Vol.27 No.10
【特 集】 魚介類の増養殖技術は今


わが国における水産物の供給、流通、消費の動向
―養殖業を中心として―
東京海洋大学 海洋科学部    多屋 勝雄
 わが国の水産物需給の30年間を振り返ると,水産物生産は,これまで国際的漁場規制による遠洋漁業生産の後退と,それらの水産物の輸入への変化, 沖合のイワシ,サバ,スケトウダラ,サンマなど小型浮魚の漁獲の大変動,そしてわが国漁業の高労賃による後退が特徴である。 需要は高度経済成長期を通じて拡大してきたが,このため資源に限界のある国内生産では需要に応えることができなくなり,水産物輸入と養殖生産の拡大が起こってきた。 99年のバブル経済以降は,デフレスパイラル現象により,生産者価格が下落し,国内生産者は困難を抱えている。そのため漁業・養殖業者は,食品安全問題もからんで, 消費や市場ニーズに対応した生産,流通体制をどのように構築するか模索が始まっている。
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増養殖における魚介類感染症問題と防除技術の開発
(独)水産総合研究センター 養殖研究所    飯田 貴次
 宿主の拡大や,再興感染症,国外からの新しい感染症の持ち込みなどの新たな問題も生じ,国内で発生している魚介類感染症はかなりの数に上り, 感染症は持続的な養殖生産を阻害する要因の1つとなっている。魚病被害の軽減のためには,病気発生の早期に,迅速で正確にその病気を診断し対策を講じることが重要で, そのための診断技術開発が必須である。ワクチンの使用により,該当する感染症の発生が減少することはすでに実証されており,今後ワクチンそのものの種類を増やすとともに, より効果の高いワクチンを開発する必要がある。
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海産魚類種苗生産用の生物餌料としてのワムシ培養の再構築
(独)水産総合研究センター 能登島栽培漁業センター    桑田 博
 1960年代に始まった海産魚類仔稚魚の大量の種苗生産は,1960年に伊藤が世界で初めて提唱した仔魚飼育用餌料へのシオミズツボワムシの使用を契機として一挙に躍進した。 現在,全国で毎年生産されている約1億8千万尾の放流および養殖用の種苗のほぼ全てが一度はワムシを食べている。このワムシの大量培養法は長い間職人芸的なものであったが, 1990年代に開発された連続培養法により高密度,高効率の培養が実現した。そこで,多様な株や,低水温,および既存の水槽を用いた培養への展開を試みたところ, 低密度ながら安定した大量培養に成功したので,粗放連続培養と命名しワムシ培養の再構築に努めている。
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クロマグロの人工種苗生産技術の現状
(独)水産総合研究センター 奄美栽培漁業センター    升間 主計
 クロマグロは漁業資源としてきわめて重要な魚種である。そのため強い漁獲圧を受けてその資源の減少が懸念されている。平成6年から, クロマグロ資源管理の一環として,栽培漁業の手法を用いて本種の資源増大への取り組みを開始した。これまでに親魚養成,採卵とふ化および種苗生産に関する基礎的, 応用的な技術の開発を行い,1万尾程度の健全種苗を生産できるようになった。しかし,天然資源に見合うマグロ種苗を放流するには,安定的な採卵技術, 共食い防止技術など,多くの解決すべき課題が残されている。
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海産魚の閉鎖循環型養殖技術
(財)電力中央研究所 環境科学研究所    菊池弘太郎
 閉鎖循環型養殖は,陸上施設を用い,同じ飼育水を長期間使用しながら魚類を生産する方式である。自然環境の影響を受けにくく, 水温を始めとする飼育環境の制御が行えることから成長促進ならびに安定生産が可能となり,病気の予防も容易である。当所では,1986年以来,ヒラメ, トラフグを対象とした閉鎖循環型養殖技術の開発を行ってきた。飼育槽,沈殿槽,ドラムスクリーンフィルター,浸漬方式の生物浄化槽,温度調節装置, 酸素発生器と溶入塔,ブロワーならびに紫外線殺菌装置などから構成されるシステムを用いることで,極めて少ない水量で,効率よくヒラメやトラフグが生産できる見通しが得られた。
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ウナギ人工種苗生産技術の開発
(独)水産総合研究センター 養殖研究所    田中 秀樹
 ウナギは飼育下で自然に産卵しない魚であり,その一生には多くの謎が残されているため,人工的に成熟させて受精卵を得ること,ふ化後, 餌を与えて育てること,長期にわたるレプトケファルスと呼ばれる幼生期を経て透明な稚魚,シラスウナギに変態させること,すべてが困難であった。 養殖研究所ではこれまでの研究成果をもとに成熟誘起法を改良するとともに仔魚飼育技術を開発し,世界で初めて人工的にシラスウナギを作り出すことに成功した。 しかし,養殖用種苗として実用化するためには,さらに飛躍的な技術の向上が必要である。
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国産アサリの復活を目指して
(独)水産総合研究センター 瀬戸内海区水産研究所    濱口 昌巳
 潮干狩りなどを通じて日本人になじみの深いアサリであるが,近年,国内での生産量が激減しており,それとともに外国からの輸入が増えている。 輸入されたアサリはそのまま食品としてスーパーなどで販売されるほか,種苗として各地の干潟に放流されている。現在,水産庁では「アサリ資源全国協議会」 (富塚,2004)を設立し,(独)水産総合研究センター,都道府県,大学,民間と共同で,アサリの生産量を増やすため方策を検討している。 そのなかで,国内の沿岸域においてアサリの再生産の機構を解明するとともに,その阻害要因を排除し, 外国種苗に頼ることなくアサリの生産量を増加させるという国産アサリの復活を目指した試みが提案されているので,ここではそれについて解説する。
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