Vol.24 No.8
【特 集】 動物の感染症と人のくらし


わが国における動物衛生研究の役割と推進方向
清水 実嗣
 動物の感染症は家畜生産に甚大な被害を与えるばかりでなく、畜産物や畜産環境を介して人の安全性にも大きな影響を及ぼす。特に安全性に関わる問題は大きな社会問題となることも多く、 消費者の関心も高い。動物の感染症は多岐にわたるが、最近は新興・再興感染症に加えて人の安全性に関わる問題が多発する傾向にある。 そこで本号は「動物の感染症と人のくらし」と題し、最近問題となっている安全性と危機管理に関わる疾病の特集とした。本文では特集記事理解の一助とするため、 最近の動物衛生をめぐる状況と研究の推進方向などについて概説した。
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欧州における口蹄疫の発生と危機管理
小河 孝
 2001年2月、英国で20年ぶりに口蹄疫が発生し、7月の初めまで1,827件、約350万頭の家畜を刹処分する最悪のシナリオとなった。 口蹄疫は、国内の畜産業のみならず、国際間の畜産物貿易に多大な被害を及ぼす国際重要家畜伝染病であるにもかかわらず、過去の発生の教訓は生かされず、 むしろEU統合化の促進によって検疫障壁がなくなり、家畜の大量・広域輸送、英国における行政改革による現場獣医師の不足などが重なり、 その蔓延を助長したと言わざるをえない。わが国も昨年3月、92年ぶりに本病の発生を経験した。1年を経過した現在、危険な状況に対する正しい認識と啓蒙、 教育、危機管理体制の新たな確立が早急に求められている。
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牛海綿状脳症(狂牛病)
湯浅  襄
 牛海綿状脳症(狂牛病)は、1986年に英国で初発した牛の中枢神経変性を伴う伝達性、遅発性、進行性、致死性の病気である。 英国を中心に現在までに18万頭に及ぶ発生があり、畜産に大きな被害を与えている。本病の病原体は、自己複製のための核酸情報を保有しない異常蛋白質で、 プリオンと名付けられている。1996年には英国で、狂牛病罹患牛肉類の摂取により、人のプリオン病である新型クロイツフェルト・ヤコブ病の原因となる可能性が示唆され大きな問題となった。 プリオンおよびプリオン病は、1980年代のはじめに提唱された新しい概念で、病原体の増殖機序、脳症の病理発生、伝播の機序などはまだ十分に解明されていない。
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新興アルボウイルス感染症:西ナイル熱とその対策
後藤 義之
 一昨年、昨年とニューヨーク市を中心に隣接する周辺の郡、州で西ナイルウイルスによる脳炎が発生し、人のみならず馬、 多種類の野鳥間で流行し多数の死亡例を出すに至ったことは記憶に新しい。このウイルスはアフリカ、中東、西アジアを中心に分布しており、 蚊によって媒介される吸血昆虫媒介性ウイルス(アルボウイルスと呼ぶ)の一種であるが、西半球で確認されたのは初めてのことであった。 なぜ米国の大都会の真ん中で発生したのか疫学的には明らかになっていないが、世界中の都市にとっても人ごとではない。 近年多くの生物種が人に追われて滅亡するなかで蚊は繁栄を誇り、多くの病気の媒介役として人類を脅かしている。
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牛の腸管出血性大腸菌O157保菌の実態と予防
中澤 宗生
 今年も腸管出血性大腸菌O157感染症の発生がマスコミを賑わしている。本菌は牛が主要な保菌源のひとつであることから、世間の視線は常に牛や牛肉に向けられる。 本稿では最近の本菌感染症の発生動向を概説するとともに、牛の保菌実態と保菌抑制法を論じた。とくに、牛の保菌抑制に関しては、食餌性ストレスと排菌の関係、 粗飼料による保菌の制御、生菌製剤による排菌の制御および免疫学的手法による感染防御について、動物衛生研究所で得られた最新の成果を中心に述べた。
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サルモネラ症
山本 孝史
 鶏肉・鶏卵に由来するSalmonella Enteri-tidis(SE)による食中毒が世界的に急増している。SEは、鶏が感染しても疾病としてはほとんど問題にならないくらい発症率は低いが、 時として糞便のみならず卵中にも排菌され、食中毒の原因となる。防除策としては、日常の衛生管理が最重要であるにもかかわらず、 その実施には近代的な養鶏施設がネックとなっている。牛では成牛のサルモネラ症が多発しており、原因菌の一つであるS.Typhimuriumには多剤耐性を示すDT104と呼ばれる菌株が急増し、 対応を迫られている。
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クリプトスポリジウム症
志村 亀夫
 クリプトスポリジウムは、人や家畜の消化管などに寄生し、下痢を主徴とする疾病を起こす病原体である。クリプトスポリジウム症とその病原体についての重要性が人や家畜で認識されたのは、 この20年ほどのことであり、現在対策法について研究が進められている。感染源であるオオシストは通常の消毒剤には強く抵抗するため、 環境中に出るとその除去はきわめて困難で、時に水道水に混入して人の集団感染を起こす。現状ではウシから排出されるオオシストは糞便の堆肥化過程の発酵熱で処理することが最も効果的と考えられる。
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