Vol.23 No.11
【特 集】 微生物機能の開発と利用


21世紀における微生物利用
堀越 弘毅
 我々が微生物の分離源とする土壌の中からどのくらいの微生物を分離することが可能であろうか。答えは非常にがっかりする。 わずかに1〜10%ぐらいしか分離することができない。我々は全部を知り得ない。このことだけを見ても,我々の知識は極めて不完全であると云わざるを得ない。 新しい微生物を発見することは新しいバイオテクノロジーを作り出すことになる。
←Vol.23インデックスページに戻る

環境問題と微生物
児玉  徹
 人間活動の活発化と人口の爆発的増加に伴って地球環境は急速に悪化の一途を辿っている。化石燃料から排出された二酸化炭素を含めた大量の廃棄物と, いわゆる難分解性物質の土水圏・大気圏における蓄積がその主原因であることは言うを待たない。これらの多様な原因物質の除去処理を担うものは多種類の微生物をおいて他にはないと言っていい。 微生物のもつ物質分解能力は素晴らしく,自然状態あるいは開発されたその能力を駆使するバイオレメディエーション技術を適用した汚染土壌や地下水の浄化はすでに実用化の域に入っている。
←Vol.23インデックスページに戻る

作物生産における共生微生物利用研究の新展開
斎藤 雅典
 根粒菌・菌根菌など植物へ共生する微生物や作物表面・体内に定着しやすい微生物など,目的の作物に直接作用して効果を発揮する微生物を, 作物生産や緑化・林業等の場面で活用しようとする研究が進んでいる。これら微生物の利用に関する最近の研究動向を紹介する。
←Vol.23インデックスページに戻る

未利用バイオマスの有用物質への微生物変換
大宮 邦雄・粟冠 和郎・木村 哲哉・小林 泰男・苅田 修一
 太陽エネルギーにより有機物が合成され生命体が構築される。人類はこのエネルギーを利用して生活している。近年その消費量が激増し, エネルギー資源の枯渇に直面するとともに環境破壊の修復を迫られている。炭酸ガスの純増を押さえ,エネルギー資源を確保するために, 再生可能なバイオマスの変換研究がなされている。微生物が繊維質を分解し,有用物質に変換できる機能を利用して,未利用バイオマスの食飼料化やエタノールや水素の生産, パルプ「晒し工程」への酵素利用による塩素化合物使用量の削減などが可能となった。
←Vol.23インデックスページに戻る

微生物を利用した生物産業とその新展開
柏木  豊
 微生物を利用した生物産業は,食品産業用酵素の生産やアミノ酸,抗生物質の生産のために大きく発展してきた。アミラーゼ,プロテアーゼ, セルラーゼ等の酵素が繊維産業など工業的に利用されるようになり,酵素の用途も食品に限定されることがなくなっている。微生物による物質生産は抗生物質のような医薬品類から, 食品原料,さらには工業原料の生産技術へと開発が進んでいる。

 微生物を利用した物質生産技術には,遺伝子工学技術による効率的生産の実用化や,エチレンなどの工業原料生産への可能性が示され,今後, 生物産業の分野が大きく広がることが期待されている。
←Vol.23インデックスページに戻る

環境に調和した水産業と微生物利用
澤辺 智雄
 水産業へ有用な微生物機能を積極的に利用する試みがなされている。特に,人工的な環境で増殖を行う水産増殖業では,水の浄化および宿主生物の発育・生育・成長に関与する様々な微生物機能の応用が期待される。 このため,環境への負担を最小限にできる閉鎖循環式養殖システムが将来の増養殖体系の主流になることが予想され,微生物利用の可能性も大きく広がるものと考えられる。 そこで,本稿では水圏生物では研究が進んでいない微生物共生機能に注目し,これらの共生機能解析へ向けた周辺技術整備の必要性,および共生微生物の宝庫と考えられる消化管内細菌研究の具体例を示し, 微生物を利用した環境調和型水産業の将来展望について述べる。
←Vol.23インデックスページに戻る

未知好熱菌の多様性と利用
左子 芳彦
 これまで極限環境には限られた微生物のみが生息すると考えられていたが,近年の分子系統解析により極めて多様な未知微生物群の存在が明らかになってきた。 特に熱水環境には最も始原的な未知の古細菌群が生息し,新規の多様な細菌,古細菌の存在が確認されている。このような培養困難種に対して,新しい分離法の開発とともに, 環境ゲノムから直接遺伝子の探索,機能解析とその発現・利用を試みる研究が始まっている。超好熱菌は生命の起源と進化を知る最適生物であるばかりでなく, 未開拓の好熱遺伝子資源として益々重要性が増している。
←Vol.23インデックスページに戻る