イネゲノムプロジェクトの目的と意義なぜ今イネの研究をするのか? |
肥後 健一 |
イネは穀物の中ではゲノムサイズ(DNA塩基の数)が一番小さく,遺伝子の並び方がほかの穀物とほぼ共通していること,さらに,従来は難しかった遺伝子組換えが比較的容易にできるようになったことなどから,今や穀物のモデル植物と見なされるようになった。日本にはイネ研究の長い歴史があり,豊富な物的人的資源を活用して,イネのゲノム研究では世界をリードしてきた。今後は,ゲノム構造解析が国際的協調で進められる一方で,ゲノム機能解析においては,諸外国との競争が激化するであろう。真のオールジャパン体制をいかに構築するか,機動的な対応ができるかが,キーポイントである。
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急ピッチですすむイネゲノム全塩基配列解読 |
佐々木 卓治 |
1998年から開始されたイネゲノム全塩基配列解析は,それまでの7年間に蓄積された遺伝地図,物理地図,およびEST情報を出発点として,12本の染色体で合計4億3000万塩基対中の4種類の塩基,A,T,G,C,の並び順を高性能シーケンサーを利用して正確に決定し,そこに含まれるすべての遺伝情報をコンピューターの助けを借りて統計的演算処理により解読することを目的としている。この目的達成のためにイネゲノム断片をジグソーパズルのピースに見立ててゲノムを再現し,そのピース中の塩基配列を読む操作を行う体制を確立し,年間2000万塩基対以上の解読を可能にしている。イネの穀類としての重要性からその塩基配列解析は国際協調体制により推進されており,民間からの提供データとの統合による一層の加速により数年後の解読完了が期待されている
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マイクロアレイ技術を用いた遺伝子発現の網羅的解析 |
菊池 尚志 |
マイクロアレイ技術はゲノム構造解析の過程で得られた大量のcDNAクローンをプローブとした網羅的遺伝子発現解析技術である。イネゲノムプロジェクトでは平成11年度より,装置一式を導入し,マイクロアレイ実験を行っている。本稿では,マイクロアレイ技術が原理的にどういった技術であるかを紹介し,その実験において得られるもの,実験の過程において注意すべき事項,さらにはマイクロアレイ技術を適用すべき研究課題などについて紹介した。
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ゲノム情報を利用した遺伝子の機能解析 |
廣近 洋彦・矢野 昌裕 |
イネの動く遺伝子「レトロトランスポゾン」を利用することによって効率良く多数の遺伝子破壊系統を作出することが可能となった。この技術を利用して,効率的遺伝子機能解析技術の開発ならびに系統的な有用遺伝子の単離と機能解析が進められている。一方,イネゲノム解析研究の進展により高密度連鎖地図の作成や巨大DNAクローンの整列化などの研究基盤が整備され,遺伝地図情報に基づく遺伝子単離が可能となった。この手法によって,形態形質や病害抵抗性に関与する遺伝子や量的形質を支配する遺伝子などの単離と機能解析が進められている。
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DNAマーカーは育種をどう変えるか |
矢野 昌裕 |
DNAマーカーの作出によって作物の形質遺伝学は飛躍的に進展した。とくにイネではゲノム研究の背景のもと,充実したDNAマーカーが利用可能となっており,マーカーを指標にする選抜育種法の開発が進められている。ここでは農林水産省や都道府県の試験研究機関によって進められている作物の有用形質に関与するDNAマーカーの同定ならびにDNAマーカー支援による育種の取り組みについて概説し,DNAマーカーを活用した新しい育種法について考える。
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イネ完全長cDNAプロジェクトはイネゲノムプロジェクトにとってなぜ必要か |
菊池 尚志 |
平成12年初頭より,イネゲノムプロジェクトの一環として,イネ完全長cDNAプロジェクトが開始された。このプロジェクトは,これまでのイネ大規模cDNA解析プロジェクトで単離解析されたESTクローンの未捕捉クローンを確保し,マイクロアレイ技術などを用いたイネ遺伝子発現の網羅的解析手法に役立てるため,またゲノム構造解析における遺伝子コード領域の決定(アノーテーション)に役立てるため,さらに完全長クローンを利用した遺伝子機能解析に役立てるために開始されたものである。本稿ではプロジェクトの開始の経緯から,進行状況,将来予想される成果について記述した。
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タンパク質から迫るイネゲノム |
渋谷 直人 |
ゲノム塩基配列の解析が進むなかで,いかにしてこの情報を個々の遺伝子機能の解明に結びつけ,生物学的諸問題の解決やバイオテクノロジーへの応用に結びつけていくかという,「ポストゲノム(シーケンス)」研究への関心が高まっている。このなかで,遺伝子産物としてのタンパク質レベルでの研究が遺伝子機能の解明とバイオテクノロジーへの応用の両面から注目を浴びている。イネゲノム研究のなかでのタンパク質研究のあり方について述べる。
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拡がる植物のゲノム解析 |
大村 三男・平井 正志・津村 義彦 |
果樹類、茶樹、イモ類、野菜類、林木の分野でも、イネやシロイヌナズナなどのゲノム研究の進展を受け、育種方法と選抜の効率化をめざしてDNAマーカーを利用した連鎖地図作成を中心とするゲノム解析が急速に進められている。モモ、リンゴ、カンキツ、チャ、トマト、ピーマン、レタス、キャベツ、ハクサイ類、ナタネ、ネギ属、スギなどの連鎖地図作成、QTL解析、マップベースクローニングあるいは果実などの形質発現に関連した遺伝子EST解析など、わが国におけるゲノム解析の現状と諸外国での取り組みについて紹介する。(肥後)
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