Vol.26 No.6
【特 集】 新しい炭化技術とその利用


バイオマス・ニッポン総合戦略と炭化技術
農林水産省農林水産技術会議事務局 現 (独)森林総合研究所    木口 実
 バイオマスの利活用を強力に推進するために、政府は2002年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」を閣議決定した。本戦略では、湿潤重量で3億4,000万t、 原油換算で3,490万klの年間賦存量を有するバイオマスの利活用について、目標値を設定して戦略の具体的なシナリオを設定している。特に、「広く、薄く」存在するバイオマスの収集・輸送システム、 地域の独自性の発揮、経済性を考慮したエネルギーおよび製品への変換技術、関係者の密接な連携がバイオマスの利活用にとって重要である。バイオマスの利活用において、 大気中の二酸化炭素を炭素として固定し、クリーンなエネルギー資源や環境浄化資材などとして半永久的に炭素を固定できるバイオマスの炭化技術は、古くて新しい技術である。 スラリー燃料、炭化ガス化発電、バイオオイルなどのエネルギー利用や吸着剤、土壌改良剤、グラファイトなどのマテリアル利用に新しい炭化技術が続々生まれており、 バイオマス・ニッポン総合戦略により更なる発展が期待できる。
←Vol.26インデックスページに戻る

家畜ふん尿の炭化・エネルギー化システム
(独)九州沖縄農業研究センター    薬師堂 謙一
 九州沖縄農業研究センターでは、畜産集中地帯で余剰となっている家畜ふん尿を熱料源に炭化・ガス化し発電を行い、廃熱により地域で発生する食品残さを乾燥して飼料化する資源循環型のエネルギー生産システムを開発している。 家畜ふん尿は材料中に水分やタール分、アンモニアや硫黄、塩素分を多く含むため、発酵乾燥+太陽熱乾燥+炭化廃熱乾燥でほぼ水分0%まで乾燥するとともにアンモニアを極力除去する。 次いで、過熱水蒸気と外筒加熱により材料を炭化し、成型後、燃焼式ガス化炉で熱分解ガスを発生させ、エンジンを駆動し発電する。発電廃熱で食品残さを乾燥飼料化することにより事業化できるエネルギー化システムとなる。
←Vol.26インデックスページに戻る

ニッケル触媒炭化による木材のエネルギー変換とマテリアル変換
北見工業大学 化学システム工学科    鈴木 勉
 木材にNiを添加して炭化すると、水素中で素早くメタンに転換される木炭、含酸素ガスの水素化触媒として働く木炭、電磁波遮蔽効果を発揮する木炭が得られる。 木材の特性と熱分解挙動に基づいて開発されたこのNi触媒炭化は、従来の木材炭化の概念を越えた魅力的なエネルギー変換(ガス製造)法、マテリアル転換(機能性炭素の製造)法であり、 現在エネルギーとマテリアルの併産を目指して新技術の開発に挑んでいる。
←Vol.26インデックスページに戻る

木質バイオマスの炭化固形燃料
近畿大学 理工学部機械工学科    井田 民男・渕端 学
 近年の化石燃料などの多量消費に基づくエネルギー資源不足や環境保全などを回復する目的で再生可能エネルギーとして位置付けられる新しい炭化技術によって活路を開くことは社会的な意義は大きい。 しかし、炭や薪を使っていた時代とは、エネルギー消費量、生活圏とバイオマス資源との距離、流通システム、ほかのエネルギー資源との競合などの点から一変している。 ここでは、国内の木質バイオマスの資源量とそれに含まれる未利用の木質バイオマスの有効活用を目指した。ペレット化による熱エネルギーの高密度化を実現する新しい炭化技術の開発のコンセプトとその成果の一部を紹介する。
←Vol.26インデックスページに戻る

バイオマスラリー燃料(BSF)
日揮株式会社 技術ビジネス開発本部技術研究所   土屋 富士雄・井上 和誠
日揮株式会社 産業プロジェクト本部ニュービジネス事業部   鶴井 雅夫・須山 千秋
 木質系バイオマスを300度程度の温度条件下で加圧水処理することにより炭化物を得ることができる。この炭化物を粉砕して添加剤を加えてスラリー化したものは液体状態となるため、 重油のように貯蔵や輸送が容易な流体燃料としてボイラーなどの燃料となる。

 林地残材、間伐材などの未利用の木質材料や製材工場から排出される鋸屑などの廃材を原料として利用すれば、再生可能かつ、カーボンニュートラルな21世紀型燃料となる。

 加圧熱水処理する際に副成する改質濾液は組成的に木酢液に類似し、農業用途などへの利用も期待できるため、BSFプラントはゼロエミッション型プラントである。
←Vol.26インデックスページに戻る

バイオマス由来の再資源炭の性状と農地還元
(独)農業工学研究所    凌 祥之・柬理 裕
 バイオマスの有効利用および資源の循環は重要な問題である。しかし、わが国ではコンポストなどの再利用技術がなかなか浸透しておらず、新しい技術の開発が期待されている。 われわれは「炭化」を提案している。炭化によって、減量化が計られ、廃棄物としての取り扱いが容易になり、炭化物は農地還元など様々な用途で利用されることができる。

 本報告では、有機性資源を炭化したものを「再資源炭」とし、これらの製造および利用技術の開発のために必要な炭化物の性状、農地還元利用のための問題点を述べる。
←Vol.26インデックスページに戻る

木炭からの高機能素材の開発
京都大学 木質科学研究所    畑 俊充
 木炭は古くから主に燃料として親しまれてきたが、最近になり環境浄化材料や新炭素素材として注目されている。 木炭の電子顕微鏡学的な研究から黒鉛化構造やナノダイヤモンドといった新素材ナノカーボンを形成することもその作り方によっては可能であることが分かっている。 木炭から、宇宙、航空、エレクトロニクスといった分野での最先端材料というイメージが思い浮かぶのもそれほど先の未来ではないだろう。
←Vol.26インデックスページに戻る