Vol.27 No.7
【特 集】 イネゲノム解析が拓く未来


下記文中の「(独)農・生研機構」は「独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構」の略です。

ゲノムの機能を解明し展開する
(独)農業生物資源研究所    廣近 洋彦
 イネゲノムの概要解読が2002年に終了し、さらに2004年末には機能解明のための完全解読が予定されている。わが国はイネゲノム解読と並行して、 世界に誇る最高レベルの研究資源(リソース)の整備も行っており、これからまさに、これらのリソースをフルに利用して果実の収穫、つまり、 食料生産のキーとなる重要遺伝子の単離・機能解明が可能になる。モデル作物でもあるイネのゲノム機能解析研究は、今後、栽培イネにとどまらず、 野生イネの有用遺伝子発掘やイネ科作物であるコムギやオオムギでの遺伝子単離へと大きな展開が期待されている。
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新しい遺伝子を日本稲に導入する
九州大学大学院 農学研究院    土井 一行・吉村 淳
 多様性に富む遺伝資源を活用したイネ育種を行うためには、有用な遺伝子を探し出し、組み合わせていく必要がある。 筆者らは日印交雑や近縁種との交雑に由来する種々のイネ実験系統を作成し、遺伝資源のポテンシャルを引き出す手法を探ってきた。 QTL解析、DNAマーカーによる選抜、イントログレッション系統の作成、マップベースクローニングなど、ゲノム研究の成果を有用遺伝子の探索と評価に生かすためのケーススタディを紹介する。
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病害虫抵抗性を「遺伝子診断」する
愛知県農業総合試験場    藤井  潔
 水稲育種における病害虫抵抗性の検定は、病気や害虫に対するイネの反応(表現型)を調査する「生物検定」が一般的である。近年、 イネゲノム研究の進展により、抵抗性の本体である抵抗性遺伝子の有無(遺伝子型)をDNAマーカーによって診断できる技術が実用化されつつある。 愛知県農業総合試験場(以下愛知農総試)では穂いもち、イネ縞葉枯病、ツマグロヨコバイ、トビイロウンカに対する抵抗性の「遺伝子診断」技術開発に参画してきた。 「遺伝子診断」は、生物検定と比較して、検定精度が飛躍的に高く、抵抗性がホモ型かヘテロ型かを識別できる場合もある。 遺伝子の有無が表現型により判別しにくい場合や、戻し交雑育種により抵抗性遺伝子を導入する場合などにとくに大きな効果がある。
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イネ開花時期の調節機構解明にむけて
(独)農業生物資源研究所    矢野 昌裕
 近年、ゲノム研究によって生み出された情報や実験材料を活用して、短日植物であるイネの開花時期(出穂期)を決めている遺伝子が次々に単離・同定されてきた。 これらの遺伝子の一部は、長日植物であるシロイヌナズナの開花時期を決めている遺伝子に類似する構造と機能をもつが、 イネ特有の遺伝子の存在も明らかになってきた。これらの研究成果は、短日植物(イネ)と長日植物(シロイヌナズナ)の開花制御機構の違いを明らかにする端緒となる一方、 出穂期を任意にデザインする育種を可能にした。
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草型制御機構の解明と育種的利用
名古屋大学 生物機能開発利用研究センター    芦苅 基行・松岡  信
 世界人口が爆発的に増加している一方、環境汚染や地球温暖化・砂漠化による急激な耕地減少が起っており、発展途上国を中心に慢性的な食糧不足が続いている。 今後このような状況はますます深刻化すると予想され、早急な食糧増産の戦略が必要である。とくに人類の多くのエネルギー源となっている穀物の収量を増加させる育種の重要性は言うまでもない。 収量の増加に関与する重要形質の一つとして草型が挙げられる。草型制御に最も関連する植物ホルモンのジベレリン(以下GAと略する)の分子遺伝学的研究が進展し、 これまで不明であったイネおよびコムギの「緑の革命」品種がなぜ半矮性を示したか、分子レベルで説明できるようになった。ここでは今後の穀物における草型育種へのターゲットとその戦略を明確にしたい。
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国産遺伝子技術を統合したイネ系統を開発する
(独)農・生研機構 中央農業総合研究センター    田中 宥司・川田 元滋
 安心できる国産新遺伝子技術を開発するために、導入遺伝子を可食部で働かせず、イネ遺伝子を使った組換え体の選抜技術を用い、野菜由来の病気に強い遺伝子を用いる、 という発想により、イネ由来の新規選抜マーカー遺伝子、病害抵抗性付与に効果の高いカラシナ由来のディフェンシン遺伝子、 イネ由来のカルス特異的および緑色組織特異的新規プロモーターなどの国産新遺伝子技術を統合して、複合病害抵抗性を示す組換えイネ系統の作出に成功した。 導入遺伝子はカルスもしくは緑葉組織で特異的に発現し、可食部で発現が抑制されることを確認した。
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