Vol.23 No.9 【特 集】 日本型食生活を支える発酵産業 |
日本人の食生活と発酵食品 |
磯部 晶策 |
日本人の食生活は,代々受け継がれて来た食文化の一断面である。したがって,食文化の伝統は食生活の中に脈々として流れている。しかも,食文化が,その国, その地方の風土,環境の影響を強く受けていることが当然である以上,発酵食品が,日本人の食生活の中に占める領域は大きい。極言すれば, 発酵食品を抜きにして日本人の食生活を語ることはできない。本稿では,食生活と発酵食品及び発酵食品産業との関係を,食文化の時の流れに沿って点描する。 |
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味噌業界の現状と将来 |
毛利 光之 |
味噌は日本人の歴史とともに歩んで来た食べ物で,大豆の持つ栄養価を最も有効に利用した発酵食品であるが,その起源は明らかでない。日本独自の技法によるものなのか,
中国大陸の文化が直接,あるいは朝鮮半島を経由して伝来したものなのかは定かでない。 1981年10月国立癌センター研究所の疫学部長平山氏が日本癌学会で,味噌汁摂取頻度と胃癌死亡率の疫学調査結果を発表した。この調査は約10年間延べ3,060,499人を観察した結果, 味噌汁の摂取頻度別に胃癌の年齢標準化死亡率を計算すると0.001以下の危険率で,味噌汁の摂取頻度が高くなるほど胃癌による死亡率は低下するという報告であった。 味噌は食塩を約12%含む発酵食品で,大豆や米に含まれる成分が発酵熟成過程で身体に吸収されやすい状態となる。通常の味噌汁の食塩濃度は約1%で生理食塩水に近く, ペプチド,アミノ酸,カルシウム,マグネシウム,鉄分,ビタミン類やさまざまな微量成分を含み,多くの食効が期待できる。 |
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醤油産業の現状と未来 |
志村 保彦 |
醤油ほど奥の深い調味料はない。中国にその源を発し,佛教と共に日本に渡来し,我が国で工夫改良が重ねられ,今日の姿に花咲いた調味料である。 醤油づくりの主役は,麹菌,乳酸菌,酵母などの微生物たち。このミクロの調理人が約6ヵ月以上もかけて,大豆や小麦を醤油に変身させて行く。これも, 日本という気候風土に恵まれた地に根づいたからこそ,完成されたものである。四季折々の味覚,それを楽しむ日本料理,その発展とともに醤油が発達してきたのも当然といえるであろう。 |
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成長市場:納豆生産の工業化と国際化 |
渡辺 杉夫 |
日本の伝統食品である糸引納豆は,その栄養と老化防止や成人病予防など,機能性の高い食品として世界的な注目を集めているが,納豆工業の発展過程を振り返る時,
我が国がこの食品開発の任務を負わされたかの様に,各時代の文化の恩恵を受けて独自の展開を続けて来た。 特に今20世紀末葉には冷凍機や機械技術の発達とスーパーチェーンによる市場が整備され,納豆工業にとっては天啓の時代環境が整えられ, 晩成の納豆工業も遂に開花をみた。 今後は世界食品として待望する諸外国の食生活に役立てたい。 |
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日本酒(清酒)製造の現状・過去・未来 |
秋本 雄一 |
「国酒」とされる日本酒は現在苦戦を強いられている。日本酒は戦後の一時期を除いて,昭和30年代前半までは消費量第一位を占めていたが,ビールに抜かれ,
焼酎に迫られている。原料米精白度の向上,製造に関与している微生物,製造・製品管理方法の研究成果の応用等により,
往時と比較して品質は大幅に消費者に好まれるものとなっていると確信をしているのだが……。不振の原因は何かといわれと,食の洋風化による消費者離れ,
主食と同じ原料であるため割高な原料の使用を余儀無くされ,他酒類と価格競争ができない等が指摘される。 より良いものをと求めてきた100年近くの歩みを検証し,日本酒業界の現状とこれからどうしたら良いのかを考えてみた。 |
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