Vol.26 No.1
【特 集】 地域における研究の取り組みと期待


技術体系化チームの活動を振り返って
北海道立中央農業試験場長    下野 勝昭
 平成12年4月に実施した道立農業試験場の機構改革で、植物遺伝資源センター以外の9場に技術普及部を新設、その中に今期改革の目玉とも言える技術体系化チームを置いた。 以来、約3年が経過したことから、その活動を振り返りつつ、現状の分析と問題点の摘出・整理に当たってみたい。

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体質の強い水産業の構築をめざして
岩手県水産技術センター所長    武市 正明
 近年日本経済が低迷する中で、「制度疲労」とか「企業寿命30年」といった言葉を、よく耳にする。岩手県の漁場も昭和30年代後半より沿岸各地に広まったワカメ養殖業を始め、 これまで築いてきたサケ、カキ、ホタテガイなどのつくり育てる漁業がつまずきを見せている。原因は、主に安価な輸入水産物の急増による価格競争力の低下であるが、 一方で生産量の減少も生じている。

 これらの厳しい状況を克服し、国際的に競争力のある、体質の強い岩手県の水産業を構築していくため、現在岩手県水産技術センターが取り組んでいる技術開発のいくつかを紹介する。

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米どころ、酒どころの研究動向
秋田県農業試験場長    鳥越 洋一
 秋田県の農業は銘柄米品種「あきたこまち」に代表され、また耕種部門の農業生産額においては米が7割を超えるように、米に偏重したものといえる。 ここでは、米に偏重した農業県に重くのしかかるカドミウムの農用地汚染の問題と、低迷する日本酒消費拡大の起爆剤として期待される新品種候補「秋田酒こまち」 を取り上げて研究活動の一端を紹介したい。

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今こそ、技術革新を
山形県立農業試験場長    田中 伸幸
 今、農業は従事者の減少や高齢化、農産物価格の低迷、さらには地球規模での産地間競争など経営面では大変厳しい状況にある。このため言いようのない閉塞感と無力感が農業全体に漂っているように思われる。

 このような状況を打破するためには、なんと言っても大胆な技術革新以外に方法はない。なぜなら、これまでの歴史を振り返ってみると、 活力のあった時代の節目節目には必ずと言ってよいくらい新品種の登場など新しい技術の開発があったからである。

 したがって、技術革新によって21世紀の農業を切り拓くためには、それを担うわれわれ研究者には失敗を恐れない、攻めの研究とこれまでの固定観念にとらわれない新たな発想が必要である。

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公立試験研究機関の独自性発揮を求めて
栃木県畜産試験場長    諏訪 勇
 現在の地方自治体の行政対応は、環境保全持続型社会の構築、少子高齢化社会へのソフトランディング、情報通信技術(IT)および新産業創出の4キーワードで展開されていると言っても過言ではない。

 一方、畜産に関しては畜産環境保全の他、地域畜産の生産構造の変化に伴い、大型畜産経営に向けた技術開発、地域活性化や高齢者のための畜産への技術支援が求められている。

 さらに、水稲の転作拡大に伴い、土地利用型農業部門から、水田を畜産のために利用する技術の確立が、農業関係試験研究機関も含めて強く要請されている。

 公立試験研究機関は、これらの情勢に各自治体の独自性を加味しながら地域の課題解決に柔軟に対応していくことがこれまで以上に求められている。特に、今後の公立試験研究機関の試験研究には、 「独自性」がキーワードとなろう。

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養蚕の収益性向上をめざした蚕品種育成
群馬県蚕業試験場長    藤枝 貴和
 長い歴史を持つ本県の養蚕も絹や生糸の需要の消長につれて盛衰を繰り返してきたが、少なくとも江戸時代以降昭和50年代に至るまでは、本県の農業・経済を支え、 地場産業や地域文化を育てる原動力となり、日本の蚕糸業発展の一翼を担うとともに近代化に大きく貢献してきた。

 しかしながら、現在の養蚕を取り巻く情勢は生活様式の変化による絹需要の減退、国際化の進展に伴い、海外からの安い繭、生糸、絹製品の輸入攻勢により生糸価格が長期に低迷するとともに、 輸入される繭や生糸の品質も向上してきたことから、価格と品質の両面からかつてない厳しい状況に直面し、また、養蚕の収益性の低下が農家の養蚕離れをきたしているのが現状である。

 このような状況下において、平成8年以降本県においては、特徴ある独自蚕品種を活用して外国産との差別化、棲み分けを、蚕糸絹業に係わる川上から川下までの関係者が一丸となって進めて、 「群馬の繭・生糸」のブランド化による養蚕の収益性向上を目指して、養蚕特化地域として、蚕糸業維持発展と養蚕振興に務めている。ブランド化の柱となっているのが当場育成の蚕品種であり、 多様化する繭、生糸需要者および消費者に対応し、蚕糸業の維持発展と養蚕の収益性向上を図るには新しい蚕業の種となる素材提供のできる蚕品種育成が今後、ますます重要になると思われる。 そこで、これまでに当場が進めてきた蚕品種育成方向と成果、ならびに今後取り組もうとしている育成方向について述べてみる。

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地域の研究から生まれた「トウキョウX」
東京都畜産試験場長    内野 耕治
 暑い盛りの頃執筆依頼をいただいた。わが畜産試験場に「なぜ?」と思ったが、「トウキョウXの・・・」と言葉が続いて納得した。

 地域研究が生んだ「トウキョウX」開発の経過を記して、地域振興に貢献できる素材を生みだした関係者へ感謝の意を伝えたい。

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富山県林業技術センターの研究取り組みと技術普及
富山県林業技術センター所長    茅原 正毅
 富山県の森林面積は約29万haで県土の67%を占めているが、地形が急峻で多雪地帯という厳しい自然条件から、林業生産活動が可能な森林は限られている。

 一方、保安林率は68%と全国第1位であり、水源涵養や県土保全などの公益的機能発揮に大きな役割を果たしている。

 スギを主体とした県産材生産量は、年間約5万立方メートルと少なく、富山県の木材需要量約160万立方メートルの95%は外材である。そのうちロシアからの北洋材の量は、 年間約130万立方メートルで日本一多い。したがって、県産材を扱う製材工場や森林組合の加工工場は小規模で生産性も低い反面、富山新港や伏木港などの港湾地区には、 北洋材を対象とした大型の製材工場や集成材工場が集積しており、重要な地場産業を形成している。

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どうしたら水産資源が増えるのか
福井県水産試験場長    和田 大輔
 21世紀になって水産基本法や基本計画が国から示され、水産に関する新たな施策がスタートしようとしている中で、地方においても地域の特色を生かしながら、 産学官連携を基軸とした水産関係者がお互いに知恵を出し合うことが必要ではないかと考えている。そこで、福井県の最近の調査研究の中から、 日頃漁業者が不安に思っている課題の解決に向け官民一体となって努力している事例を数例紹介してみたい。

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長野県におけるリンゴ育種の視点
長野県果樹試験場長    小池 洋男
 近年、経済のグローバル化にともない、多くの国が農産物の日本向け輸出の拡大を期待している。米国は、火傷病やコドリンガなどに対する日本の植物検疫措置に対してWTOへ緩和を求める提訴を行い、 パネルが継続中である。世界最大のリンゴ生産国・中国のWTO加盟も、世界のリンゴ産業に大きく影響を与えている。また国内では、日本伝統の贈答文化の衰退、流通の多様化、 消費者の求めるトレーサビリティー、地球の温暖化に伴う気象変動などがリンゴ産業に影響を与えている。

 長野県では、このような諸情勢への対応を視点としてリンゴの育種研究の推進を図っている。今後、リンゴ産業活性化に向けた育種研究が産官学の連携により取り組まれることを切望するものである。

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茶の生産・流通・消費の一元化研究
静岡県茶業試験場長    岸本 浩志
 最近、お茶のイメージが大きく変わった・産・官・学の研究成果により、飲料としての茶から衣・食・住へと幅広く有効利用され、生活に溶け込むお茶に変貌し、 飲むお茶もペットボトルの普及で若者へ浸透し、老若男女の飲料として定着した。

 茶が他の農産物と異なることは、1次・2次の荒茶、仕上げ加工が必要であり、付加価値を求める研究対象としては宝庫である。

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総合試験場の36年と今後のあり方
愛知県農業総合試験場長    木村 伸人
 本県は、自動車産業に代表されるように工業の盛んな県であるが、農業もその粗生産額が全国第5位(平成12年度)で、産業的には農業もバランス良く発達している。

 特に、都市近郊において資本整備と高度な営農技術を集約した園芸や畜産が盛んなことが本県農業の特徴であろう。

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「新総合技術センター」への期待
大阪府立食とみどりの総合技術センター所長    嘉儀 隆
 まず、最初に「食」と「みどり」という全国的にも例の無い名称について簡単に紹介しておきたいと思う。

 平成14年4月1日付の組織改正により、廃止された「緑化センター」と「淡水魚試験場」の環境領域の業務を引き継ぎ、 「農林技術センター」から「食とみどりの総合技術センター」へと名称が新しくなるとともに組織も大きく再編された。もともと当所は、昭和38年に農林畜産業の総合的な試験研究・ 普及・教育の場として農林技術センターの名称で発足したものであるが、約40年を経て、さらに試験研究の分野を見直すことになった。

 すなわち「食」という言葉は、当府農林水産業振興ビジョンの中で位置付けており農産物の役割を表すものとして、川上から川下までを守備範囲とすることを意味している。 また、「みどり」については、農地・森林・内水面域とそこに住む魚類・昆虫など生物種を含め自然資源全体を表すものとしてとらえ、自然環境分野の試験研究を推進し、 コンサルタント機能まで持つことを目標としている。

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森林・林業・林産業の活性化と研究開発
奈良県森林技術センター所長    吉川 武志
 奈良県は吉野林業に代表されるように、500年に亘る長い林業の歴史のなかで、木目細やかな長伐期施業により優良材生産を維持してきた。しかし、多大の労働投下量を必要とする集約的林業は、 経営面と労働面から育林体系の見直しが迫られている。また、林産業における県産材の需要拡大は本県林業・林産業の活性化に極めて重要な課題であり、技術開発が強く求められている。 一方、都市近郊林では放置された森林が多くなるなか、地域住民は森林の公益的機能に対する関心が高く、森林が適正に管理されることを期待している。森林に対する多様な要請は、 国産材が利用されて初めて達成されることから、国産材の利用開発研究の推進のみならず、木を使うことが地球環境に優しいことをもっとPRしなければならない。

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先端技術を活用した農家支援技術開発への取り組み
和歌山県農林水産総合技術センター果樹試験場長    北野 欣信
 パーソナルコンピューター(PC)の出現以来、各分野での技術革新は飛躍的なものとなった。当場でも、平成元年以来、近赤外分光法を用いたミカンの非破壊品質評価法の開発に取り組み、
民間の支援を得ながらその実用化に成功し、「光センサー」として現在全国のみかん産地に普及、いや、ミカン産地必須の武器となっている。これも、PCがあって初めて成しえた技である。

 この光センサーの登場により、各選果場では果実全量品質選別が可能となり、結果として、各農家、各園地別の膨大な品質データが集積されつつある。これらの貴重な品質データと各園地の樹体、 土壌条件、管理状況などをリンクさせ、高品質果実生産条件の解析を進め、産地の高位平準化、すなわち高品質果実生産、隔年結果防止、生産コスト低減、環境保全型生産を進めるのが急務であると考える。

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創立50年 新たな飛躍を期して
広島県食品工業技術センター所長    北野 欣信
 広島県立食品工業技術センターは平成14年6月に創立50周年を迎えた。講和条約発効の年、昭和27年6月旧醸造試験場を発展的に解消し、 醸造と農林水産加工の試験研究が一緒になった機関として新しい構想のもとに設立された広島県食品工業試験場(旧称)におけるこれまでの業績と、 今後の研究への取り組みについて抱負を述べたい。

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愛媛県における果樹関係の試験研究の取り組み
愛媛県立果樹試験場長    別府 英治
 愛媛県では、傾斜地が多いこと、温暖寡雨の気候であることから、農業の中で果樹の占めるウェイトが高く、農業粗生産額の30〜40%を占めている。果樹農家も2.3万戸あり、 全農家数の過半数を占めている。また、その多くは柑橘栽培農家で、これらの農家では農業専業農家が30%近くあり、柑橘専業農家が7%もいる。栽培面積を見ても、全国1位の品目が、 温州みかんのほか、伊予柑、夏柑、清美、キウイフルーツ、2位の品目が、八朔、ネーブルオレンジ、ポンカン、不知火、河内晩柑などと、柑橘では多くの品目が全国上位を占めている。

 このようなことから、果樹農業は県下のそれぞれの地域経済の中で極めて重要な位置を占めており、果樹で生計を立てていたり、果樹が生計のかなりの部分を担っている農家が多いのが本県の特色である。 このため、果樹農家は経営改善のための技術開発に非常に高い関心を持っており、果樹試験場が毎年10月初めにに開催している農林参観デーには8,000人前後の人が来場し (南予分場と岩城分場で実施する参観デーにもそれぞれ2,000〜3,000人の参観者がある)、圃場を視察したり、試験成績などを纏めた室内展示を見たり、技術相談を求めたりしている。 このような背景があることから、当果試では、常に現場に密着した試験研究を推進している。

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福岡県における林業研究の取り組み
福岡県森林林業技術センター所長    國廣 雄一
 福岡県森林林業技術センターでは平成11年度に策定された「福岡県森林林業技術センター研究推進目標」の基本理念である「緑豊かな環境の創造と活力ある産業の発展をめざして」 を目標として試験研究に取り組んでいる。試験研究にあたっては「産学官交流」「高度情報化」「国際協力」の推進を図り、研究を効率的かつ高度に推進する姿勢を持ちながら「県民生活」 「地域産業」「科学技術」へ貢献することとしている。このため、(1)森林機能の解明とその特性を活かした環境形成、(2)森林生態系の維持、充実、保護と生産技術の高度化、 (3)森林生物資源の有効利用技術開発と新用途開発、(4)持続可能な森林経営・流域管理システムの究明、の4つを研究推進の基本方向としている。

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「水産県ながさき」再生のための技術開発をめざして
長崎県総合水産試験場長    小坂 安廣
 県の水産試験場の役割は、県民(主に漁業者、水産関係者)の産業活動と県の行政施策の支援のための試験研究や情報伝達などである。それゆえに、「成果が早く求められる」 「基礎研究は避ける」「今必要な技術開発しか手がつけられない」などの悩みを抱えながら、研究員は国や民間、大学との連携、共同研究により技術および研究の高度化を図りながら日夜奮闘している。 本稿では、長崎県総合水産試験場(以下、「長崎水試」という)が現在進めている試験研究の取り組みの一端を紹介する。

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鹿児島県における畜産研究の取り組みと期待
鹿児島県畜産試験場長    永野 保任
 現在、当県では「鹿児島県総合基本計画」のなかで農業を本県の基幹産業として位置付け、戦略プロジェクト「食の創造拠点かごしま」の形成の一環として総合的な技術の拠点となる 「農業開発総合センター」構想に基づき、畜産部門は平成13年度に養鶏試験場を畜産試験場内に合併統合し養鶏部として組織化するとともに試験研究の高度化、効率化、 総合化に向けて施設の新築および改善など整備を計画的に進めているところである。

 研究部門は、肉用牛、乳用牛、養豚、養鶏、飼料、企画環境の6部制で他に肉用牛のバイオ部門と種雄牛の管理および精液の製造配布部を担う「県肉用牛改良研究所(曽於郡大隅町)」 に育種改良研究室と新技術開発研究室を配置している。

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離島県における育ちつつある研究陣容と現場即応技術開発・定着
沖縄県農業試験場長    島袋 正樹
 本県農業は基本的に離島農業である。本農試は、本県農業の技術開発責任機関であり、国の研究機関とともに本県の有利性を活用した生産性の高い農業の確立をめざして、 技術開発を実施し、多くの成果を挙げ、生産現場で技術展開され、甘味食料、熱帯果樹類、冬春期野菜、菊を中心とした花き類の供給基地として一定の評価を得ている。

 しかしながら、農業を取り巻く環境は、本県の自然環境の制約条件に加え、輸入農産物との競合、長期に及ぶ経済不況による需要の減少、産地間競争の激化、 担い手の減少および高齢化の進行などの厳しい社会状況にあり、価格が低迷し、本県の農業粗生産額は減少傾向にある。

 また、人類は地球資源を無限のものとして農業生産を展開してきた結果、地球環境が悪化し、今後は地球環境に配慮した持続的農業の展開が不可欠となっている。

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