Vol.26 No.8
【特 集】 わが国周辺の水産資源回復計画


資源回復計画の推進
水産庁 資源管理部    阿部 智
 わが国周辺海域の水産資源は総じて減少傾向にある。このような悪化している水産資源を回復させるため、国または都道府県が、漁獲努力量削減措置、資源培養措置、 漁場環境の保全措置を総合的、計画的に実施するためのマスタープランである「資源回復計画」の作成および実施を推進しているところである。資源回復計画では、 対象資源を利用する関係漁業者全体で資源の回復に取り組むこと、および関係漁業者が同計画に基づき漁獲努力量削減措置を実施する場合の財政的な支援措置を講じることが特徴である。 資源回復計画は、2001年度から作成に着手し、2002年度末までに4つの計画を作成、関係漁業者により実施されており、今後、対象資源を拡大していく予定である。 
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親潮・黒潮域のプランクトン変動と浮魚類資源変動
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    中田 薫
 地球温暖化や気候変動がプランクトン生態系への影響を通じて魚類資源変動に及ぼす影響が指摘されている。多獲性浮魚類の産卵調査などのモニタリングで蓄積されてきた試料およびデータの解析を通じて明らかになった黒潮および親潮域の動物プランクトンの長期変動とその要因を整理した。 黒潮続流域およびその南の海域の水温とマイワシの死亡率との間に正の関係が観察されているが、この海域の動物プランクトン量が両者をつなぐリンクとして重要である可能性を指摘した。 
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変動する水産資源の解析と資源管理
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    谷津 明彦
 わが国の主要水産資源の漁獲量には、魚種交替と呼ばれる10年規模での卓越種の交替が知られる。水産資源変動は主に漁獲と環境の影響を受ける。環境変動は10年規模(レジームシフト)と年変動があり、 前者は魚種交替の一因と考えられる。以上の背景を踏まえ、マサバ太平洋系群を事例として、水産資源変動の要因、資源の解析方法および管理方策について論じた。 マサバに対する環境は近年良好な時代に入ったと考えられるが、未成魚の多獲により資源が回復しなかった。マサバの資源回復には、再生産関係に応じた漁獲管理が必要であり、 このためには、主漁業であるまき網の多種管理、適切な管理目標と管理機構の設置およびモニタリングが必要である。 
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生態研究はマイワシ資源変動をどこまで明らかにしたか?
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    大関 芳沖
 近年、漁獲量が急減した日本周辺のマイワシ資源は、TACによる資源管理体制のもとでも低迷を続け、その回復が漁業・水産加工業など各方面から切望されている。 マイワシの資源生態研究によれば、マイワシ資源の激減は乱獲など人為的な原因によるものではなく、大規模な増減を繰り返すきっかけは仔魚から未成魚までの生き残り率の変化にあることがわかってきた。 未成魚までの生き残りには、餌環境と捕食者が関係しており、餌環境の変化は世界的な気候変動と関連した現象であることが示されている。世界的な気候変動や地球温暖化を視野に入れたマイワシ資源予測モデル研究も進められている。
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瀬戸内海におけるサワラの資源回復計画
(独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所    永井 達樹
 瀬戸内海のサワラ漁獲量は1986年のピーク時に比べ1998年に約1/30の196tとなった。とり過ぎが直接の原因である。秋に未成魚をとるなどとり方も悪くなった。 富栄養化により海の窒素と燐のバランスが崩れ、魚類生産を支える植物プランクトン(珪藻類)が減った。サワラ資源はピーク時の1/3まで回復可能とみたが、 2006年までの回復目標を2000年の資源量の20%増とし、春・秋漁の一部休漁や未成魚を保護する網目拡大を行う資源回復計画が水産庁の指導のもと2002年4月から開始された。 2002年生まれが秋〜冬に多く、よい兆しが見える。
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伊勢・三河湾におけるトラフグの資源回復
(独)水産総合研究センター 中央水産研究所    堀井 豊充
 伊勢湾および三河湾では小型機船底びき網漁業が営まれており、マアナゴやシャコと並んでトラフグが重要な漁獲対象種となっている。同漁業により漁獲されるトラフグは、 産まれてから1年未満の小型魚がおよそ9割を占めており、資源の回復を図るためには、小型魚の漁獲抑制が必要である。三重県、愛知県、静岡県による調査結果を分析したところ、 漁獲努力量の低減とあわせて漁獲開始時期を遅らせることが、資源の有効利用を図るうえで有効であると考えられた。
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ブリ資源の管理に向けて
 −アーカイバルタグを使用した回遊生態調査−
富山県水産試験場    井野 慎吾
 ブリの漁獲量は、近年、高水準で推移しているものの、漁獲圧の増大に加えて漁獲物の若齢化が進行し、資源状態の悪化が危惧されているところであり、資源管理の必要性が高まっている。 このため、富山県水産試験場は関係機関と協力し、資源管理を進めるうえでの重要な課題であるブリの生態解明に取り組んでおり、その一環としてアーカイバルタグ(記録型標識)を使用した標識放流調査を実施している。 調査によって、不明であったブリ成魚の詳細な回遊生態が明らかになりつつある。
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