動物衛生研究所と人獣共通感染症 |
(独)動物衛生研究所 清水 実嗣 |
牛海綿状脳症(BSE)や重症急性呼吸症候群(SARS)、高病原性鳥インフルエンザの発生、腸管出血性大腸菌O157やサルモネラによる食中毒の多発を契機として、
社会の食の安全・安心と人獣共通感染症に対する関心が著しく高まっている。動物衛生研究所ではこのような状況に対応するため、研究組織の強化、
プロジェクト研究の推進、研究施設の整備などにより人獣共通感染症研究の強化に努めている。それらの概要について紹介する。
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高病原性鳥インフルエンザの発生とヒトへの感染の可能性 |
(独)動物衛生研究所 塚本 健司 |
2004年にH5N1ウイルスによる鳥インフルエンザが、日本を含む東アジア8ヵ国で同時多発的に発生し、世界に衝撃を与えた。
このウイルスは1996年に広東省のガチョウ農場で見つかったウイルスの子孫であり、鳥病原性を高めながら、汚染域を拡大している。
本ウイルスはヒトの新型インフルエンザとしても懸念されており、これまでに30名以上が死亡している。養鶏場での発生防止はヒト感染防止の観点からも重要である。
人獣共通感染症である本病を効果的に制圧するには、アジア各国の診断、防疫体制の強化と、疫学研究の連携が必要である。
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インフルエンザウィルス135種類の収集からワクチン開発へ |
鳥取大学 農学部 伊藤 壽啓 |
1997年以来今日までに香港、オランダ、タイ、ベトナムと鶏由来インフルエンザウイルスのヒトへの感染例が徐々に増えてきている。その要因は不明であるが、
新型ウイルスの出現に備えた対策を充分に確立しておくことが人類にとって緊急の課題であることに疑いの余地はない。国際的な疫学調査を実施し、
次に出現するであろう新型ウイルスの血清亜型を予測するとともに、ワクチンウイルスの候補株を選定してそれらを系統保存しておくことが極めて重要である。
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北アメリカのウエストナイルウイルス感染症とわが国の取り組み |
(独)動物衛生研究所 後藤 義之 |
米国におけるウエストナイルウイルス(WNV)感染症の流行の勢いは衰えを見せず、ほぼ全米に拡大して2003年の流行では約1万人近い人が感染発症し、
回復しても髄膜炎の後遺症に悩まされており、不幸にも262名が亡くなっている。WNVの流行は米国のみならず周辺諸国に波及しカナダ、メキシコ、カリブ海諸国、
中米のエルサルバドルへと拡大しつつある。一方、わが国でもWNVの侵入を監視する調査のため蚊および死亡野鳥の材料を収集し、
野外におけるWNV存在を確認する監視体制の強化としてサーベイランスが開始された。この調査でわが国へのWNV侵入は認められていないが、
今後も海外におけるWNVの動向には注目しなければならない。
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SARSウイルスと動物 |
(独)動物衛生研究所 池田 秀利 |
SARS(重症急性呼吸器症候群)は2003年3月から数カ月間世界各地で猛威をふるった。原因はSARSコロナウイルスという新しい病原体であった。
疫学調査やウイルス遺伝子の解析から、このウイルスの伝播経路が浮き彫りにされてきた。さらに野生動物からも類似のウイルスが分離され、
元来このウイルスは動物に由来するのではないかと疑われている。この1年余りを振り返って、この突然発生した新興人獣共通感染症がどのように対処され研究されてきたかを述べる。
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ニパウイルス感染症と国際協力 |
(独)動物衛生研究所 今田 忠男 |
ニパウイルス感染症は、1996年ころから東南アジアのマレー半島において、コウモリ(Flying fox)の1種から養豚場のブタが直接または間接的に感染し、
ブタから100人以上の養豚関係者が感染死亡した新興感染症である。発生当初からオーストラリア、アメリカ、日本の協力のもと、その原因究明と対策が樹立され、
マレーシア政府と獣医学研究所(VRI)の迅速な対応により大量のブタ(100万頭以上)が淘汰され、マレーシアでは2000年4月以降の発生は認められていない。
しかし、この感染症の疫学情報は充分ではなく、現在でもある種のコウモリと動物とヒトのいる所では、いつ再発生してもおかしくない感染症で、
このような野生動物に起因する感染症の防疫には国際協力が非常に重要である。
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食肉と関連が深い人獣共通感染症 |
(独)動物衛生研究所 志村 亀夫 |
食肉と関連する人獣共通感染症には、筋肉を本来の寄生部位とする寄生虫・原虫があり、食物連鎖によって生活環を完了させている。それら以外は、
菌・ウイルス血症などにより病原体が流血中に存在するもの、腸管・筋肉以外の臓器や環境に存在する病原体が食肉処理過程などで付着するものがある。
後者は食中毒の形をとることが多い。これらは全て経口感染で伝播するが、ほとんどは加熱処理によって死滅するので、食肉を加熱調理することによって感染リスクを避けることができる。
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ペットで広がる人獣共通感染症 |
(独)動物衛生研究所 佐藤 国雄 |
ペットとして広く親しまれてきたイヌ、ネコ、小鳥や観賞魚に加え、最近ではリスやプレーリードッグなどのげっ歯類、アライグマ、フェレットやサルなどの中型哺乳類、
トカゲ、カメなどの爬虫類のように従来のペットとは異なるエキゾチックアニマルをペットとして飼育するようになった。これらエキゾチックアニマルは人工的に繁殖されたものでなく、
海外で捕獲された野生動物である場合が多い。野生動物はこれまで国内では知られていないものも含めて多様な人獣共通感染症に感染している可能性がある。
2003年米国で発生したサル痘はまさにこれに該当する人獣共通感染症であった。米国のサル痘防疫対策を中心にペットから広がる人獣共通感染症を概観する。
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日本における検疫体制 |
農林水産省 消費・安全局 辻山 弥生 |
家畜の伝染性疾病の国内侵入防止が、わが国の動物検疫の一義的役割であるが、高病原性鳥インフルエンザなど家畜と関係した人・鳥獣共通感染症については、
検疫の対象としてのみならず、昭和25年以来、イヌの輸出入検疫を実施し、平成12年からは感染症法に基づくサルの輸入検疫を開始するなど、公衆衛生の向上を図る観点から、
そのほかの動物に関係した人・鳥獣共通感染症についても検疫の対象としている。
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