Vol.26 No.10 【特 集】 イネ利用への新たな道を拓く |
新用途をめざしたイネの研究・技術開発 |
農林水産省 農林水産技術会議事務局 森田 敏 |
食生活の欧米化や少子化により米の消費量が減少し,水田の約4割で転作が行われている。米の需要拡大を図るため,これまでに低アミロース米,巨大胚米,低グルテリン米, 有色素米,ホールクロップサイレージ用イネおよびそれらの利用技術の開発が行われた。また,微粉砕した米粉を用いたパン,米を発酵して作った皮膚保湿剤,米糠から作ったセラミックス, 籾殻燃焼灰を用いたバイオリアクター担体など,ユニークな視点でイネの多様な用途に道を拓く研究・技術開発が行われてきている。今後,このような技術開発を一層進めることにより, イネを多段階に利用した循環型社会の実現と地域経済の活性化が図られることが期待される。 |
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米粉パンの開発 |
新潟県農業総合研究所 食品研究センター 江川 和徳 |
パン製造のための米の製粉方法を検討し,胴搗き粉に比べて衝撃粉は吸水性が低く,パン原料として適していると認められた。米粉の吸水性には粒度,嵩密度, 粒形および濡れなどの特性が関係すると認められ,製パン試験から粒度,安息角,濡れの3特性がパン原料として強く影響することが知られた。 この3特性についてパン原料としての最適な特性基準値を設定し,製粉技術を抜本的に見直した。米浸漬時にペクチナーゼ処理することによって細胞壁を分解した後, 気流粉砕する方法を設定した。米パンの製造方法には添加したグルテンが極力痛まない条件がきわめて重要であることを明らかにした。 |
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米でんぷんの特性と新たな利用技術の可能性 |
(独)食品総合研究所 大坪 研一 |
米のでんぷんは精米の約75%を占めており,米飯の食味や加工適性に対する影響が強い。また,粒径が小さく,角張っているので,化粧品や印画紙素材としても使われてきた。 平成元年度からの「新形質米」研究プロジェクトでは,低アミロース米,高アミロース米など,でんぷんに特徴のある品種が育成され,米飯の食味向上に加えて,加工米飯や米菓などにも新用途が広がった。 最近,米の特性には,アミロペクチン分子の構造と鎖長が関わっているということが報告され,生合成関係酵素や変異系統関連の研究が進んでいる。粒食素材としての米飯用に加えて, 幅広い新用途米が開発されることが期待されている。 |
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発酵による米からの新機能性素材の開発 |
勇心酒造株式会社 徳山 孝 |
米から,日本型バイオともいえる技術,すなわち麹菌や酵母などによる発酵法の組み合わせにより新規機能性素材ライスパワーエキスを開発した。現在まで36種類の基礎素材を開発し, アトピー性皮膚炎発症予防・悪化防止効果をもつライスパワーエキスNo.11,粘膜保護・胃潰瘍の予防・治癒促進効果をもつライスパワーエキスNo.101をはじめ9種類のエキスの実用化を行っている。 ライスパワーエキスは優れた効果と安全性を兼ね備えた素材であり,化粧品・トイレタリー商品から,飲食品・アルコール飲料に至るまでさまざまな製品にも使用できる利用範囲の広い素材である。 |
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米糠水溶性混合成分の機能 |
広島大学大学院 教育学研究科 片山 徹之・岡崎 由佳子 築野食品工業(株) 築野 卓夫・辻脇 里美 |
近年,動物性食品の摂取過多への懸念や健康志向により米糠や米糠成分が,食物栄養学的に著しく注目されるようになってきた。このような現状のなかで, 米糠水溶性混合成分が「ライセオ」という商品名で健康食品素材,食品加工原料および化粧品原料として開発,商品化された。ライセオは,米糠に多く含まれるフィチン酸が3割近くを占める独特な水溶性成分である。 最近フィチン酸は,抗癌作用,抗酸化作用および抗脂肪肝作用などを有することが示されてきているが,抗酸化作用や抗脂肪肝作用を指標として検討した場合,ライセオはフィチン酸の発揮する機能を有すると同時に, 混合成分に特有な性質を有することが明らかとなっている。 |
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米糠を原料とする硬質多孔性炭素材料「RBセラミックス」の開発 |
東北大学大学院 工学研究科 堀切川 一男・山口 健 三和油脂(株) 村山 順一・鹿野 秀順 |
RBセラミックスとは,脱脂した米糠にフェノール樹脂を混ぜ,粉体のままあるいは成形・加工した後,窒素ガス雰囲気中300〜1,100℃の温度で炭化焼成するという方法によって製造される全く新しい硬質多孔性炭素材料である。 RBセラミックスは,環境適合性に優れたエコマテリアルであり,高硬度,高耐食性,高耐摩耗性,射出成形による複雑形状品の製造が可能,など工業材料としてさまざまな長所を有しており,完全無潤滑型直動すべり軸受, 滑りにくい靴などの製品に利用されている。農業と工業を融合させた新しい地域産業の創出を目指して,産学官の密接な連携のもとでさまざまな応用に向けた研究開発が進められている。 |
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イネ籾殻の工業的利用の研究 |
(元) 住金物産(株) 川村 弘一 京都大学 農学研究科 藤田 稔 住江織物(株) 瀬戸 保太郎・中村 達男 |
イネ籾殻は米の副産物として膨大な量が持続的に生産されるバイオマス資源である。その重量の80%は木化した細胞壁で,約20%のシリカを含むことが特徴的である。 籾殻は嵩張り,燃えにくいことから有効利用が遅れてきた。筆者らは光顕と走査電顕による観察から,籾殻外表面の上表皮組織が非常に精巧なシリカ層と細胞壁の複合構造体を形成し, 肉眼レベルのmacro-shell,50〜80μm周期のmicro-shell,2μm程度のultra-shellなどの構造を明らかにした。この構造を活用して貴重なバイオマテリアル資源を工業的に利用する各種の試みを例示した。 その結果,生物が産み出した巧妙な構造を活用することが籾殻の有効利用の鍵であることが実証された。 |
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