Vol.27 No.4
【特 集】 動きはじめた農業特区


農業・農村の再生を目指す「農業特区」
農林水産省大臣官房 企画評価課    道管  稔
 構造改革特区制度は,小泉内閣における構造改革の一環として2003年4月にスタートした。特区は,地域自らの発意・工夫による地域の活性化に向けた努力を促すものであり, 地方自治体が特区計画を作成,認定を受けると,当該区域に限って規制の特例が適用される。農業・農村の活力低下が進むなかで,農業・農村の再生に資する規制の特例が創設されており, これら特例を活用する農業特区の認定も拡大している。今後,各地域で地域の特徴,課題を踏まえた,自発的な取り組みが進み,農業・農村の再生の起爆剤となることが期待される。
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農業特区は農業再生の起爆剤になるか
拓殖大学 国際開発学部    叶  芳和
 「農業特区」は農業再生の先行実験ではなく,地域づくりに役立ちそうだ。農地法3条の特例は認められても,担い手不足の穴埋め的であり, 「日本の農業をどうする」という姿が見えてこない。「コメ輸出特区」がないのはなぜであろうか。「特区」でありながら, 農政の前に出るものは認められていないのではないか。いまのような政策論なき特区は先細りの可能性がある。新機軸をも認めることによって, 特区を真に農業再生の先行実験とすべきである。
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「産学官連携」・「農業振興」による地域活性化
―津軽・生命科学活用食料特区―
青森県農林水産部    鳴海 英章
 「津軽・生命科学活用食料特区」は,規制緩和によって,単に遊休農地の解消を目的とする構造改革特区ではなく, 食品製造業者などの企業の立地や国立の弘前大学における生命科学技術研究の実施といった津軽地域の優位性を最大限に生かして, アグリビジネス展開の推進を図るとともに,食品製造業者,建設業者などの民間企業や第3セクターなどの多様な法人の農業参入, 農業者などによる市民農園の開設などを通じて,農業・農村の再生・新生を実現し,地域経済の活性化と雇用促進につなげることをねらいとしたもので, 「産学官連携」と「農業振興」の2分野を組み合わせた独創的な特区である。
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建設業が農業経営に挑戦
―東頸城農業特区―
新潟県 浦川原村建設農林課    山崎  剛
 新潟県安塚地区振興事務所と郡内6町村の代表者で東頸城特区研究会を立ち上げ,地域資源を活用した地域振興計画を策定した。その計画を実現するため, 平成15年4月特区申請し認定を受けた。その結果,過疎・高齢化に苦しむ中山間地域農業の担い手として,地域に根ざした建設会社1社と, 地元の建設会社と地元有志が出資して新たに設立した1社が農業に参入し,今まで条件不利地と言われてきた農地や遊休地を活用している。 参入企業にとっても,会社の存続をかけての取り組みとなっており,うち1社は,有機無農薬栽培の水稲と山菜,イワナなどの養殖,もう1社は, 観光牧場を核とした他産業との複合経営を目指している。
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「地産・地発・地工・地消」の農業をめざして
―相模原市新都市農業創出特区―
相模原市経済部    菅谷 一夫
 農家の高齢化や担い手不足により増加する遊休化・荒廃化農地の有効活用を図るため,特区制度の特例措置を利用して,これまで農業参入が困難であった法人や個人による新規参入を促進する。 こうした新たな農業の担い手の確保による都市農業の活性化を通じて,都市における「地産・地発・地工・地消の農業」の実現化を図る。
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都市との協働による棚田保全で地域活性化
―鴨川市棚田農業特区―
鴨川市農林水産課    渡辺 寿雄
 都市との交流のなかで中山間地農業の振興と地域活性化を図るため,鴨川市リフレッシュビレッジ事業に取り組んでいる。

 「東京から一番近い棚田の里」として親しまれている大山千枚田での「棚田オーナー制度」には毎年多くの応募があり対応しきれない状況にあったが, 鴨川市棚田農業特区の導入で,受け入れ集落の拡大が可能となり,棚田オーナー数は全国でも一番多い260組となった。2004年4月, さらなる交流人口の拡大と定住化を図るため「鴨川市ふるさと回帰支援センター」を設立し,地域経済の活性化をめざす。
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有機農業「有機の里いちじま」確立
―環境保全型農業など推進特区―
兵庫県NPO法人「いちじま丹波太郎」    山名 隆衛
 市島町の有機農業は,1975年(昭和50年)から全国愛農会会長を勤められた近藤正(市島町出身)と有志専業農家34名により開始された。 歴史のある有機農業をより推進するため,有機の里としてふさわしい町づくりを目的に設立されたのが,NPO法人「いちじま丹波太郎」である。 新規就農希望者支援のために実習,研修用農場や環境保全型農業技術の研究,実証のモデル農場として,農地の権利取得ができる構造改革特区を導入し, 遊休農地の効率的利用による担い手の育成確保と,環境保全型農業の普及推進などの取り組みを通じ,持続可能な食料・農業・農村の構築により「有機の里いちじま」の確立を目指している。
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遊休農地の有効活用と地域振興
―安心の里農業特区―
大分県安心院町産業振興課    前田 和弘
 町の基幹産業は農業であるが,高齢化,担い手不足による農地の遊休・荒廃化が深刻な問題となったため,平成2年度より新規就農者の受け入れ事業に取り組み, 現在までに23戸の農業者が誕生している。またグリーンツーリズム推進を宣言し,農村と都市との交流に積極的に取り組んでおり,この活動と町の進める「安心の里」づくりにより, 農業従事を希望する定住者が増加している。このようななか,農地取得面積の緩和と効率的な活用を前提とした法人の農業経営を可能とする農地法の特例措置を講じ, 遊休農地の有効活用と地域振興を図る。
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