Vol.26 No.7
【特 集】 生活を豊かにする昆虫の機能


昆虫機能の研究成果とその応用
前 (独)農業生物資源研究所    井上 元
 農林水産省は1988年、世界に先駆けて昆虫機能研究を戦略的に開始した。その後の15年間の研究展開は目覚ましいものがある。 研究プロジェクトの流れをみると、基礎研究と平行して企業による実用化技術研究が進められたように、当初から産業化を強く意識して進められてきたことに昆虫機能研究の特色が示されている。 多様な昆虫とその機能の解明からは物質・材料系として興味ある知見が得られている。それらの一端を紹介し、また、組換えバキュロウイルスによる試薬類の製造状況などを整理してみた。
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昆虫が持つ機能利用の可能性 −昆虫の感覚センサ・脳・行動とロボット−ム
筑波大学生物科学系    神崎 亮平
 昆虫において着目すべき点の一つは、多様な環境下における昆虫の問題解決の生物アルゴリズムである。昆虫が4億年にわたり築き上げてきた智恵の結晶である環境下での問題解決法には学ぶべきことは多い。 昆虫では、遺伝子、神経、神経回路、脳、行動と、要素からシステムまでをあらゆる階層からシステマティックに分析できる点、工学との相性がよい。 ここでは、昆虫の感覚と行動機能について概説し、環境下での問題解決のアルゴリズムの例として、われわれヒトにはきわめて困難な課題である匂い源探索を取り上げ、 それを規範とした匂い源探索ロボットを紹介する。
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食品工場における害虫防除対策 −ゴキブリ誘引捕獲器の開発−
イカリ消毒株式会社    富岡 康浩
 食品工場における混入異物防止対策としての害虫防除は、昆虫の侵入や生息を防ぐ予防管理が最も重要である。そのためには種々の「防御技術」、「モニタリング手法」、 「駆除技術」を組み合わせて用いることが必要である。また殺虫剤に頼らず、各種の捕獲機器を活用した害虫管理が望まれている。チャバネゴキブリは病原体を伝搬し、 食品異物にもなる重要な害虫である。集合フェロモンなどの誘引物質、送風、蓄光の縞模様などの誘引要因、それらの複合的な効果を追究した結果、従来より優れた誘引捕獲器が考案された。 実地試験でも高い効果が得られ、今後、実用化が期待される。
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昆虫の機能を取り入れた夢のある施設
(株)竹中工務店    星野 春夫
 建築物への適用を目的として、昆虫の機能を利用した形状可変システムの構想検討を行い、翅の動きをモデルとした簡易な部材からなる空気圧利用アクチュエータ、 カブトムシの形状や翅の動きを模した地下街などの出入口の形状可変屋根および階段全体を任意の形状に変化させる形状可変階段の3種類のシステムについて、基本設計、 実験用モデル試作および性能確認実験などを行った。その結果、ほぼ計画通りの動作と実現可能な性能が得られ、十分な実用性を有することが確認された。
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あまりに知られていない天敵昆虫、微生物たちの嘆き
アリスタライフサイエンス(株)    和田 哲夫
 研究者レベルでは常識となっている農業および園芸における生物的病害虫防除であるが、一方で、多くの生産者レベル、消費者レベルではほとんど知られていない。 これはひとえに生物的防除が日本では病害虫の防除方法としてはいまだ重要な手法として認知されていないからである。本稿では日本と世界での生物的防除の現状とその長所、 短所について解説した。化学農薬の防除価には、土着天敵による潜在的な防除価が含まれていることを認識すべきである。将来的には、農薬取締法の改正により、 現在の化学農薬のかなりの部分を生物的防除がカバーする可能性がある。
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絹フィブロインを素材とした化粧品、医療品
(独)農業生物資源研究所    坪内 紘三
 絹糸は高付加価値素材として医療や化粧分野へ利用できると考えられ、一部で利用されていることもあり、絹新素材開発には大きな期待が寄せられている。 われわれは絹タンパクにおける機能の特定と利用を目標に、絹糸加工過程における絹タンパクの生化学的分析を進めてきた。 その結果、絹タンパクの機能や分子量は生糸の精練や絹糸の溶解などの加工工程で容易に変化することが分かってきた。ここではその一部を報告した。 従来、絹糸の品質は外面的な光沢や手触りなどが主であったが、絹素材開発においては内面的な機能評価が必要となり、新たな開発段階に入ってきたと考えられる。
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昆虫がつくり出す健康補助食品<
玉川大学ミツバチ科学研究施設    松香 光夫
 昆虫の生産物を食べるということを考えてみると、わずかな例外を除けば、ミツバチの生産物が中心となる。そしてその多くが健康補助食品として扱われているのである。 本稿では、食品としてのミツバチ生産物についてその特徴などを解説し、それらを用いて、私たちの健康に役立て、かつ、一歩進めて体調不良を緩和し、 部分的には疾患の治療にも応用する分野を含めてアピセラピーという概念を紹介したい。
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