 智之 |
体細胞クローンヒツジドリーの誕生は,発生工学の大きなマイルストーンとなる成果であると同時に,その後短期間で遺伝子工学との連携による多くの研究の進展を導き出した。 すなわち,膨大な数のドナー細胞の供給が可能となり,クローン個体の大量作出が現実的なものとなった。また,培養細胞に遺伝子操作を行い, 核移植によって個体を再構築することが可能となり,形質転換家畜の作出効率が改善され,ジーンターゲティングなどの高度な遺伝子操作が現実的となった。 さらに臓器や組織の再生工学へ発展など,様々な応用が期待されている。 |
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移植臓器生産トランスジェニックブタの開発 −作出戦略と研究の現状− |
佐藤 英明 |
ブタの臓器をヒトに移植するためには,トランスジェニックにより補体抑制タンパク質を発現させるのみならず,超急性拒絶反応を誘起する糖鎖抗原を欠失させることが必要である。 そのため,いわゆる遺伝子ノックアウトブタの開発が世界的な競走になっている。筆者らは次のような核移植による戦略でノックアウトブタを開発しようとしている。 (1)卵巣から採取した卵母細胞を体外成熟させ,除核未受精卵をつくる。(2)また体外成熟卵を体外受精・体外発生させ,胚盤胞をつくり, そのような胚盤胞から胚由来細胞株を樹立する。(3)相同組換えにより標的遺伝子改変細胞をつくり,(4)これを除核未受精卵に移植し,発生胚を仮親に移植し, 糖鎖抗原を持たないブタをつくる。現在まで(1),(2)を解決し,(3)及び(4)について緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子導入細胞を用いて基礎技術を開発しているので紹介したい。 |
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疾患モデルとしての遺伝子改変マウス |
山中 晴道 |
1980年代から本格化な進展をみせた遺伝子操作技術は、種々の新たな表現型を示す動物を人為的に作出することを可能にした。特に、 古くから実験動物として用いられているマウスは、遺伝的背景、生理的特性などの基礎的情報が豊富に蓄積されているので、 このような操作を加えるための研究開発が他の動物種に比べて格段に進んでいる。生命科学研究において、疾患モデルとして遺伝子改変マウスの果たす役割はきわめて大きく、 遺伝子改変マウスを作り、これを使って研究を進めることはもはや特別なこととはいえない。 |
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トランスジェニック昆虫 |
田村 俊樹 |
トランスジェニック昆虫は1980年代の始めにキイロショウジョウバエで作出されて以来,他の昆虫では長い間成功しなかった。最近になって,ようやく, チチュウカイミバエやカ,カイコなどで可能になった。これはどの昆虫でも機能する種特異性の低いトランスポゾンの発見とこれを利用したベクターの開発に負うところが大きい。 この新しい技術を利用することによって,これまでとは全く別の機能を持つ昆虫を作れるようになり,遺伝子組み換え昆虫による害虫防除法の開発や医薬品などの有用物質を大量に作るカイコの作出が可能になろうとしている。 |
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ノックアウトカイコ |
森 肇 |
ヒト・イネなどのゲノム解析が完了しつつある現状に至って,プロテオームやプロテオミクスといった次の研究展開が今まさに幕開けようとしている。 そういったポストゲノム時代にリバースジェネティックスとして遺伝子の機能解析に貢献するのが,遺伝子ターゲティングの一つである遺伝子のノックアウトである。 これまで遺伝子のノックアウトはマウスを中心に行われてきたが,最近,我々はウイルスを用いることによって,昆虫で始めての遺伝子ターゲティングをカイコで成功させた。 これによって,カイコのゲノム解析が飛躍的に進展すると同時に,カイコに新たな機能を付加させることが可能となった。 |
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動物工場の現状と問題点 |
上川 奈都子・今井 裕 |
1980年,哺乳動物(マウス)で初めて外来の異種遺伝子を染色体内に導入できることが示された。この個体レベルでの遺伝子組換え技術は,
一方では遺伝子の機能を解明するための基礎実験として,他方では,家畜へ応用することによって畜産学分野での効率的な育種改良技術,あるいは臓器移植,
動物工場など医学分野への寄与が期待されてきた。特に,家畜の乳汁中にヒト由来の医薬用タンパク質を生産することを目的とした,いわゆる動物工場といわれる技術戦略は,
遺伝子組換え家畜の技術を確立するうえで大きな役割を果たしてきた。また,そこで生産された医薬用タンパク質が市場に登場する日も近い。しかし,
この技術を企業化して行くためには,遺伝子組換えの技術的な問題ばかりでなく,それを受け入れる社会的な環境においても日本独自の問題が山積しているのが現状である。
そこで本稿では,動物工場に関する最近の研究成果,問題点と今後の展望について概説したい。 |
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