Vol.26 No.5 【特 集】 家畜繁殖技術の最前線 |
家畜繁殖技術の推移 −人工授精、胚移植からクローン技術へ− |
(独)家畜改良センター 斉藤 則夫 |
家畜の遺伝的改良の努力は、人間が動物を家畜化し始めた先史以来続けてきたことである。それは、人間にとって有用な資質を有する動物の雄と雌を交配し、 できるだけ望んだような子孫を生産するということで、綿々と続けられてきたことである。現在、我々は人工授精、胚移植からクローン生産にいたる多様な繁殖技術を手にしている。 これらの技術が最も広範に利用されていると共に遺伝的改良に大きなインパクトを与えられている家畜は間違いなく「牛」である。ここでは主に牛に係わる繁殖技術の変遷について概説的に述べた。 |
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牛体外受精卵の生産と活用 |
(社)家畜改良事業団 浜野 晴三 |
牛の繁殖技術が人工授精、受精卵移植と発展を遂げている中で、牛卵巣から採取した卵子を材料に、体外で受精卵を生産する体外受精技術が開発された。この技術は、黒毛和種の増産目的に活用されており、 主に酪農家の乳牛に移植が行われ、今日では新たな繁殖技術として実用域に達している。子牛は全国の家畜市場で高値で販売され、畜肉成績も人工授精や体内受精卵で生産された黒毛和種の全国平均値との間に差は認められなかった。 しかし、移植後の受胎率、分娩、あるいは哺育時の子牛損耗の低減等諸技術の確立あるいは改善が必要課題である。 |
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牛におけるクローン技術の現状 |
(独)農業技術研究機構 畜産草地研究所 赤木 悟史・足立 憲隆・高橋 清也 |
わが国において世界で最初の成牛体細胞由来クローン牛作出に成功して以来、体細胞クローン牛作出技術について多くの研究が行われ、様々な細胞種からクローン牛が誕生している。 そして、これまでにドナー細胞の同期化法などの処理や細胞融合と活性化のタイミングによって核移植胚の発生能力が異なることなどが明らかになってきている。しかしながら、 まだクローン胚の初期化が不十分であるために起こっていると考えられており、初期化のメカニズムを解明し、正常な個体への発生技術の開発が必要である。 |
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クローン家畜の取扱いとクローン技術に期待されるもの |
前 農林水産省生産局畜産部 吉武 朗 |
体細胞クローン牛及びその肉、生乳等の取り扱いについては、現在、農林水産省が、関係機関等に対し、出荷の自粛を要請しているが、今後、厚生労働省の報告書が公表された後、 その結果等を踏まえ、消費者や畜産関係者の意見も聴きながら、その取り扱いについて検討することとしている。クローン技術は、優良な種畜生産等を通じて、 家畜改良にとっても飛躍的な進展をもたらす技術として期待される一方、消費者等の新しい技術に対する「漠たる不安」が存在する。今後、クローン技術が、「安全」のみならず、 「安心」できる技術として広く理解されるためには、情報公開を進めつつ、死流産や生後直死等の原因解明や技術としての安定化を図るとともに、消費者等の理解を得ていくことが重要である。 |
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ウシ胚の性判別技術と受精卵クローン技術への利用 |
北海道立畜産試験場 南橋 昭 |
産子の雌雄産み分けは酪農畜産農家の夢である。これまで、精子や胚における性判別技術について種々の研究がなされてきた。近年、精子においては、 X精子とY精子の相対的DNA含量の差に基づいてフローサイトメーターで分別する方法が開発され、実用化に向けて研究が進められている。胚においては、PCR法が開発されたことにより、 雄特異的DNA配列を増幅して検出することが可能となった。また、当試験場では、栄研化学(株)が開発した新しい遺伝子増幅法(LAMP法)を用いて簡易で迅速なウシ胚の性判別キットを開発した。 今後の課題は、性判別胚の凍結保存技術の確立である。 |
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ウシゲノム解析技術利用の現状と将来 −DNA型検査機関の立場から− |
(社)家畜改良事業団 印牧 美佐生 |
ウシという雑種集団を対象として遺伝的改良を進めるためには、正確な個体識別とこれに基づく登録制度が必須である。登録システムを担保する手段として半世紀にわたり利用されてきた血液型検査に加え、
DNA多型を利用した個体識別・親子確認技術が導入されている。この検査システムは、家畜個体や畜産物の遺伝子マーカーによるトレースという新たな分野にも応用されつつある。 一方、ゲノム解析技術の進歩は、ウシの遺伝性疾患や生産性に関連する遺伝的変異を見出し、それらの検査を可能にした。 これらの技術を生産現場で活用するための検査体制の歴史と現状ならびに課題について述べる。 |
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遺伝子組換え家畜の医療・製薬への応用 |
明治大学農学部 長嶋 比呂志 |
遺伝子組換え(トランスジェニック)家畜は、実用化の段階を迎えようとしている。実用化の代表例は、トランスジェニック家畜の乳汁中への生理活性物質の生産と、その薬剤原料としての利用であり、 血液凝固因子はじめ、病気の治療薬として有望な多くの物質が生産されている。また、トランスジェニック動物の臓器や組織・細胞を、移植・再生医療に利用する研究も進められている。 このような、トランスジェニック家畜の医療・製薬への応用と技術内容について概説する。 |
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乳用牛における育種改良 −インターブルへの参加とシステムの効率化− |
(独)家畜改良センター 安宅 倭 |
世界の乳牛はホルスタイン種の広まりによって平準化され、国ごとの遺伝的能力の違いは小さくなってきている。遺伝的改良は生産性向上に大きな役割を果たしてきているが、 世界的な平準化によって全世界を対象に、すぐれた個体を選抜してゆくことがさらなる生産性向上に必要とされている。世界を対象に優れた素材を集め、わが国の体制を強化するための手段として、 インターブル参加が現実になろうとしているが、わが国の改良システムが世界に影響を与え、与えられることを考慮すると、国内だけでなく海外からも信頼されるようなさらなるシステムの効率化が求められている。 |
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