Vol.24 No.12
【特 集】 農林水産業における国際共同研究の新展開


21世紀の農林水産業における国際研究戦略
井上 隆弘
 世界の人口は21世紀半ばに90億人に達するといわれており、その時の食料需要に応えるには、現在の1.5倍量の食料を確保しなければならない。 今後、耕地の拡大はそう多くは望めないだろうから、飛躍的な単収の増加や不良耕地への作付けが可能な作物を開発する必要がある。 また、このような状況は、食料が圧倒的に不足している日本にとって将来的に大きな影響を及ぼすことが危惧され、画期的な作物の開発や生育制御技術などの開発が急務となっている。 開発途上地域には、多くの栄養不足人口が存在しているとともに、世界の人口の8割近くを占め、今後ともその割合の大幅な増大が見込まれている。 ここでは、国際共同研究をとおしてこれらの問題の解決を図ろうとしている国際農林水産業研究センターの研究戦略と研究推進方策について概略を述べる。
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開発途上地域の農林水産業における研究開発課題
諸岡 慶昇
 独立行政法人は、通則法の規定に基づき定められた「中期目標」の指示のもとに「中期計画」(平成13〜17年度)を策定・申請し、 「業務方法書」とともに主務大臣の認可を受ける。国際農林水産業研究センター(JIRCAS)は、食料・農業・農村基本法の理念及び施策の基本方向を踏まえ策定された中期目標を受け中期計画を策定し、 今年度の年度計画に沿う研究にこの4月から着手している。現在、耐乾性や耐塩性などを付与した新たな植物の開発やIT技術を駆使した隔測などの先端的研究から、 生産基盤が未整備の現地における調査研究に至る多様な内容と方法による国際共同研究を推進しているところである。本稿では、新生JIRCASが取り組む開発途上国を中心とした研究開発課題について、 この「中期計画」を中心に紹介することにしたい。
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国際共同研究の種類と内容
野口 明徳
 世界の人口は急速に膨張して既に60億に達したが、世界の穀物生産量を5年単位で見れば、1990年にピークを迎え、その後は伸び悩みが見え始めている。 こうした状況のなか、わが国は世界最大の農産物輸入国であり、輸入の大半を米国など少数の国に依存しており、また国際市場の変動に影響を受けやすい。 国際農林水産業研究センターは、わが国のそして世界の食料需給の安定化を視野に捉えながら、主に開発途上地域での農林水産業を巡る諸問題を解決するための国際共同研究を進めている。 その種類と内容の概略を紹介する。
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メコンデルタにおけるファーミングシステムの研究
日高 哲志
 ベトナムメコンデルタでは、水稲作を基幹として、養豚、養魚、野菜、果樹などを組み合わせた複合経営が行われている。本地域の経営の特徴は、 各生産部門が水と物質の循環システム(ファーミングシステム)で互いにつながっていることである。国際農林水産業研究センター(JIRCAS)はこのシステムを持続的に発展 ・改善するために、1994年から1999年までの5年間、ベトナムのカントー大学(CTU)及びクローンデルタ稲研究所(CLRRI)と共同研究を行った。 そして、水稲、豚、エビそれぞれの分野において、必要な技術開発とその改善を試み、また、本地域の農業経営に重要と思われる農民組織化について基礎的な研究を行った。
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マングローブ汽水域における魚介類生産過程の解明
前田 昌調・福所 邦彦
 マレー半島マレーシアの、マングローブ林がよく管理保全されているマタン、部分的荒廃が進行しているメルボック、マングローブの大部分が伐採されたルムットの3水域において、 魚介類の生態と生産性についてのプロジェクト研究を行った。その結果、マタンでは魚介類の餌料の大半がマングローブ起源であり、魚類多様性、漁獲高が高く、 さらに海底での貝類生産性も高かった。しかし、ルムットではこれらの生産性が低く、また海底では貝類は少なく線虫が優先した。メルボックでの魚介類生産はマタンとルムットの中間の値を示した。 これらの結果より本調査水域の高い魚介類生産は、マングローブ生態系に依存しているものと考えられた。
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乾燥・塩害・低温に耐えるスーパー植物の開発と国際共同研究
篠崎 和子・岩永 勝
 植物は干ばつ・塩害・低温などの劣悪環境状態になると種々の耐性遺伝子を働かせることで環境に適応している。これらの耐性遺伝子群の働きを調節する転写因子の遺伝子を突き止めた。 この遺伝子を改変した植物は、これまでにない高いレベルの乾燥・塩分・凍結耐性を示した。この技術は種々の植物に応用できることが示され、 地球規模の環境劣化に対応できる作物の開発への応用が期待される。当研究センターでは、国際共同によりこの技術を多くの作物に応用して、 発展途上国の食糧不足を解決するとともに、人口増加や気候変動による将来の食糧危機に備える研究を行っている。
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サトウキビ側枝ポット苗増殖用の省エネルギー型養液栽培装置
鈴木 正昭
 サトウキビはわが国南西諸島の基幹作物でありながら、生産量は近年下降の一途をたどっている。わが国のサトウキビ生産を高めるためには、 栽培にかかる労働の負担を機械化などにより軽減し、生産コストの低減などを図ることによって、若年の生産者を確保することが必要である。 これまで遅れてきた植え付け時の機械化は、サトウキビ側枝ポット苗の効率的な生産によって可能となった。側枝は茎の節芽の催芽によってできるが、 これを効率よく発生させて採取し、ポットで育苗したものがサトウキビ側枝ポット苗である。 支所で開発した省エネルギー型養液栽培装置は側枝ポット苗生産の効率化に少なからず貢献しえたものと思われる。
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コムギ新品種の早期育成のための半数体育種技術の開発
稲垣 正典
 開発途上地域においては、環境ストレスに抵抗性のコムギ品種を早期に開発し、その生産性を安定向上させる必要性が高い。これに即応し、 コムギの品種改良に要する年限を短縮する方法として半数体育種技術の開発が重要であるという観点から、イネ科作物との遠縁交雑を利用するコムギの半数体作出に関する研究を実施した。 その結果、花粉親として、トウモロコシとトウジンビエが有効であることがわかった。冬作物と夏作物との遠縁交雑については、 花粉の凍結保存とコムギの切り穂培養の利用によって、交雑時期及び場所について解決すべき問題点を克服し、効率化することができた。 コムギの半数体育種技術は、従来の育種技術と比較した結果、開発途上地域において問題となっている環境ストレスなどによる被害を軽減するためのコムギ品種の緊急開発に十分に活用可能である。
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